年の瀬になると思い出させる、ちょっと心に引っかかっていた映画がある。大掃除を後回しにして、23年ぶりに書架からビデオテープを引っ張り出して観た。
『駅 STATION』は1981年(昭和56年)に監督降旗康男、脚本は倉本聰が高倉健のために書き下ろしたといわれる映画。この年の第5回日本アカデミー賞の作品・主演男優・脚本部門などで最優秀賞をさらった。
元オリンピック射撃選手の警察官の物語。彼に関わる三人の女性を中心に、オムニバス形式で物語が展開。
射撃選手としてメキシコ・オリンピック出場が決まっていながらも果たせなかった北海道の刑事三上(高倉健)。彼のおよそ11年に及ぶ人生模様が、主に三人の女性とのエピソードを連ねながら繰り広げられていく。
たった一度の過ちを犯してしまった妻直子(いしだあゆみ)、婦女暴行殺人犯の無垢な妹すず子(烏丸せつ子)、そして仕事に嫌気がさした三上が立ち寄った飲み屋の女将桐子(倍賞千恵子)…。
最も心に残ったシーンは、クライマックスが近づく後半。
晦日、三上は故郷に帰るべく、増毛駅に降り立つ。船の欠航で所在ない三上は、赤提灯「桐子」に入る。客は誰もいない。たった1人で店を切り盛りする桐子と話すうちに、三上は、自分と同じ孤独を感じ、心惹かれてしまう。
「去年のお正月、私の友達、札幌のアパートでガス自殺してね。ススキノのバーに勤めていたの」と桐子が英次に語る。暮れや正月になると水商売のコの自殺が多い。どんな遊び人も、どんなに心を許した男性も、この時期は故郷や家庭に帰ってしまうからだという。「つらいのよ、そんなとき」。
大晦日の夜、桐子と三上は客のいない居酒屋のカウンターで肩を寄せ合い、無言のまま紅白歌合戦を観る。バックには桐子の好きな八代亜紀の『舟唄』が流れる。
お酒はぬるめの燗がいい
肴はあぶったイカでいい
女は無口なひとがいい
灯りはぼんやり灯りゃいい
しみじみ飲めばしみじみと
お互いの言いようのない孤独を抱えて寄り添う男と女。交わされる一言一言が何とも胸に沁みる。「人生とは何だろうか」と心が疼くような映画である。
高倉健と倍賞千恵子のあわせものでは、『幸福の黄色いハンカチ』や『遥かなる山の呼び声』なども良かったが、歳を重ねるごとに、ヒューマニズムもいいが人生の厳しさや悲しさ、孤独を描いた『駅 STATION』が一層好きになってきた。
『駅 STATION』は、登場人物の心情を見事に厳冬の北海道の情景に描写して余りある。その心情、情景に観るものを深く誘う宇崎竜童の音楽(宇崎竜童は劇中でも好演)がまた良かった。
【参考サイト】
三上英次と桐子 映画「駅 STATION」
シネマ紀行 駅STATION
COCOに幸あり PART2
『駅 STATION』は1981年(昭和56年)に監督降旗康男、脚本は倉本聰が高倉健のために書き下ろしたといわれる映画。この年の第5回日本アカデミー賞の作品・主演男優・脚本部門などで最優秀賞をさらった。
元オリンピック射撃選手の警察官の物語。彼に関わる三人の女性を中心に、オムニバス形式で物語が展開。
射撃選手としてメキシコ・オリンピック出場が決まっていながらも果たせなかった北海道の刑事三上(高倉健)。彼のおよそ11年に及ぶ人生模様が、主に三人の女性とのエピソードを連ねながら繰り広げられていく。
たった一度の過ちを犯してしまった妻直子(いしだあゆみ)、婦女暴行殺人犯の無垢な妹すず子(烏丸せつ子)、そして仕事に嫌気がさした三上が立ち寄った飲み屋の女将桐子(倍賞千恵子)…。
最も心に残ったシーンは、クライマックスが近づく後半。
晦日、三上は故郷に帰るべく、増毛駅に降り立つ。船の欠航で所在ない三上は、赤提灯「桐子」に入る。客は誰もいない。たった1人で店を切り盛りする桐子と話すうちに、三上は、自分と同じ孤独を感じ、心惹かれてしまう。
「去年のお正月、私の友達、札幌のアパートでガス自殺してね。ススキノのバーに勤めていたの」と桐子が英次に語る。暮れや正月になると水商売のコの自殺が多い。どんな遊び人も、どんなに心を許した男性も、この時期は故郷や家庭に帰ってしまうからだという。「つらいのよ、そんなとき」。
大晦日の夜、桐子と三上は客のいない居酒屋のカウンターで肩を寄せ合い、無言のまま紅白歌合戦を観る。バックには桐子の好きな八代亜紀の『舟唄』が流れる。
お酒はぬるめの燗がいい
肴はあぶったイカでいい
女は無口なひとがいい
灯りはぼんやり灯りゃいい
しみじみ飲めばしみじみと
お互いの言いようのない孤独を抱えて寄り添う男と女。交わされる一言一言が何とも胸に沁みる。「人生とは何だろうか」と心が疼くような映画である。
高倉健と倍賞千恵子のあわせものでは、『幸福の黄色いハンカチ』や『遥かなる山の呼び声』なども良かったが、歳を重ねるごとに、ヒューマニズムもいいが人生の厳しさや悲しさ、孤独を描いた『駅 STATION』が一層好きになってきた。
『駅 STATION』は、登場人物の心情を見事に厳冬の北海道の情景に描写して余りある。その心情、情景に観るものを深く誘う宇崎竜童の音楽(宇崎竜童は劇中でも好演)がまた良かった。
【参考サイト】
三上英次と桐子 映画「駅 STATION」
シネマ紀行 駅STATION
COCOに幸あり PART2