ノーベル賞8年応用研究加速
◇健康維持に不可欠
腎障害の急性期と慢性化が進む時では、同じ「司令塔」が別の反応を起こして腎機能を回復させようとする――。大阪大などの研究チームは5月、そんな内容の論文を国際科学誌に発表した。
小林製薬の「紅麹」成分入りサプリメントを巡る健康被害問題でも指摘されたように、腎臓はいったん傷つくと慢性化しやすく、治りにくい。だがチームは、患者から採取した腎臓の細胞や、急性腎障害を起こさせたマウスの腎臓を調べ、「MondoA(モンドA)」というたんぱく質が回復の司令塔として働いていることを突き止めた。
急性期の腎臓では、モンドAがオートファジーの強さを調節する「Rubicon(ルビコン)」というたんぱく質の働きを押さえ込む。その結果オートファジーが強くなり、ダメージを受けたミトコンドリアなどの小器官が除去され、細胞の大掃除が進む。
だが細胞の掃除はしすぎてもいけない。中でもミトコンドリアはエネルギーを生み出す重要な役割を担っており、腎機能の回復に欠かせない。そこで慢性期のモンドAは「TFEB」という別のたんぱく質を動かし、残った正常なミトコンドリアを活性化させて回復を促していたのだ。
山本毅士・阪大特任助教(腎臓内科学)は「ルビコンやTFEBの働きを薬でコントロールできれば、難しかった腎障害の治療が可能になるのでは」と話す。
モンドAやルビコンのバランスが崩れてオートファジーが不調になると腎臓は老化し、全身にも様々な影響が表れる。
2009年に発見されたルビコンは、高齢マウスの脂肪細胞では減少していることがわかった。その結果、過剰なオートファジーが血糖値やコレステロール値を正常に保つためのたんぱく質までも分解し、生活習慣病の発症につながるのだ。
モンドAを16年に発見した中村修平・奈良県立医科大教授(生化学)は「近年の研究で、オートファジーによってミトコンドリアなどの質が保たれることも生物の健康に大事だとわかってきた」と説明する。
奈良に全国初専門センター
◇論文著しく増加
4月、同大学は中村さんをトップとする「オートファジー・抗老化研究センター」を設立した。オートファジーによる健康状態の維持や治療の実現を目指すセンターは全国初という。
設立記念シンポジウムに招かれた大隅さんはオートファジー関連の論文数について、当初は世界中で20本程度だったが、今では年間約1万本に増えたと紹介。「病気の克服につながると思って研究を始めたわけではなかったが、(医療応用の)大きな流れに到達したと思う。たくさんの仲間と技術の進歩でここまで来られた」と感慨深げに語った。
副センター長に就任した医師の杉江和馬教授(脳神経内科学)は「基礎研究と臨床がつながった。パーキンソン病や認知症の早期診断と治療の実現を加速させたい」と話している。
◆オートファジー 飢餓状態やストレスをきっかけに細胞内で活発になる現象。〈1〉不要なたんぱく質や傷ついた細胞小器官が二重の膜で包まれ「オートファゴソーム」を形成〈2〉消化酵素を含む「リソソーム」と融合し、アミノ酸などに分解〈3〉たんぱく質の材料などとしてリサイクルする――という流れだ。この仕組みは幅広い生物に共通している。大隅さんは1980年代末から単純な酵母を使って研究を進め、詳細を明らかにした。
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