晴れた日の東山と送電線の鉄塔
南北に細長い安曇野、 その西方には北アルプスの峰々が並び、東には標高千m程度の低山「東山」が連なっている。 我が家からも見渡せる東山の所々には送電線の鉄塔が立ち並んでいるのが見える。 梅雨空の過日(実際には7月7日・火)に雨が落ちていなかったので、 その鉄塔を目指して山に入ってみたのだ。 心の中には「週に一回の山歩き」もあったけど、「鉄塔の周辺は一般的に刈払が行われ、陽当りが良いため、 それを好む山菜のタラの樹が見つかりはしないだろうか?」そんな気持ちも秘めていた。
どの道を歩いて行けば尾根筋に出られるか? それは判らないけれど、当てずっぽうに山裾に建つ集落の中の道を山の方へと歩いて行った。
たまたま道に出て居たオジさんに声を掛けた。
「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが」、
「山の上にある送電線の鉄塔まで行ってみたいのですが、道はありますか?」
そのオジさんにとっては僕は見知らぬ人間、
その時のいでたちは
野球帽、半袖シャツ、ジーパン、ウオーキングシューズ、手ぶら。
僕を一瞥したオジさんの顔には見知らぬ人間に対する猜疑心がありありと出ていました。 山の展望も見込めない、今にも雨だって降り出しそうな空模様、そんな中を何を目的に山に入るのか? 「ハイキングコースの対象でも無い地域をうろついている胡乱な奴」とでも思った事でしょうよ。
そこで手短に「下の集落の空き家になっていたMさんのお宅に夏の間滞在している人間である事」を話しました。 それで一気に警戒心が解けたようです。 そのオジさんの所有する田圃もかって昔はMさんの所の田圃と隣合っていたそうです。 「耕地整理が行われた後には離れてしまったがね」の話の後には、「あそこんち(家)、若え衆が居たが今はどうしてるだ?」と一挙に会話は”好奇心モードに”切り替わり、
そしてついに世間話へと続きました。
「ここら辺で作物育てるの大変になってせ、
何しろ収穫時期になると猪や猿がやって来て、
みんな喰っちまうだもの」
「ウチのそこのリンゴの樹の廻りに今年は電気柵を作っただよ!」
そして最後、山に入ろうとする僕に色々と教えて呉れました。
「山には熊も居るから、気をつけて」
「鉄塔までは巡視のための草刈りされた道が在る」等と。
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そのオジさんと別れて沢沿いの小型トラックなら走れそうな草だらけの林道を200mほども進むと、石造りの鳥居が付いた「山の神」が鎮座していました。 なんだか、「そこから先は、”もののけ”が巣食う領域と人家との結界となる地点なのか?」 と感じました。 たしかにその通り、更に100mも歩いたかどうかの所で突然、 草叢をガサガサ走る音が聞こえると同時に二頭の鹿の姿が見え、「ピッー」と甲高い鳴き声が聞こえた。
今迄も夜に避難小屋やテントの廻りで鹿の鳴き声を聞いた事がありますけど、それはどこか「物悲しさ」を感じさせるものだったけれど、その時の鹿の発したそれは「闖入者への恫喝」とも聞こえる力強い鳴き声でした。 鹿は間をおいて、2度3度の警戒音を発しつつ僕から遠ざかって行きました。
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尾根上の送電線は中部電力の管理する物で、中電のロゴマークの付いた巡視路標識が分かれ道に設置されていました。 ところで、たどり着いた鉄塔周辺には山菜は期待出来そうにありませんでした。