■8月3日の日曜日の早朝、タンクローリーの横転炎上事故で甚大な損傷を受けた首都高5号線の熊野町ジャンクション付近の現場が、10月14日に完全復旧しました。その報道内容は次のようなものでした。
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首都高5号炎上事故から2ヶ月半で全面復旧 被害額は最大45億円
首都高速道路会社は10月14日、首都高5号線で8月3日にガソリンを積んだ大型トレーラーが横転し炎上した事故による被害額は、最大45億円に上る見通しと明らかにした。本年度内に賠償請求額を確定し、事故を起こした群馬県高崎市の多胡運輸に求める方針。
一部通行止めが続いていた5号線は、復旧工事が終わり10月14日、約2カ月ぶりに全面復旧した。首都高速道路会社は当初、全面復旧を11月上旬と見込んでいたが、天候に恵まれたことや工程の工夫で、予定より約1ヶ月早まった。
事故は8月3日に発生。復旧工事では一部を通行止めにしながら、熱でゆがんだ橋げたを40メートルにわたり架け替えた。首都高速道路会社によると、今回の工事は「首都高史上最大の改修」(広報担当者)という。
首都高によると、通行止めがあった8、9月の料金収入は25億円減少。さらに熱でゆがんだ橋げたの掛け替えなどの復旧工事費は20億円となる見込み。
ただ料金収入の減少は、ガソリン高でマイカー利用が減ったなどの要因もあるとみられ、首都高は事故の影響でどれだけ減ったかを精査、請求額を確定する。
記者会見した首都高の佐々木克己社長はガソリン運搬を依頼した荷主にも賠償請求できるかどうかも検討する方針を示した。
事故は8月3日、東京都板橋区の首都高速池袋線下りと中央環状線外回りの合流地点付近で発生。一部区域の通行止めなどで、迂回路の一般道が渋滞し、バス会社や運送業者に打撃を与えた。
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■このニュースの翌日の10月15日(水)午後4時47分に、当会の事務局長の携帯電話に、首都高速道路会社から電話がありました。しかし事務局長はその際、携帯電話を身につけていなかったため、午後6時50分まで気付かずにいました。午後7時前に、電話を入れたところ、首都高速道路からの電話であることを知りました。既に担当者が帰ったとのことで、再度連絡を依頼したところ、翌16日(木)午前8時41分に電話がありました。
既報のとおり、当会では、9月後半に地元で「最近、多胡運輸の代表者が雲隠れしたらしい。18億円の請求が舞い込んだからだ」という非公式情報を入手したため、事実関係を確認すべく、9月28日付けで首都高速道路会社あてに、情報公開請求を行っていました。
請求の内容は「8月3日早朝の首都高速道路熊野町ジャンクション付近のタンクローリー横転炎上事故に起因する貴社の収入減と復旧工事に要した費用のうち、タンクローリーの所有会社に請求することを決めた金額」でした。同社が、この請求情報についてどう判断したのか、事務局長は、携帯電話を耳に押し当て、首都高の回答をじっと待ちました。
■首都高速道路会社の情報開示担当部署は総務・人事部の総務グループだと思っていましたが、電話に出たのは営業部の担当者でした。回答の趣旨は次のとおりです。
1)まだ(多胡運輸への)請求額が決まっていない。従って、請求情報は不存在という扱いになる。
2)不存在という形で通知をすると手数料がかかる。取り下げにするのであれば、頂いた開示請求書を返送したい。
このように、首都高速道路会社では、まだ多胡運輸に請求を出していないことが判明しました。請求を出す時期について、質問したところ、「工事費用については、まだ復旧に伴う工事が残っているので確定していないこと。また、減収分については、燃料高騰による減少要素など、さらに分析を加える必要があるので、未確定であること。復旧工事費が20億円で、減収分が約25億円という数字については、報道でそのような数値だけが先走りしてしまっている感がある」と困惑気味の説明でした。
当会事務局長は、「そういう状況であれば、仕方がないので、異議申立はせずに、取り下げに同意したい。しかし、今後、経過を見てから、再び情報開示の必要があれば、相談させていただくかもしれない」と述べて、「きちんと精査してから、請求できるようになる時期はいつごろか」と質問しました。首都高速道路側は、この質問には答えず、「ホームページなどで、常に状況についてはお知らせしてゆく」との方針を示しました。
■電話での回答と、先に報道された首都高速道路会社の見解などをみると、次のことが推測されます。
8月28日の記者会見で、同社の藤井敏雄常務執行役員は「事故に起因する収入減と復旧工事に要する費用は、タンクローリーの所有会社に請求する」と話しました。当時から、交通量の減少は、天候やガソリン高の影響も勘案して、同社は事故による減少分を精査していたはずです。にもかかわらず、復旧工事が終わって、ほぼ損害額が確定した現時点でも、いまだに、請求をせずに、慎重な対応をしているところをみると、それなりの理由があると見られます。当会は、この理由はやはり多胡運輸を取り巻く特殊環境にあるのではないか、と考えています。
■8月29日の日経BPの報道では、「首都高速道路会社が多胡運輸に損害賠償を請求した場合、多胡運輸が加入している関東交通共済協同組合の共済を使って賠償額を支払うとみられる。ただし、危険物を搭載するタンクローリーの損害保険や共済は、無制限の契約であっても、支払い条件を定めた様々な特約が付くのが一般的。多胡運輸や同組合が首都高速道路会社の請求に対してどこまで応じられるのかどうかは不明」としています。
一方、この事件を報じている数少ないメディアとして、「マガジンX」11月号に、「損害賠償を請求されたら保険会社は支払ってくれるの?」という見出しで、この問題について詳しい記事を掲載しています。
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一説には「100億円にのぼるのではないか」とまで言われ、その巨額の賠償額に注目が集まる首都高速タンクローリー炎上事故。詳しい事故原因は現在(9月14日)も調査中ながら、タンクローリー運転手に過失がある可能性が高いという。そこで、もしこのような事故を一般ドライバーが起こしてしまった場合、このように巨額な賠償金を保険会社が支払ってくれるのかを調査した。
事故以外の請求が多く非常に難しい立証問題
マスコミ各社でも報道されているように、今回の事故による物理的、経済的損失はとんでもない金額になると言われている。もちろん、世間で騒がれているような賠償請求が実際に行われ、それらを支払う義務が生じた場合には恐ろしい金額を支払うことになるのだが、実はこの請求は非常に難しい問題でもある。とくに「通行止めが原因と思われる利用者の減少による売上げの損失」に関しては、過去の高速道路事故においても賠償事例が極めて少ない。これは、請求する側に「損失を受けたことを立証する責任」があり、立証することが非常に難しい問題だからだ。今回の事故においても、お盆時期と重なっていることもあり、現在のクルマ乗り控えの影響なども原因の一つとして考えられる。そうなると、「絶対にこの金鎖が損失額です」という理由付けが困難になってくるのだ。
とはいえ、今回は「実際に保険会社から支払われるのか」ということが課題。それを調査したところ、今回の事例について、某大手保険会社一からは「支払う」という返答を得た。
同社の話しでは、まず事故を起こした場合、当事者には「原状回復義務」というものが発生する。これは事故を起こす前の状態に回復しなければならない責任、つまり事故により物を壊してしまえば元に戻す責任が生じるというもの。対物無制限の任意保険とは、この原状回復義務によって当事者が賠償の責任を負ってしまった場合、それが物であれば、その物損の回復にかかる費用を保険会社で支払います、というものであり、それが例え数十億円であろうと、被保険者に法的に支払う義務が生じた場合は、保険の適用内容と過失割合に応じて支払うという話しであった。
今回の事故のケースを照らし合わせると、微妙な返答があった。それは、事故によって起きた火災に関しての賠償だ。実は自動車保険の多くは、この火災に関して、事故によって起きたとしても保険の適用外となっているケースが多い。簡単に説明すると、火災によって生じた損害は任意保険が適用されない場合がある。事故後、積み荷などが炎上し燃え移ったことによって起きた損害は、対物賠償の対象外になっているのだ。よって、保険会社が「支払う」と言っているのは、事故により直接的に被害の出たものだけ。それ以外、火災などの特殊な二次被害に関しては支払われないと考えて間違いなさそうだ。・・・
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■おそらく、首都高速道路会社も、こうした立証責任をはじめ、多胡運輸の賠償能力等についても、詳しく調べているからこそ、完全復旧としながらも、依然として多胡運輸への対応には慎重になっているのだと思われます。10月14日の記者会見で、同社の佐々木克己社長が「ガソリン運搬を依頼した荷主にも賠償請求できるかどうかも検討する方針」を示したのも、多胡運輸の賠償能力に対する懸念によるものだと思われます。
本来、貨物自動車運送事業法の第26条(事業改善の命令)によれば、「国土交通大臣は、一般貨物自動車運送事業の適正かつ合理的な運営を確保するため必要があると認めるときは、一般貨物自動車運送事業者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。 一、事業計画を変更すること。 二、運送約款を変更すること。三、自動車その他の輸送施設に関し改善措置を講ずること。四、貨物の運送に関し生じた損害を賠償するために必要な金額を担保することができる保険契約を締結すること。 ・・・(以下略)・・・」とあります。
このことから、事業免許の交付を受けている多胡運輸は、貨物運送で生じた損害を賠償するのに必要な金額を担保できる保険契約を締結しているはずです。しかし、首都高速道路会社は、国交省の事業免許が不十分な審査のまま交付されたことを知っているようです。
■ところで、首都高速道路会社が季刊で発行している「ネットウェイ」という広報誌の2008年秋号(第80巻)に、佐々木社長の挨拶が載っています。
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新社長ごあいさつ
平成20年6月27日、首都高速道路株式会社社長に佐々木克己が就任しました。
<Profile:東京都出納長、東京都住宅供給公社理事長などを経て、平成15年6月から首都高速道路公団副理事長、平成17年10月から首都高速道路株式会社専務取締役を歴任。68歳>
民営化後2年半が経過し、ネットワーク整備、機構への賃借料の支払い等、基礎的な経営基盤が整った段階を迎え、当面の重要な課題は距離別料金割への移行です。現在、できる限り早い時期の移行をめざして関係機関と調整中です。
その最中、首都局では過去最大の5号池袋線タンクローリー炎上事故が起き、街路にまで多大のご迷惑をかける事態が生じました。全面復旧までなお時間を要しますが、この事故で改めて首都高の果たす役割の大きさも理解されました。
それゆえ今後一層使いやすく、より愛される首都高であると同時に首都圏の経済・社会を支えつつ、グローバルな都市間競争に打ち勝つ美しい首都高速道路の構築にむけ、努力していかなければと決意しております。
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■新任挨拶で前代未聞の首都高破損の大事故に触れざるを得なかった佐々木社長にとって、また民営化後僅か2年余りでこのような面倒な事件に遭遇した同社にとっても、まことに不運と言わざるを得ませんが、さらに運の悪いことに、事故を起こした運送会社やその元請会社が、一筋縄ではいかない会社であることです。
勿論佐々木社長は、既にそのことはご存知のはずです。もともと天下りですから役所とのパイプも充分お持ちでしょうし、国交省が多胡運輸に出した処分についても、事前に情報を得ていたことでしょう。それだけに、国交省が出した処分の軽さや、世間では100億円は下るまいと予想された賠償額が半分以下だったことなど、早くも、多胡運輸を取り巻くバリアーの存在を強く意識しているのではないか、と推察する声もあります。
どのように多胡運輸及びその元請の運送会社、さらには業務発注元のアポロマークの企業を絡めて、首都高速道路会社が、どのような戦略を立てて、賠償請求をするのかどうか、そして法廷に持ち込んでの争いも視野に入ってくるのか・・・。損害額のツケを税金やユーザー利用料で賄うことのないよう、目の離せない展開が今後待ち受けていることは確かです。当会では、今後のこの問題の行方について、引続き分析予測を行なってまいります。
【ひらく会特別調査班】
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/d8/1dd9102c4ce2ace81a62e48e88992d60.jpg)
写真上:首都高速道路会社の本社がある日土地ビル(霞が関1-4-1)
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首都高5号炎上事故から2ヶ月半で全面復旧 被害額は最大45億円
首都高速道路会社は10月14日、首都高5号線で8月3日にガソリンを積んだ大型トレーラーが横転し炎上した事故による被害額は、最大45億円に上る見通しと明らかにした。本年度内に賠償請求額を確定し、事故を起こした群馬県高崎市の多胡運輸に求める方針。
一部通行止めが続いていた5号線は、復旧工事が終わり10月14日、約2カ月ぶりに全面復旧した。首都高速道路会社は当初、全面復旧を11月上旬と見込んでいたが、天候に恵まれたことや工程の工夫で、予定より約1ヶ月早まった。
事故は8月3日に発生。復旧工事では一部を通行止めにしながら、熱でゆがんだ橋げたを40メートルにわたり架け替えた。首都高速道路会社によると、今回の工事は「首都高史上最大の改修」(広報担当者)という。
首都高によると、通行止めがあった8、9月の料金収入は25億円減少。さらに熱でゆがんだ橋げたの掛け替えなどの復旧工事費は20億円となる見込み。
ただ料金収入の減少は、ガソリン高でマイカー利用が減ったなどの要因もあるとみられ、首都高は事故の影響でどれだけ減ったかを精査、請求額を確定する。
記者会見した首都高の佐々木克己社長はガソリン運搬を依頼した荷主にも賠償請求できるかどうかも検討する方針を示した。
事故は8月3日、東京都板橋区の首都高速池袋線下りと中央環状線外回りの合流地点付近で発生。一部区域の通行止めなどで、迂回路の一般道が渋滞し、バス会社や運送業者に打撃を与えた。
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■このニュースの翌日の10月15日(水)午後4時47分に、当会の事務局長の携帯電話に、首都高速道路会社から電話がありました。しかし事務局長はその際、携帯電話を身につけていなかったため、午後6時50分まで気付かずにいました。午後7時前に、電話を入れたところ、首都高速道路からの電話であることを知りました。既に担当者が帰ったとのことで、再度連絡を依頼したところ、翌16日(木)午前8時41分に電話がありました。
既報のとおり、当会では、9月後半に地元で「最近、多胡運輸の代表者が雲隠れしたらしい。18億円の請求が舞い込んだからだ」という非公式情報を入手したため、事実関係を確認すべく、9月28日付けで首都高速道路会社あてに、情報公開請求を行っていました。
請求の内容は「8月3日早朝の首都高速道路熊野町ジャンクション付近のタンクローリー横転炎上事故に起因する貴社の収入減と復旧工事に要した費用のうち、タンクローリーの所有会社に請求することを決めた金額」でした。同社が、この請求情報についてどう判断したのか、事務局長は、携帯電話を耳に押し当て、首都高の回答をじっと待ちました。
■首都高速道路会社の情報開示担当部署は総務・人事部の総務グループだと思っていましたが、電話に出たのは営業部の担当者でした。回答の趣旨は次のとおりです。
1)まだ(多胡運輸への)請求額が決まっていない。従って、請求情報は不存在という扱いになる。
2)不存在という形で通知をすると手数料がかかる。取り下げにするのであれば、頂いた開示請求書を返送したい。
このように、首都高速道路会社では、まだ多胡運輸に請求を出していないことが判明しました。請求を出す時期について、質問したところ、「工事費用については、まだ復旧に伴う工事が残っているので確定していないこと。また、減収分については、燃料高騰による減少要素など、さらに分析を加える必要があるので、未確定であること。復旧工事費が20億円で、減収分が約25億円という数字については、報道でそのような数値だけが先走りしてしまっている感がある」と困惑気味の説明でした。
当会事務局長は、「そういう状況であれば、仕方がないので、異議申立はせずに、取り下げに同意したい。しかし、今後、経過を見てから、再び情報開示の必要があれば、相談させていただくかもしれない」と述べて、「きちんと精査してから、請求できるようになる時期はいつごろか」と質問しました。首都高速道路側は、この質問には答えず、「ホームページなどで、常に状況についてはお知らせしてゆく」との方針を示しました。
■電話での回答と、先に報道された首都高速道路会社の見解などをみると、次のことが推測されます。
8月28日の記者会見で、同社の藤井敏雄常務執行役員は「事故に起因する収入減と復旧工事に要する費用は、タンクローリーの所有会社に請求する」と話しました。当時から、交通量の減少は、天候やガソリン高の影響も勘案して、同社は事故による減少分を精査していたはずです。にもかかわらず、復旧工事が終わって、ほぼ損害額が確定した現時点でも、いまだに、請求をせずに、慎重な対応をしているところをみると、それなりの理由があると見られます。当会は、この理由はやはり多胡運輸を取り巻く特殊環境にあるのではないか、と考えています。
■8月29日の日経BPの報道では、「首都高速道路会社が多胡運輸に損害賠償を請求した場合、多胡運輸が加入している関東交通共済協同組合の共済を使って賠償額を支払うとみられる。ただし、危険物を搭載するタンクローリーの損害保険や共済は、無制限の契約であっても、支払い条件を定めた様々な特約が付くのが一般的。多胡運輸や同組合が首都高速道路会社の請求に対してどこまで応じられるのかどうかは不明」としています。
一方、この事件を報じている数少ないメディアとして、「マガジンX」11月号に、「損害賠償を請求されたら保険会社は支払ってくれるの?」という見出しで、この問題について詳しい記事を掲載しています。
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一説には「100億円にのぼるのではないか」とまで言われ、その巨額の賠償額に注目が集まる首都高速タンクローリー炎上事故。詳しい事故原因は現在(9月14日)も調査中ながら、タンクローリー運転手に過失がある可能性が高いという。そこで、もしこのような事故を一般ドライバーが起こしてしまった場合、このように巨額な賠償金を保険会社が支払ってくれるのかを調査した。
事故以外の請求が多く非常に難しい立証問題
マスコミ各社でも報道されているように、今回の事故による物理的、経済的損失はとんでもない金額になると言われている。もちろん、世間で騒がれているような賠償請求が実際に行われ、それらを支払う義務が生じた場合には恐ろしい金額を支払うことになるのだが、実はこの請求は非常に難しい問題でもある。とくに「通行止めが原因と思われる利用者の減少による売上げの損失」に関しては、過去の高速道路事故においても賠償事例が極めて少ない。これは、請求する側に「損失を受けたことを立証する責任」があり、立証することが非常に難しい問題だからだ。今回の事故においても、お盆時期と重なっていることもあり、現在のクルマ乗り控えの影響なども原因の一つとして考えられる。そうなると、「絶対にこの金鎖が損失額です」という理由付けが困難になってくるのだ。
とはいえ、今回は「実際に保険会社から支払われるのか」ということが課題。それを調査したところ、今回の事例について、某大手保険会社一からは「支払う」という返答を得た。
同社の話しでは、まず事故を起こした場合、当事者には「原状回復義務」というものが発生する。これは事故を起こす前の状態に回復しなければならない責任、つまり事故により物を壊してしまえば元に戻す責任が生じるというもの。対物無制限の任意保険とは、この原状回復義務によって当事者が賠償の責任を負ってしまった場合、それが物であれば、その物損の回復にかかる費用を保険会社で支払います、というものであり、それが例え数十億円であろうと、被保険者に法的に支払う義務が生じた場合は、保険の適用内容と過失割合に応じて支払うという話しであった。
今回の事故のケースを照らし合わせると、微妙な返答があった。それは、事故によって起きた火災に関しての賠償だ。実は自動車保険の多くは、この火災に関して、事故によって起きたとしても保険の適用外となっているケースが多い。簡単に説明すると、火災によって生じた損害は任意保険が適用されない場合がある。事故後、積み荷などが炎上し燃え移ったことによって起きた損害は、対物賠償の対象外になっているのだ。よって、保険会社が「支払う」と言っているのは、事故により直接的に被害の出たものだけ。それ以外、火災などの特殊な二次被害に関しては支払われないと考えて間違いなさそうだ。・・・
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■おそらく、首都高速道路会社も、こうした立証責任をはじめ、多胡運輸の賠償能力等についても、詳しく調べているからこそ、完全復旧としながらも、依然として多胡運輸への対応には慎重になっているのだと思われます。10月14日の記者会見で、同社の佐々木克己社長が「ガソリン運搬を依頼した荷主にも賠償請求できるかどうかも検討する方針」を示したのも、多胡運輸の賠償能力に対する懸念によるものだと思われます。
本来、貨物自動車運送事業法の第26条(事業改善の命令)によれば、「国土交通大臣は、一般貨物自動車運送事業の適正かつ合理的な運営を確保するため必要があると認めるときは、一般貨物自動車運送事業者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。 一、事業計画を変更すること。 二、運送約款を変更すること。三、自動車その他の輸送施設に関し改善措置を講ずること。四、貨物の運送に関し生じた損害を賠償するために必要な金額を担保することができる保険契約を締結すること。 ・・・(以下略)・・・」とあります。
このことから、事業免許の交付を受けている多胡運輸は、貨物運送で生じた損害を賠償するのに必要な金額を担保できる保険契約を締結しているはずです。しかし、首都高速道路会社は、国交省の事業免許が不十分な審査のまま交付されたことを知っているようです。
■ところで、首都高速道路会社が季刊で発行している「ネットウェイ」という広報誌の2008年秋号(第80巻)に、佐々木社長の挨拶が載っています。
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新社長ごあいさつ
平成20年6月27日、首都高速道路株式会社社長に佐々木克己が就任しました。
<Profile:東京都出納長、東京都住宅供給公社理事長などを経て、平成15年6月から首都高速道路公団副理事長、平成17年10月から首都高速道路株式会社専務取締役を歴任。68歳>
民営化後2年半が経過し、ネットワーク整備、機構への賃借料の支払い等、基礎的な経営基盤が整った段階を迎え、当面の重要な課題は距離別料金割への移行です。現在、できる限り早い時期の移行をめざして関係機関と調整中です。
その最中、首都局では過去最大の5号池袋線タンクローリー炎上事故が起き、街路にまで多大のご迷惑をかける事態が生じました。全面復旧までなお時間を要しますが、この事故で改めて首都高の果たす役割の大きさも理解されました。
それゆえ今後一層使いやすく、より愛される首都高であると同時に首都圏の経済・社会を支えつつ、グローバルな都市間競争に打ち勝つ美しい首都高速道路の構築にむけ、努力していかなければと決意しております。
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■新任挨拶で前代未聞の首都高破損の大事故に触れざるを得なかった佐々木社長にとって、また民営化後僅か2年余りでこのような面倒な事件に遭遇した同社にとっても、まことに不運と言わざるを得ませんが、さらに運の悪いことに、事故を起こした運送会社やその元請会社が、一筋縄ではいかない会社であることです。
勿論佐々木社長は、既にそのことはご存知のはずです。もともと天下りですから役所とのパイプも充分お持ちでしょうし、国交省が多胡運輸に出した処分についても、事前に情報を得ていたことでしょう。それだけに、国交省が出した処分の軽さや、世間では100億円は下るまいと予想された賠償額が半分以下だったことなど、早くも、多胡運輸を取り巻くバリアーの存在を強く意識しているのではないか、と推察する声もあります。
どのように多胡運輸及びその元請の運送会社、さらには業務発注元のアポロマークの企業を絡めて、首都高速道路会社が、どのような戦略を立てて、賠償請求をするのかどうか、そして法廷に持ち込んでの争いも視野に入ってくるのか・・・。損害額のツケを税金やユーザー利用料で賄うことのないよう、目の離せない展開が今後待ち受けていることは確かです。当会では、今後のこの問題の行方について、引続き分析予測を行なってまいります。
【ひらく会特別調査班】
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/d8/1dd9102c4ce2ace81a62e48e88992d60.jpg)
写真上:首都高速道路会社の本社がある日土地ビル(霞が関1-4-1)
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