寺地はるなの旧作をどんどん読んでいる。読み残していた作品がこんなにもあるとは思わなかった。『ビオレタ』でデビュー以降欠かさず読んでいると(勝手に)思っていたが、そんなことは全くなかった。ものすごい量の小説を量産している。しかも、どれも重くて暗くて、心に沁みるものばかりだ。
『水を縫う』が高校生の課題図書に選ばれたので読んだ(実は昨年出版されたときに読んでなかった)のだが、これが実に面白くて、それだけではなく今年の新刊『声の在りか』『雨夜の星たち』も素晴らしすぎて、今年は寺地はるなの年ということにした。いつも同じタッチで分かり合えないということが素直に痛ましく描かれる。
さて、これは19年の作品だ。短編連作のスタイルで、もうすぐ閉鎖されるさびれた公衆市場(あかつきマーケット)が舞台。そこに集う人たちのそれぞれが抱える痛みが綴られていく。市場のマスコット、あかつきんの着ぐるみの入った男を視点にして、彼(といっても、あかつきんの着ぐるみ)と出会う、あるいは彼を見かける人たちのそれぞれの事情が綴られていくのだが、大人も子供もみんながそれぞれ自分にしかわからない悩みを抱え、そこと向き合っている姿が短いエピソードなのに濃厚に綴られていて15本の長編小説を読んだ気分になる。奥行きが半端じゃない。やはり描かれていることはいつも同じだ。だけど、そこから目が離せない。ひとりひとりのエピソードがそれぞれの生きてきた人生をちゃんと背負っているから短編だとは思えないボリュームに感じる。
読み終えたときの疲労感は半端じゃないけど、満足感も半端じゃない。ただの気持ちがいいだけのハートウォーミング(それはそれで好きだけど)ではないし、軽い読み物ではない。朝から始まり昼、夜、と繋がる構成に込められた意図は明確だ。たくさんの主人公たちの抱えるそれぞれのお話がどこかでつながっているのも、作者の意図だ。これは彼女のこれまでの、そして、この後(!)の作品の集大成になっている。