■東邦亜鉛の記事が久しぶりに地元紙に掲載されました。非鉄スラグの不法投棄がまたもや発覚か?と思いきや、6月29日に開催予定の同社第122回定時株主総会を前に、予め株主に課題と中期計画方針などを伝えておこうと、東邦亜鉛が6月2日に第12次中期3カ年計画の説明動画を配信するのに際して、マスコミに情報をリリースしたものです。地元紙の報道内容をまずは見てみましょう。
**********上毛新聞2021年06月01日06:00
ZIP ⇒ 20210601.zip
東邦亜鉛、安中の焙焼炉休止 来春までに、雇用は維持
↑22年3月までに再編される東邦亜鉛安中製錬所=31日↑
群馬県安中市に製錬所を持つ東邦亜鉛(東京都千代田区、丸崎公康社長)は2022年3月までに亜鉛製錬事業を再編し、安中製錬所(安中市中宿)の焙焼炉の稼働を止める。鉱石を加熱する焙焼工程を小名浜製錬所(福島県いわき市)に集約し、安中製錬所は純度の高い製品を作るための電気分解工程を受け持つ。生産体制見直しによるコスト改善が目的で、安中製錬所の230人の雇用は維持する。
同社によると、現在は小名浜製錬所で鉱石の3分の2を焼き、残りを未焙焼のまま安中に輸送しているが、22年までに全ての焙焼を小名浜で行い、その後安中で電解する体制にする。安中製錬所には現在、焙焼炉1基と電解設備2基があるが、電解設備1基を残して稼働を止める。
担当者によると、安中の従業員230人の大半が焙焼関連で働く。再編に伴い、同製錬所の他部署や県内の他事業所などに配置転換し、雇用は維持するという。
同社は5月中旬に発表した第12次中期3カ年計画(21~23年度)で、収益構造改善に向けた取り組みとして製錬工程の合理化を掲げていた。国内市場の縮小に対応するためのコスト改善と市況リスクへの耐性構築が理由だという。担当者は「年間8万51000トンの生産量はいじし、コスト改善で収益を確保したい」としている。
安中製錬所はかつて排水とばい煙によって農業被害が発生し、地元住民が同社に補償を求める公害訴訟(1986年に和解成立)に発展した。現在は蒸気の立ち上る様子が国道などから確認でき、「工場萌え」と言われる工場景観の愛好家の間で人気を集めている。担当者は「焙焼炉以外の設備は再編後も稼働しているので、工場の景観に大きな変化はない」としている。
(寺島努)
これに先立ち日本経済新聞も同様の内容の記事を前日の5月31日に報じました。
**********日本経済新聞2021年5月31日2:00
東邦亜鉛、製錬事業を再編 群馬で焙焼炉など休止
↑生産体制を見直して収益力の向上を狙う(群馬県安中市の安中製錬所)↑
東邦亜鉛は亜鉛製錬事業を再編する。2022年3月までに安中製錬所(群馬県安中市)にある鉱石を加熱する焙焼(ばいしょう)炉などを休止し、焙焼工程を小名浜製錬所(福島県いわき市)に集約する。自動車用鋼板の加工などに使う亜鉛製品は国内市場の大きな伸びが見込めない。生産体制を見直してコスト改善を目指す。
同社は亜鉛製品の国内シェア20%を持つ大手メーカー。亜鉛は焙焼炉で鉱石から硫黄分を除去した後に、電気分解で亜鉛分を抽出して高純度の製品をつくる。安中製錬所には焙焼炉1基と電解設備が2基あり、22年3月までに1基ずつ止める。従業員約230人の雇用は維持する方針で、配置転換などで対応する。
今後は小名浜で焙焼工程、安中で電解工程を分担する。生産体制の見直し後は設備の稼働率を引き上げて、年間生産量を8万5千トンと21年3月期と同等の水準を維持する計画だ。
製錬事業の再編に踏み切る背景に国内市場の伸び悩みに加え、収益基盤の不安定さがある。製錬事業は市況の影響を受けやすく、21年3月期の営業損益は57億円の黒字を確保したが、亜鉛市況が悪化した19年3月期から2期連続の赤字だった。
製錬は同社の連結売上高の約8割を稼ぐ主力事業。5月に公表した24年3月期までの3カ年の中期経営計画では製錬事業の基盤強化を盛り込み、年20億円強の営業利益を安定的に稼げる体制づくりを進めている。
**********
■昨年はコロナ禍の為、例年より4か月半遅れの8月22日に実施された東邦亜鉛安中製錬所の工場視察会では、同所製造部長は「当安中製錬所では、亜鉛地金、亜鉛合金、硫酸、粉末冶金など焼結部品などを生産しております。主力製品である亜鉛は、年間およそ14万トン、月に1万トンの生産能力を超え、国内の約20%のシェアを持っております」と説明していました。それが実際には、2020年度のカソード亜鉛(電解亜鉛)の8万4200トンに留まったことが、令和3年5月17日に発表された同社の第12次中期3カ年計画で明らかにされました。
※東邦亜鉛第12次中期3カ年計画(2021年度~2023年度) ZIP ⇒ 210517_pre_dl2123jnv.zip
今回の報道は、この第12次中計の内容に基づくものですが、安中製錬所における亜鉛製錬能力は、安中公害問題の端緒となった強引な設備増強計画により、それまで5万5200トンであったのが1968年には年産13万9200トンへと約2倍半に引き上げられ、以来、この能力を維持しています。
■ところが、第12次中計では、少なくとも今後3年間は亜鉛生産を年産8万5000トンに抑えることを表明しています。つまり、設備能力の約6割の稼働ということになります。
製造業の場合、製造設備は稼働率を上げることにより、効率的な運用ができるわけですが、報道によると、東邦亜鉛では「安中製錬所には焙焼炉1基と電解設備が2基あり、22年3月までに1基ずつ止める」とあります。
焙焼炉では、亜鉛鉱石に半分程度含まれる硫黄が燃焼により除去され、その際に燃焼によって亜硫酸ガスが発生します。筆者が今から60年余り前に、安中製錬所の脇にあった山道を下って、信越線の反対側にある幼稚園に通うため、毎日通園していたときに、北西の風で、焙焼炉から漏れ出る黄色い亜硫酸ガスにまかれ、あやうく窒息しそうになり、地面に顔を付けるようにしながら、山道を上り下りしたことが頻繁に起こりました。
■亜鉛製錬の場合、閃亜鉛鉱(ZnS)を主成分とする亜鉛精鉱を、流動焙焼によって「焼鉱」と呼ばれる酸化亜鉛(ZnO)にし、これを電解尾液で浸出させた後、電解工場で電解亜鉛が製造されます。
亜鉛の「精鉱」は、豪州の鉱山で原鉱石を粉砕して、浮遊選鉱法で亜鉛の含有量が調整されたものです。これには硫黄が含まれているため、酸化反応(燃焼)によって亜硫酸ガス(SO2)を発生し、これを硫酸工場に導いて硫酸を製造しています。
流動焙焼炉では、炉内温度を1000度以下に制御して、亜鉛精鉱に含まれる鉄分がフェライト化しないようにしており、安中製錬所の場合も焙焼温度を940度C前後に設定しています。
「精鉱」に対して、焙焼工程を経た「焼鉱」は、精鉱粒子が焙焼工程で互いに融着するため、精鉱に比べると焼鉱の粒度は精鉱に比べてかなり大きくなります。また、焼鉱の残留違法分は2%程度です。
■安中製錬所の焙焼炉は、かつて筆者が幼稚園児の頃、しょっちゅう黄色い煙を発していた当時は、バッチ式でした。これは密閉型の炉ではなかったため、創業の過程で黄色い亜硫酸ガスを周囲に垂れ流していたもので、今から考えると想像を絶する酷さだったわけです。なお、当時のバッチ式焙焼炉は今でも撤去されずに残されており、ロータリーキルンに行く途中、通路脇に古びた姿を見ることができます。
その後、湿式給鉱のドル式流動焙焼炉に変更され、黄色い亜硫酸ガスの垂れ流しはなくなりました。さらに1980年に、省エネルギー対策として乾式給鉱炉に改造し、蒸気発生量を8t/hから10.5t/hに増加させました。その後、更に焼鉱顕熱の回収のために流動クーラーを設置することで、ボイラ用給水の予熱や、炉内温度調整のためのクーリングコイルを設置する等して、12t/h(現在は13t/h)の蒸気が回収されています。
この蒸気は、これを所内の製錬工程や福利厚生施設の熱源としてのほか、背圧タービンによる発電を実施し、毎時565kwの電力を得ています。
■今回の報道によると、この流動焙焼炉の運転を休止するとあります。「休止」というからには、設備を温存し、いずれまた稼働させるつもりもあることになります。
また、報道では「安中製錬所は純度の高い製品を作るための電気分解工程を受け持つ。生産体制見直しによるコスト改善が目的で、安中製錬所の230人の雇用は維持する。同社によると、現在は小名浜製錬所で鉱石の3分の2を焼き、残りを未焙焼のまま安中に輸送しているが、22年までに全ての焙焼を小名浜で行い、その後安中で電解する体制にする。安中製錬所には現在、焙焼炉1基と電解設備2基があるが、電解設備1基を残して稼働を止める。担当者によると、安中の従業員230人の大半が焙焼関連で働く。再編に伴い、同製錬所の他部署や県内の他事業所などに配置転換し、雇用は維持するという。」とあります。
そうすると、これまで小名浜から毎日「安中貨物」と呼ばれる貨物列車で運ばれていた粉体の亜鉛精鉱を専用で運ぶ無蓋貨車12両は、今年度限りで不要と言うことになります。
↑JR貨物のトキ25000形無蓋貨車。積載重量40トン。亜鉛精鉱専用↑
一方、小名浜から安中製錬所に搬入される亜鉛原料の3分の2を占める粒体の焼鉱の輸送には、同じくJR貨物のタキ1200形タンク車20両が使用されていますが、これは、そのまま継続して使用されることになります。
↑JR貨物のタキ1200形タンク車。積載重量40.3トン。亜鉛焼鉱専用↑
■亜鉛生産量を年間8万5千トンにすることで、小名浜からは今後は焼鉱のみの輸送となると、来年度から安中貨物では、長年目にしてきた無蓋貨車が姿を消すことになります。すると、東邦亜鉛安中製錬所のもっとも高台にある精鉱鉱舎は不要になります。さらに、焙焼炉の運転を止めるとなると、焙焼工程で生じた亜硫酸ガスを使って硫酸を作るための硫酸工場も稼働できなくなります。
亜鉛精鉱の酸化(燃焼)による副産物として発生する硫酸は、焙焼炉から送られてくる亜鉛焼鉱を溶解槽で溶かすための希硫酸 (電解尾液) として必要になります。
ZnO + H2SO4 → ZnSO4 + H2O
このとき、焼鉱に含まれる鉄などの一部も溶解するので、マンガンや石灰等を加えてこれらの不純物を沈殿させ除去します。
FeO +添加剤 → Fe2O3 (沈殿)
こうした一連のプロセスでは、亜鉛を十分に溶解させ、かつ、不純物をできるだけ多く沈殿させるためにpHを一定の値に管理して行う必要があります。浸出液は,その後,フィルタプレスで不純物が濾過され,浄液となって電解槽に送られます。この電解槽で,電気亜鉛が作られます。
■したがって、安中製錬所が小名浜から焼鉱のみ搬入するとなると、それまで亜鉛精鉱の焙焼の副産物として製造していた硫酸を外部から調達しなければならなくなります。
今後は、安中貨物により、小名浜から濃硫酸を運ぶためのタンク車が新たに加わることになるかもしれません。なお、電解尾液の希硫酸は、電解後、どの程度再利用されるのかどうか、東邦亜鉛に訊いてみないとわかりません。
こうして、安中製錬所にとって、これまで小名浜から運び込まれる原料の亜鉛鉱石の3分の1を占めていた亜鉛精鉱がなくなることは、操業に大きな変化をもたらすことは必至です。
しかし、新聞報道にある「担当者によると、安中の従業員230人の大半が焙焼関連で働く。再編に伴い、同製錬所の他部署や県内の他事業所などに配置転換し、雇用は維持するという」記事は、意味がよくわかりません。製錬所は設備産業ですから、自動化による省力化が進められており、安中製錬所でも新電解工場では、クレーンオペレーターが交替勤務しているだけで、汚れ仕事はみな協力業者と呼ばれる下請にやらせており、安中製錬所の230人の従業員のうち、焙焼関連に大半が従事しているとも思えず、また、他の製造部門への配置転換にしても限定的に留まります。となれば、県内の他事業所である藤岡事業所か、関連会社への異動しか考えられません。
■いずれにしても、これまで従業員数は縮小してきたものの、亜鉛製錬については、生産量は市場により多少増減はありましたが、今回のように生産能力を4割減とする思い切った合理化は記憶にありません。
亜鉛の生産量が減少すれば、当然、非鉄スラグの排出量も減り、降下煤塵や排水中の有害物質の絶対量も減少することになります。製錬所周辺の大気、水、土壌を汚染し続け、さらに騒音(とくにロータリーキルンなどの送風機の音がうるさい)をまき散らしてきた安中製錬所ですが、今後の操業縮小により、どの程度、周辺環境への負荷も縮小されるのかどうか、注意深くモニターしてまいる所存です。
【北野殿公害対策委員会からの報告】
※参考情報「最近の東邦亜鉛絡みの報道」
**********日経2021年5月14日 2:00
東邦亜鉛人事異動(6月29日)
取締役、中川有紀子
同、大坂周作
専務執行役員技術・開発本部長兼金属・リサイクル事業構造改革担当(常務執行役員亜鉛・鉛事業本部長兼機器部品事業部長兼環境・リサイクル事業部担当)田島義巳
電子部材事業部長兼機能材料事業部担当(電子部品事業本部長兼電子部品事業部長)常務執行役員藤岡事業所長伊藤正人
常務執行役員(執行役員)総務本部長兼総務兼CSR推進室長大久保浩
資材調達(資材統括部長)執行役員資源事業部長中川英樹
機器部品事業部担当、執行役員安中製錬所長森田英治
執行役員、有本龍平
同、小名浜製錬所長高橋康司
同金属・リサイクル事業部長(亜鉛・鉛事業本部副本部長兼環境・リサイクル事業部長)リサイクル営業・佐藤義和
機能材料事業部営業、荻野靖宏
技術・開発本部カーボンニュートラル推進室長、技術兼知的財産・竹内信登
機器部品事業部長、電子部材事業部プレーティングユニット長中村雅之
技術・開発本部設備企画、浜崎勝司
電子部材事業部営業(電子部品事業本部営業)林武彦
**********日刊産業新聞2021年5月13日
東邦亜鉛 財務健全化を最優先
東邦亜鉛は13日、2021年4月始まりの第12次中期3カ年計画で、財務体質の健全化を最優先すると発表した。同日公表の10年ビジョン(10年後のありたい姿)への最初の3年間と位置づけ、フリーキャッシュフローの安定黒字化を図る。製錬・資源事業での市況リスクの適正化、川下事業の強化、製錬事業の基盤強化の3点を具体的に推し進める。
**********株探ニュース2021年5月13日15:24
【決算速報】東邦鉛、今期経常は17%減益へ
東邦亜鉛 <5707> が5月13日大引け後(15:00)に決算を発表。21年3月期の連結経常損益は54.1億円の黒字(前の期は144億円の赤字)に浮上したが、22年3月期の同利益は前期比17.0%減の45億円に減る見通しとなった。
直近3ヵ月の実績である1-3月期(4Q)の連結経常損益は20億円の黒字(前年同期は81.5億円の赤字)に浮上し、売上営業損益率は前年同期の-32.5%→9.6%に急改善した。
<現在値>
東邦鉛 2,024 +1
三井金 3,165 -5
DOWAH 4,475 -80
三菱マ 2,299 -6
住友鉱 4,907 -71
**********株探ニュース2021年05月11日19時30分
【特集】非鉄株「スーパーサイクル」突入へ、グリーン投資拡大で一斉蜂起 <株探トップ特集>
世界的な環境投資の流れは、非鉄株には追い風。コモディティー関連株のなかでも、環境重視の潮流が逆風となる石油株から非鉄株へと投資先を乗り換える動きも見込まれている。
―銅価格は史上最高値に上昇、供給不足も意識され長期的な株高局面に―
非鉄価格が上昇基調を強めている。この背景には、中国や米国の景気回復期待によるベースメタルである銅やアルミニウムなどへの需要拡大観測がある。特に、電気自動車(EV)などの生産には大量の銅やアルミなどが使われるとみられていることも追い風で、いまや非鉄市況は「スーパーサイクル」に突入したとの観測も強まっている。このなか、非鉄関連株には一段高期待が膨らんでいる。
●銅など商品市場に投資資金が大量流入
足もとで銅価格が急上昇している。ロンドン金属取引所(LME)の銅3ヵ月物は7日に1トン=1万400ドル前後に上昇。2011年2月の最高値(1万190ドル)を10年ぶりに更新した。10日には1万700ドル台へと上昇しており、年初の時点では8000ドル近辺にあっただけに、この半年弱で3割強の上昇を演じている。
銅価格上昇の要因となっているのが、最大の需要国である中国の景気回復に加え、新型コロナウイルスワクチンの接種拡大に伴う米国の経済再開期待と大規模な財政政策による銅需要の回復観測だ。更に、米国の大規模な財政出動とゼロ金利政策であふれた大量の資金が、格好の投資先として銅などコモディティー(商品)市場に流れ込んでいるとの見方は強い。
●コロナ禍で生産増難しくタイトな需給状況は続く
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至主任研究員は、「銅価格は目先的には1万ドル乗せで達成感からの一服があるかもしれない。しかし、EVの普及など環境投資拡大の追い風もあり、中長期的には一段の上昇はあり得るだろう」と今後の展開を予想する。
EV1台当たりの銅の使用量はガソリン車の3~4倍に膨らむとの試算もあるほか、EV充電スタンドや風力タービン向けなどグリーンエネルギー関連に銅需要が増加するとの期待が強い。更に、需要が高まる一方で大幅な供給増の見通しは立たない。世界的にみて近年は新たな有望な銅鉱山は見つかっていないことに加え、コロナ禍のなか労働者の感染対策のため銅鉱山での産出量を増やすことは難しい状態となっている。このため「銅市況は先行きの供給不足も意識する状況」(芥田氏)にある。
●グリーンマネーの流入が長期市況上昇を招く
そんななか、市場で高まるのが銅を中心とした非鉄市況が「スーパーサイクル」に突入したとの観測だ。非鉄関連では2000年前半から11年頃にかけてBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)と呼ばれる新興国の経済成長を背景に市況が長期上昇した。
今回は、世界的な景気回復期待に加え環境投資の拡大を視野に入れた「グリーンマネー」の流入が非鉄市況の上昇を支えている。市況の上昇は銅に限らずニッケルやアルミなどにも広がっている。ニッケルはEVの電池材料向けへの需要に対する期待から今年2月には1トン=1万9000ドル台と14年9月以来の水準に上昇した。その後、いったん下落したが、4月下旬以降は再び上昇基調を強めている。
●アルミは中国の環境規制で需給引き締まる
アルミは足もとで1トン=2500ドル近辺と18年春以来、約3年ぶりの高値水準に上昇している。年初からは2割強の値上がりだ。アルミもEVの軽量化に絡んで需要増期待が強いが、更に中国の環境規制がアルミ市況の上昇要因となるとの見方がある。アルミの生産では大量の電気が必要とされるが、中国は60年までに「二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロ」を目指しており、これまでのようにアルミ生産でCO2排出量の大きい石炭火力発電による電気をふんだんに使うことは難しくなるとみられている。このためアルミの需給は中長期的な引き締まりも予想されている。
コモディティー市場のなかの投資配分も、世界的なCO2削減の潮流が逆風となる石油に対して、非鉄はEV向けなどのグリーン投資の需要増が見込めるため、石油に向かっていた投資資金が非鉄に流れてくるともみられている。今後、環境投資を意識したマネーは非鉄株に向かっていくことが予想される。
●アサヒHD、松田産業、アサカ理研、黒谷など
個別銘柄でまず注目されるのは、大手非鉄の住友金属鉱山 <5713> や三菱マテリアル <5711> 、DOWAホールディングス <5714> などだ。住友鉱の決算は前期に続き、今期も増配が予定されるなど堅調。全体相場が落ち着けば、大手非鉄株には見直し買いが期待できる。また、ニッケル関連で大平洋金属 <5541> 、亜鉛で東邦亜鉛 <5707> 、アルミ関連で日本軽金属ホールディングス <5703> やUACJ <5741> なども活躍が見込める。
また、貴金属リサイクルを手掛けるアサヒホールディングス <5857> やアサカ理研 <5724> [JQ]、松田産業 <7456> などにとっては銅価格などの上昇は追い風。加えて非鉄金属加工の黒谷 <3168> や黄銅棒・線材の日本伸銅 <5753> [東証2]、それに非鉄金属商社の白銅 <7637> 、銅鉱石などの探査・開発を手掛ける日鉄鉱業 <1515> 、レアメタルなどを手掛けるアルコニックス <3036> などに注目したい。
**********日刊産業新聞2021年4月5日
東邦亜鉛 亜鉛生産8%増、鉛は減少
東邦亜鉛は2日、2021年4―9月期の亜鉛生産計画を前年同期比8・1%増の4万4100トン、鉛を1・1%減の4万7900トンと発表した。亜鉛の増加は前年同期の生産調整からの反動による。鉛は例年並みの計画値とする。同社は電気鉛の国内生産首位。
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**********上毛新聞2021年06月01日06:00
ZIP ⇒ 20210601.zip
東邦亜鉛、安中の焙焼炉休止 来春までに、雇用は維持
↑22年3月までに再編される東邦亜鉛安中製錬所=31日↑
群馬県安中市に製錬所を持つ東邦亜鉛(東京都千代田区、丸崎公康社長)は2022年3月までに亜鉛製錬事業を再編し、安中製錬所(安中市中宿)の焙焼炉の稼働を止める。鉱石を加熱する焙焼工程を小名浜製錬所(福島県いわき市)に集約し、安中製錬所は純度の高い製品を作るための電気分解工程を受け持つ。生産体制見直しによるコスト改善が目的で、安中製錬所の230人の雇用は維持する。
同社によると、現在は小名浜製錬所で鉱石の3分の2を焼き、残りを未焙焼のまま安中に輸送しているが、22年までに全ての焙焼を小名浜で行い、その後安中で電解する体制にする。安中製錬所には現在、焙焼炉1基と電解設備2基があるが、電解設備1基を残して稼働を止める。
担当者によると、安中の従業員230人の大半が焙焼関連で働く。再編に伴い、同製錬所の他部署や県内の他事業所などに配置転換し、雇用は維持するという。
同社は5月中旬に発表した第12次中期3カ年計画(21~23年度)で、収益構造改善に向けた取り組みとして製錬工程の合理化を掲げていた。国内市場の縮小に対応するためのコスト改善と市況リスクへの耐性構築が理由だという。担当者は「年間8万51000トンの生産量はいじし、コスト改善で収益を確保したい」としている。
安中製錬所はかつて排水とばい煙によって農業被害が発生し、地元住民が同社に補償を求める公害訴訟(1986年に和解成立)に発展した。現在は蒸気の立ち上る様子が国道などから確認でき、「工場萌え」と言われる工場景観の愛好家の間で人気を集めている。担当者は「焙焼炉以外の設備は再編後も稼働しているので、工場の景観に大きな変化はない」としている。
(寺島努)
これに先立ち日本経済新聞も同様の内容の記事を前日の5月31日に報じました。
**********日本経済新聞2021年5月31日2:00
東邦亜鉛、製錬事業を再編 群馬で焙焼炉など休止
↑生産体制を見直して収益力の向上を狙う(群馬県安中市の安中製錬所)↑
東邦亜鉛は亜鉛製錬事業を再編する。2022年3月までに安中製錬所(群馬県安中市)にある鉱石を加熱する焙焼(ばいしょう)炉などを休止し、焙焼工程を小名浜製錬所(福島県いわき市)に集約する。自動車用鋼板の加工などに使う亜鉛製品は国内市場の大きな伸びが見込めない。生産体制を見直してコスト改善を目指す。
同社は亜鉛製品の国内シェア20%を持つ大手メーカー。亜鉛は焙焼炉で鉱石から硫黄分を除去した後に、電気分解で亜鉛分を抽出して高純度の製品をつくる。安中製錬所には焙焼炉1基と電解設備が2基あり、22年3月までに1基ずつ止める。従業員約230人の雇用は維持する方針で、配置転換などで対応する。
今後は小名浜で焙焼工程、安中で電解工程を分担する。生産体制の見直し後は設備の稼働率を引き上げて、年間生産量を8万5千トンと21年3月期と同等の水準を維持する計画だ。
製錬事業の再編に踏み切る背景に国内市場の伸び悩みに加え、収益基盤の不安定さがある。製錬事業は市況の影響を受けやすく、21年3月期の営業損益は57億円の黒字を確保したが、亜鉛市況が悪化した19年3月期から2期連続の赤字だった。
製錬は同社の連結売上高の約8割を稼ぐ主力事業。5月に公表した24年3月期までの3カ年の中期経営計画では製錬事業の基盤強化を盛り込み、年20億円強の営業利益を安定的に稼げる体制づくりを進めている。
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■昨年はコロナ禍の為、例年より4か月半遅れの8月22日に実施された東邦亜鉛安中製錬所の工場視察会では、同所製造部長は「当安中製錬所では、亜鉛地金、亜鉛合金、硫酸、粉末冶金など焼結部品などを生産しております。主力製品である亜鉛は、年間およそ14万トン、月に1万トンの生産能力を超え、国内の約20%のシェアを持っております」と説明していました。それが実際には、2020年度のカソード亜鉛(電解亜鉛)の8万4200トンに留まったことが、令和3年5月17日に発表された同社の第12次中期3カ年計画で明らかにされました。
※東邦亜鉛第12次中期3カ年計画(2021年度~2023年度) ZIP ⇒ 210517_pre_dl2123jnv.zip
今回の報道は、この第12次中計の内容に基づくものですが、安中製錬所における亜鉛製錬能力は、安中公害問題の端緒となった強引な設備増強計画により、それまで5万5200トンであったのが1968年には年産13万9200トンへと約2倍半に引き上げられ、以来、この能力を維持しています。
■ところが、第12次中計では、少なくとも今後3年間は亜鉛生産を年産8万5000トンに抑えることを表明しています。つまり、設備能力の約6割の稼働ということになります。
製造業の場合、製造設備は稼働率を上げることにより、効率的な運用ができるわけですが、報道によると、東邦亜鉛では「安中製錬所には焙焼炉1基と電解設備が2基あり、22年3月までに1基ずつ止める」とあります。
焙焼炉では、亜鉛鉱石に半分程度含まれる硫黄が燃焼により除去され、その際に燃焼によって亜硫酸ガスが発生します。筆者が今から60年余り前に、安中製錬所の脇にあった山道を下って、信越線の反対側にある幼稚園に通うため、毎日通園していたときに、北西の風で、焙焼炉から漏れ出る黄色い亜硫酸ガスにまかれ、あやうく窒息しそうになり、地面に顔を付けるようにしながら、山道を上り下りしたことが頻繁に起こりました。
■亜鉛製錬の場合、閃亜鉛鉱(ZnS)を主成分とする亜鉛精鉱を、流動焙焼によって「焼鉱」と呼ばれる酸化亜鉛(ZnO)にし、これを電解尾液で浸出させた後、電解工場で電解亜鉛が製造されます。
亜鉛の「精鉱」は、豪州の鉱山で原鉱石を粉砕して、浮遊選鉱法で亜鉛の含有量が調整されたものです。これには硫黄が含まれているため、酸化反応(燃焼)によって亜硫酸ガス(SO2)を発生し、これを硫酸工場に導いて硫酸を製造しています。
流動焙焼炉では、炉内温度を1000度以下に制御して、亜鉛精鉱に含まれる鉄分がフェライト化しないようにしており、安中製錬所の場合も焙焼温度を940度C前後に設定しています。
「精鉱」に対して、焙焼工程を経た「焼鉱」は、精鉱粒子が焙焼工程で互いに融着するため、精鉱に比べると焼鉱の粒度は精鉱に比べてかなり大きくなります。また、焼鉱の残留違法分は2%程度です。
■安中製錬所の焙焼炉は、かつて筆者が幼稚園児の頃、しょっちゅう黄色い煙を発していた当時は、バッチ式でした。これは密閉型の炉ではなかったため、創業の過程で黄色い亜硫酸ガスを周囲に垂れ流していたもので、今から考えると想像を絶する酷さだったわけです。なお、当時のバッチ式焙焼炉は今でも撤去されずに残されており、ロータリーキルンに行く途中、通路脇に古びた姿を見ることができます。
その後、湿式給鉱のドル式流動焙焼炉に変更され、黄色い亜硫酸ガスの垂れ流しはなくなりました。さらに1980年に、省エネルギー対策として乾式給鉱炉に改造し、蒸気発生量を8t/hから10.5t/hに増加させました。その後、更に焼鉱顕熱の回収のために流動クーラーを設置することで、ボイラ用給水の予熱や、炉内温度調整のためのクーリングコイルを設置する等して、12t/h(現在は13t/h)の蒸気が回収されています。
この蒸気は、これを所内の製錬工程や福利厚生施設の熱源としてのほか、背圧タービンによる発電を実施し、毎時565kwの電力を得ています。
■今回の報道によると、この流動焙焼炉の運転を休止するとあります。「休止」というからには、設備を温存し、いずれまた稼働させるつもりもあることになります。
また、報道では「安中製錬所は純度の高い製品を作るための電気分解工程を受け持つ。生産体制見直しによるコスト改善が目的で、安中製錬所の230人の雇用は維持する。同社によると、現在は小名浜製錬所で鉱石の3分の2を焼き、残りを未焙焼のまま安中に輸送しているが、22年までに全ての焙焼を小名浜で行い、その後安中で電解する体制にする。安中製錬所には現在、焙焼炉1基と電解設備2基があるが、電解設備1基を残して稼働を止める。担当者によると、安中の従業員230人の大半が焙焼関連で働く。再編に伴い、同製錬所の他部署や県内の他事業所などに配置転換し、雇用は維持するという。」とあります。
そうすると、これまで小名浜から毎日「安中貨物」と呼ばれる貨物列車で運ばれていた粉体の亜鉛精鉱を専用で運ぶ無蓋貨車12両は、今年度限りで不要と言うことになります。
↑JR貨物のトキ25000形無蓋貨車。積載重量40トン。亜鉛精鉱専用↑
一方、小名浜から安中製錬所に搬入される亜鉛原料の3分の2を占める粒体の焼鉱の輸送には、同じくJR貨物のタキ1200形タンク車20両が使用されていますが、これは、そのまま継続して使用されることになります。
↑JR貨物のタキ1200形タンク車。積載重量40.3トン。亜鉛焼鉱専用↑
■亜鉛生産量を年間8万5千トンにすることで、小名浜からは今後は焼鉱のみの輸送となると、来年度から安中貨物では、長年目にしてきた無蓋貨車が姿を消すことになります。すると、東邦亜鉛安中製錬所のもっとも高台にある精鉱鉱舎は不要になります。さらに、焙焼炉の運転を止めるとなると、焙焼工程で生じた亜硫酸ガスを使って硫酸を作るための硫酸工場も稼働できなくなります。
亜鉛精鉱の酸化(燃焼)による副産物として発生する硫酸は、焙焼炉から送られてくる亜鉛焼鉱を溶解槽で溶かすための希硫酸 (電解尾液) として必要になります。
ZnO + H2SO4 → ZnSO4 + H2O
このとき、焼鉱に含まれる鉄などの一部も溶解するので、マンガンや石灰等を加えてこれらの不純物を沈殿させ除去します。
FeO +添加剤 → Fe2O3 (沈殿)
こうした一連のプロセスでは、亜鉛を十分に溶解させ、かつ、不純物をできるだけ多く沈殿させるためにpHを一定の値に管理して行う必要があります。浸出液は,その後,フィルタプレスで不純物が濾過され,浄液となって電解槽に送られます。この電解槽で,電気亜鉛が作られます。
■したがって、安中製錬所が小名浜から焼鉱のみ搬入するとなると、それまで亜鉛精鉱の焙焼の副産物として製造していた硫酸を外部から調達しなければならなくなります。
今後は、安中貨物により、小名浜から濃硫酸を運ぶためのタンク車が新たに加わることになるかもしれません。なお、電解尾液の希硫酸は、電解後、どの程度再利用されるのかどうか、東邦亜鉛に訊いてみないとわかりません。
こうして、安中製錬所にとって、これまで小名浜から運び込まれる原料の亜鉛鉱石の3分の1を占めていた亜鉛精鉱がなくなることは、操業に大きな変化をもたらすことは必至です。
しかし、新聞報道にある「担当者によると、安中の従業員230人の大半が焙焼関連で働く。再編に伴い、同製錬所の他部署や県内の他事業所などに配置転換し、雇用は維持するという」記事は、意味がよくわかりません。製錬所は設備産業ですから、自動化による省力化が進められており、安中製錬所でも新電解工場では、クレーンオペレーターが交替勤務しているだけで、汚れ仕事はみな協力業者と呼ばれる下請にやらせており、安中製錬所の230人の従業員のうち、焙焼関連に大半が従事しているとも思えず、また、他の製造部門への配置転換にしても限定的に留まります。となれば、県内の他事業所である藤岡事業所か、関連会社への異動しか考えられません。
■いずれにしても、これまで従業員数は縮小してきたものの、亜鉛製錬については、生産量は市場により多少増減はありましたが、今回のように生産能力を4割減とする思い切った合理化は記憶にありません。
亜鉛の生産量が減少すれば、当然、非鉄スラグの排出量も減り、降下煤塵や排水中の有害物質の絶対量も減少することになります。製錬所周辺の大気、水、土壌を汚染し続け、さらに騒音(とくにロータリーキルンなどの送風機の音がうるさい)をまき散らしてきた安中製錬所ですが、今後の操業縮小により、どの程度、周辺環境への負荷も縮小されるのかどうか、注意深くモニターしてまいる所存です。
【北野殿公害対策委員会からの報告】
※参考情報「最近の東邦亜鉛絡みの報道」
**********日経2021年5月14日 2:00
東邦亜鉛人事異動(6月29日)
取締役、中川有紀子
同、大坂周作
専務執行役員技術・開発本部長兼金属・リサイクル事業構造改革担当(常務執行役員亜鉛・鉛事業本部長兼機器部品事業部長兼環境・リサイクル事業部担当)田島義巳
電子部材事業部長兼機能材料事業部担当(電子部品事業本部長兼電子部品事業部長)常務執行役員藤岡事業所長伊藤正人
常務執行役員(執行役員)総務本部長兼総務兼CSR推進室長大久保浩
資材調達(資材統括部長)執行役員資源事業部長中川英樹
機器部品事業部担当、執行役員安中製錬所長森田英治
執行役員、有本龍平
同、小名浜製錬所長高橋康司
同金属・リサイクル事業部長(亜鉛・鉛事業本部副本部長兼環境・リサイクル事業部長)リサイクル営業・佐藤義和
機能材料事業部営業、荻野靖宏
技術・開発本部カーボンニュートラル推進室長、技術兼知的財産・竹内信登
機器部品事業部長、電子部材事業部プレーティングユニット長中村雅之
技術・開発本部設備企画、浜崎勝司
電子部材事業部営業(電子部品事業本部営業)林武彦
**********日刊産業新聞2021年5月13日
東邦亜鉛 財務健全化を最優先
東邦亜鉛は13日、2021年4月始まりの第12次中期3カ年計画で、財務体質の健全化を最優先すると発表した。同日公表の10年ビジョン(10年後のありたい姿)への最初の3年間と位置づけ、フリーキャッシュフローの安定黒字化を図る。製錬・資源事業での市況リスクの適正化、川下事業の強化、製錬事業の基盤強化の3点を具体的に推し進める。
**********株探ニュース2021年5月13日15:24
【決算速報】東邦鉛、今期経常は17%減益へ
東邦亜鉛 <5707> が5月13日大引け後(15:00)に決算を発表。21年3月期の連結経常損益は54.1億円の黒字(前の期は144億円の赤字)に浮上したが、22年3月期の同利益は前期比17.0%減の45億円に減る見通しとなった。
直近3ヵ月の実績である1-3月期(4Q)の連結経常損益は20億円の黒字(前年同期は81.5億円の赤字)に浮上し、売上営業損益率は前年同期の-32.5%→9.6%に急改善した。
<現在値>
東邦鉛 2,024 +1
三井金 3,165 -5
DOWAH 4,475 -80
三菱マ 2,299 -6
住友鉱 4,907 -71
**********株探ニュース2021年05月11日19時30分
【特集】非鉄株「スーパーサイクル」突入へ、グリーン投資拡大で一斉蜂起 <株探トップ特集>
世界的な環境投資の流れは、非鉄株には追い風。コモディティー関連株のなかでも、環境重視の潮流が逆風となる石油株から非鉄株へと投資先を乗り換える動きも見込まれている。
―銅価格は史上最高値に上昇、供給不足も意識され長期的な株高局面に―
非鉄価格が上昇基調を強めている。この背景には、中国や米国の景気回復期待によるベースメタルである銅やアルミニウムなどへの需要拡大観測がある。特に、電気自動車(EV)などの生産には大量の銅やアルミなどが使われるとみられていることも追い風で、いまや非鉄市況は「スーパーサイクル」に突入したとの観測も強まっている。このなか、非鉄関連株には一段高期待が膨らんでいる。
●銅など商品市場に投資資金が大量流入
足もとで銅価格が急上昇している。ロンドン金属取引所(LME)の銅3ヵ月物は7日に1トン=1万400ドル前後に上昇。2011年2月の最高値(1万190ドル)を10年ぶりに更新した。10日には1万700ドル台へと上昇しており、年初の時点では8000ドル近辺にあっただけに、この半年弱で3割強の上昇を演じている。
銅価格上昇の要因となっているのが、最大の需要国である中国の景気回復に加え、新型コロナウイルスワクチンの接種拡大に伴う米国の経済再開期待と大規模な財政政策による銅需要の回復観測だ。更に、米国の大規模な財政出動とゼロ金利政策であふれた大量の資金が、格好の投資先として銅などコモディティー(商品)市場に流れ込んでいるとの見方は強い。
●コロナ禍で生産増難しくタイトな需給状況は続く
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至主任研究員は、「銅価格は目先的には1万ドル乗せで達成感からの一服があるかもしれない。しかし、EVの普及など環境投資拡大の追い風もあり、中長期的には一段の上昇はあり得るだろう」と今後の展開を予想する。
EV1台当たりの銅の使用量はガソリン車の3~4倍に膨らむとの試算もあるほか、EV充電スタンドや風力タービン向けなどグリーンエネルギー関連に銅需要が増加するとの期待が強い。更に、需要が高まる一方で大幅な供給増の見通しは立たない。世界的にみて近年は新たな有望な銅鉱山は見つかっていないことに加え、コロナ禍のなか労働者の感染対策のため銅鉱山での産出量を増やすことは難しい状態となっている。このため「銅市況は先行きの供給不足も意識する状況」(芥田氏)にある。
●グリーンマネーの流入が長期市況上昇を招く
そんななか、市場で高まるのが銅を中心とした非鉄市況が「スーパーサイクル」に突入したとの観測だ。非鉄関連では2000年前半から11年頃にかけてBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)と呼ばれる新興国の経済成長を背景に市況が長期上昇した。
今回は、世界的な景気回復期待に加え環境投資の拡大を視野に入れた「グリーンマネー」の流入が非鉄市況の上昇を支えている。市況の上昇は銅に限らずニッケルやアルミなどにも広がっている。ニッケルはEVの電池材料向けへの需要に対する期待から今年2月には1トン=1万9000ドル台と14年9月以来の水準に上昇した。その後、いったん下落したが、4月下旬以降は再び上昇基調を強めている。
●アルミは中国の環境規制で需給引き締まる
アルミは足もとで1トン=2500ドル近辺と18年春以来、約3年ぶりの高値水準に上昇している。年初からは2割強の値上がりだ。アルミもEVの軽量化に絡んで需要増期待が強いが、更に中国の環境規制がアルミ市況の上昇要因となるとの見方がある。アルミの生産では大量の電気が必要とされるが、中国は60年までに「二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロ」を目指しており、これまでのようにアルミ生産でCO2排出量の大きい石炭火力発電による電気をふんだんに使うことは難しくなるとみられている。このためアルミの需給は中長期的な引き締まりも予想されている。
コモディティー市場のなかの投資配分も、世界的なCO2削減の潮流が逆風となる石油に対して、非鉄はEV向けなどのグリーン投資の需要増が見込めるため、石油に向かっていた投資資金が非鉄に流れてくるともみられている。今後、環境投資を意識したマネーは非鉄株に向かっていくことが予想される。
●アサヒHD、松田産業、アサカ理研、黒谷など
個別銘柄でまず注目されるのは、大手非鉄の住友金属鉱山 <5713> や三菱マテリアル <5711> 、DOWAホールディングス <5714> などだ。住友鉱の決算は前期に続き、今期も増配が予定されるなど堅調。全体相場が落ち着けば、大手非鉄株には見直し買いが期待できる。また、ニッケル関連で大平洋金属 <5541> 、亜鉛で東邦亜鉛 <5707> 、アルミ関連で日本軽金属ホールディングス <5703> やUACJ <5741> なども活躍が見込める。
また、貴金属リサイクルを手掛けるアサヒホールディングス <5857> やアサカ理研 <5724> [JQ]、松田産業 <7456> などにとっては銅価格などの上昇は追い風。加えて非鉄金属加工の黒谷 <3168> や黄銅棒・線材の日本伸銅 <5753> [東証2]、それに非鉄金属商社の白銅 <7637> 、銅鉱石などの探査・開発を手掛ける日鉄鉱業 <1515> 、レアメタルなどを手掛けるアルコニックス <3036> などに注目したい。
**********日刊産業新聞2021年4月5日
東邦亜鉛 亜鉛生産8%増、鉛は減少
東邦亜鉛は2日、2021年4―9月期の亜鉛生産計画を前年同期比8・1%増の4万4100トン、鉛を1・1%減の4万7900トンと発表した。亜鉛の増加は前年同期の生産調整からの反動による。鉛は例年並みの計画値とする。同社は電気鉛の国内生産首位。
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