遺伝子検査と予防切除、Dr.中川のがんの時代を暮らす
毎日新聞社 5月23日(木) 配信
米女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(37)が、遺伝性のがんを予防するために両方の乳房を切除したと発表しました。「乳房切除」というと乳がんの治療が思い浮かびますが、彼女は実際に乳がんを発症したわけではありません。BRCA1と呼ばれる「がん抑制遺伝子」に生まれつき異常があることが分かったため、健康な乳房を「あらかじめ」切り取る決断をしたのです。
彼女のようにBRCA1遺伝子に変異がある場合、発がんリスクは非常に高くなります。特に、乳がんの発症確率は約65%、卵巣がんは約40%に上がります。
がんは、基本的には遺伝する病気ではありません。しかし、ジョリーさんのように遺伝的な理由でがんができやすい家系が、まれではありますが確かにあります。こうしたがんは全体の5%程度で、「家族性腫瘍」と呼ばれます。
BRCA1のようながん抑制遺伝子は、細胞のがん化を防ぐ働きを担っています。遺伝子は両親から一つずつ受け取りますが、家族性腫瘍の患者は、片方のがん抑制遺伝子に生まれつき異常があります。ジョリーさんの場合、母親も若くして卵巣がんで亡くなっているそうですから、母方の家系から異常なBRCA1遺伝子を受け継いだと考えられます。なお、彼女には、パートナーのブラッド・ピットさんとの間に3人の実子がいますが、異常なBRCA1遺伝子は子どもにも50%の確率で遺伝することになります。男の子の場合も、将来、前立腺がん、男性乳がんのリスクが高まります。
がん抑制遺伝子の一方が生まれつき働かなくなっていると、残るもう一方の遺伝子が傷つくだけでがんが発生しやすくなります。家族性腫瘍が若い人に多く発症するのはこのためです。
ジョリーさんの場合、閉経後には卵巣も摘出する可能性がありますが、臓器の予防的切除には異論がないわけではありません。一方、リスクの程度を知りたいと思う人は少なくないでしょうから、今後、わが国でも遺伝子検査は普及するでしょう。異常の有無にかかわらず、早期発見のがん検診は大切です。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)
毎日新聞社 5月23日(木) 配信
米女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(37)が、遺伝性のがんを予防するために両方の乳房を切除したと発表しました。「乳房切除」というと乳がんの治療が思い浮かびますが、彼女は実際に乳がんを発症したわけではありません。BRCA1と呼ばれる「がん抑制遺伝子」に生まれつき異常があることが分かったため、健康な乳房を「あらかじめ」切り取る決断をしたのです。
彼女のようにBRCA1遺伝子に変異がある場合、発がんリスクは非常に高くなります。特に、乳がんの発症確率は約65%、卵巣がんは約40%に上がります。
がんは、基本的には遺伝する病気ではありません。しかし、ジョリーさんのように遺伝的な理由でがんができやすい家系が、まれではありますが確かにあります。こうしたがんは全体の5%程度で、「家族性腫瘍」と呼ばれます。
BRCA1のようながん抑制遺伝子は、細胞のがん化を防ぐ働きを担っています。遺伝子は両親から一つずつ受け取りますが、家族性腫瘍の患者は、片方のがん抑制遺伝子に生まれつき異常があります。ジョリーさんの場合、母親も若くして卵巣がんで亡くなっているそうですから、母方の家系から異常なBRCA1遺伝子を受け継いだと考えられます。なお、彼女には、パートナーのブラッド・ピットさんとの間に3人の実子がいますが、異常なBRCA1遺伝子は子どもにも50%の確率で遺伝することになります。男の子の場合も、将来、前立腺がん、男性乳がんのリスクが高まります。
がん抑制遺伝子の一方が生まれつき働かなくなっていると、残るもう一方の遺伝子が傷つくだけでがんが発生しやすくなります。家族性腫瘍が若い人に多く発症するのはこのためです。
ジョリーさんの場合、閉経後には卵巣も摘出する可能性がありますが、臓器の予防的切除には異論がないわけではありません。一方、リスクの程度を知りたいと思う人は少なくないでしょうから、今後、わが国でも遺伝子検査は普及するでしょう。異常の有無にかかわらず、早期発見のがん検診は大切です。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)