「人工胚」作製に成功…脳・心臓に似た構造確認
受精卵が胎児になる初期段階の「胚」に似た組織を、マウスの幹細胞から人工的に作ることに成功したと、英国やイスラエルなどの二つの研究チームが8月、相次いで発表した。この「人工胚」には脳や心臓のような構造も確認された。体が作られる仕組みの解明のほか、不妊治療や人工臓器の研究に役立つ可能性があるという。
哺乳類の受精卵は細胞分裂が進むと、主に〈1〉胎児〈2〉胎盤〈3〉栄養が含まれる卵黄のう――の元になる三つの細胞グループに分かれる。これらの細胞グループが相互に働き合うことで胚の成長が進む。
英ケンブリッジ大などのチームと、イスラエル・ワイツマン科学研究所などのチームはそれぞれ、マウスの細胞の遺伝子の働き方を変えるなどして、これら3種類の細胞グループの幹細胞を作製した。
3種類の幹細胞を混ぜ、子宮の環境に似せた特殊な装置で培養。その結果、マウスの妊娠期間の半分に相当する受精から約8・5日後の胚に似た状態まで成長した。実際、頭部と胴体の間にできる特徴的なくびれがあるほか、脳や腸管、拍動する心臓のような構造も出来ていた。
ただ、現状ではこれ以上、成長させることはできなかったという。両チームはそれぞれ成果を科学誌「ネイチャー」、「セル」で発表した。
近年、生命がどのように誕生するかを探るため、胚性幹細胞(ES細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)から精子や卵子、受精卵に似た組織を作る研究が世界で盛んになっている。ただ、精子や卵子を使わず、ここまで複雑な構造を持つ段階まで成長させることはできていなかったという。
林克彦・大阪大教授(生殖生物学)の話 「画期的な成果だ。胚が成長する様子を詳しく観察でき、発生学や生殖医療の研究の進展が期待できる。人間の細胞を使った応用も考えられ、倫理面で問題がないか早急に議論する必要がある」
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