こんな不思議な映画を作る人がいるんだ。しかも、それをこれ見よがしに見せるのではなくなんとも自然体でさりがなく。わざとらしさはまるでないから、素直にこの異常な世界を受け止められる。こんなさびれた温泉町にこんなへんてこな人たちが住んでいる。コメディではなく、ただなんとなく日常生活のスケッチをしただけ。気負いもへったくれもない。
永瀬正敏の郵便屋がバイクに乗って手紙を届ける。彼は常にサングラスをはずさない。夜でもサングラスをしたまま。しかも副業は刺青師。というか、こちらが本業で郵便配達のほうが副業っぽい。というか兼業。どいつもこいつもへんな奴ばかり。この町の人は複数の仕事を掛け持ちしている。郵便局の局長の田口トモロヲは夜は射的屋とは表の顔で実はデリヘル嬢の斡旋をしている。ポン引きですね。
ここで暮らす詩人が窪田正孝。いつもペンギンの格好をしている。部屋をギンギンに冷房している。永瀬と窪田が一応主人公か。彼らのところに窪田のファンの女の子(小西桜子)が押しかけ女房としてやってくる。一応この3人のお話。彼らの関係性(一応三角関係)が描かれるのだけど、修羅場にはならないで、彼女がひと夏の冒険が終わったよ、みたいな感じで去っていく。
山本直樹の短編マンガが原作だと見終えた後で知る。(ラストのクレジットで)少し納得するけど、このへんに明るい世界は本作がデビュー作となる廣田正興監督の個性だろう。何が言いたいのやらまるでわからないまま、終わるから、えっ? これでいいの、と驚く。何も考えていないようなのだ。ただただ、こんな町がありました、という感じ。だからどうした、なんていうのはまるでない。何がしたくてなんのために作ったのか、それすらどうでもいいような実にいいかげんな映画だ。でも、このいいかげんさは楽しい。こんな不思議な映画がたまにはあってもいい。