香取照幸氏に聞く 「かかりつけ医機能」をいかに実現するか
POINT
■「かかりつけ医」の制度化が議論されている。かかりつけ医には、日常的な健康管理と初期診療のほか、医療・介護の総合調整役を果たすことが求められている。その前提となるのが、地域包括ケアネットワークと、健康情報の連携・一元管理システムだ。
■ネットワークと情報連携を実施機関の要件とし、クリアした地域や組織に手を挙げてもらって、できるところからスタートするのが現実的だろう。かかりつけ医を持つことは患者の権利。希望する患者が実施機関を選択する方式が望ましい。
■かかりつけ医機能は、予防や健康相談、総合調整機能など保険診療で包摂できない機能を含むパッケージなので、費用保障のあり方を考える必要がある。診療報酬体系の考え方を変えて全てを医療保険で見るのか、「療養の給付」を超える部分について別の形での費用保障を考えるのか。特区のような制度を作り、保険者と実施機関の契約で、そこの被保険者についてだけ別の形の診療報酬体系にするやり方もあるかもしれない。それも保険者機能の発揮ではないか。
聞き手・構成 調査研究本部 林真奈美
コロナ禍で、患者が適切な医療を受けられない事例が相次ぎ、地域医療の機能不全が露呈した。これを受けて、患者の健康管理に責任を持つ「かかりつけ医」の重要性が再認識され、2022年度の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」が盛り込まれた。それは具体的にどんなものなのか。どのように進めていけばいいのか。香取照幸・上智大教授に聞いた。
適時適切な医療・介護の総合調整役
――「かかりつけ医」の制度化が議論されている。かかりつけ医が果たすべき役割とは。
かかりつけ医・かかりつけ医機能については、2013年の日本医師会と四病院団体協議会の合同提言で統一見解が示されている。その要素を分解してみると、〈1〉患者の生活背景を把握した初期診療および保健指導〈2〉専門医療機関の紹介〈3〉休日・夜間対応体制の構築〈4〉検診など地域保健への参加〈5〉保健・介護・福祉関係者との連携〈6〉在宅医療の推進および家族支援――などが求められている。つまり、健康な時から継続的に利用者に関わり、健康相談や予防接種などにも対応し、医療・介護全体で最適なサービスを実現させる「総合調整機能」と位置付けられる。
これは、従来の一般的なイメージとは異なる。多くの患者にとって、かかりつけ医は必要な時に初期対応をしてくれる医師であって、健康な時は没交渉だし、変更も自由だ。あるいは、疾患ごとに複数いる「主治医」をかかりつけ医と認識している場合もある。日本は、受診するかどうか、どの医療機関に行くかどうかを患者自身が決める「フリーアクセス」を基本としている。制度的に患者の受診行動をコントロールできる仕組みになっていないため、一人一人の健康管理を特定の医療機関が一元的・継続的に責任を持つシステムが作られてこなかった。そのため、重複受診・重複検査、多剤投与といった問題はいわば不可避的に生じている。
コロナ禍で、発熱患者が身近な診療所に相談したら受診を断られ、行き場を失うケースが相次いだ。一方で、病院はパンク状態になった。今回の教訓は、在宅医療を強化しておかなければ、同じような事態が生じた時に医療崩壊が起きる、ということだ。かかりつけ医機能の問題は、地域医療・在宅医療の強化という視点から考える必要がある。
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