集団免疫重視、対策出遅れ 他国に学ばず、犠牲者増加 英コロナ対応の検証報告
2021年10月18日 (月)配信共同通信社
英下院が12日、政府の新型コロナウイルス対策の検証報告書を公表した。集団免疫を重視する科学者の助言に従うだけで他国の成功例に学ばず、最初のロックダウン(都市封鎖)が遅れて犠牲者が増えたと指摘、英国史上「最大級の失策」と酷評した。累計死者数は14万人に迫り、欧州最悪。報告書から問題と教訓を探った。
▽運命論
「不注意やお役所仕事のせいではなく、方針自体が誤りだった」。報告書には厳しい言葉が並ぶ。専門家による政府の諮問機関「緊急時科学諮問グループ」(SAGE)が脅威を認識したのは昨年1月22日。中国で確認された感染は、既に米国にも飛び火していた。
3月上旬にはイタリアで死者が数百人規模に上り、欧州各国は次々と都市封鎖を開始。しかし英政府は「感染は完全には防げず、免疫を得ることが必要だ」との科学者らの助言に異論を挟まず、強硬策を避け続けた。
下院は政権が諦めにも似た「運命論」にとらわれていたと指摘。背景に、社会活動を縛る対策を世論が支持しないとの見方もあったとみる。
日々の死者数は3月中旬に2桁に急増し、SAGEは一転、都市封鎖を16日に勧告。政府が決断したのは23日だった。英疫学者は「封鎖が1週間早ければ死者を半減させられた」と悔やむ。
▽閉鎖性
なぜ判断を誤ったのか―。下院が着目したのがSAGEの閉鎖性だ。
当時、東アジアの多くの国は強力な感染封じ込め策を導入。死者数を抑えた「成功戦略」が海外にあったのに、英政府は目を向けなかった。慌てて都市封鎖に転じたのも、医療崩壊が近づく国内事情に迫られたものだ。
下院は、SAGEの歴代メンバー87人のうち、86人が英国の機関の所属だと指摘。流行は世界中に広がり、対策には海外の知見が不可欠で「SAGEの国際性を考慮するのが適切だ」と訴える。
SAGEは当初、メンバーや議事録自体も非公開だった。報告書は、討議を迅速に公表し「外部の異論にさらすこと」が必要だと強調。政権に対しても「助言に疑問を持ち、時に異を唱えるのが責任だ」と戒めた。
▽二正面
今年7月に感染対策規制をほぼなくし、コロナとの共生を目指す英国。強気の根拠はワクチンの普及だ。下院は、ワクチンが将来の出口戦略だと早々に見抜き、整備を急いだ点は「英科学行政史上、最も効果的な政策の一つ」と評価した。
英紙フィナンシャル・タイムズは「感染封じ込め策とワクチン整備の組み合わせ」が結果的に最も有効だったと振り返り、この二正面作戦のうち、英国のように「前者でしくじった国」は多くの犠牲を払ったと総括した。(ロンドン共同=伊藤慎司)