このタイトルで中堅造船会社(と、いっても造船会社だから大企業)の話。なんだか調子いい軽い小説か、と思わされるが、そうじゃない。働く人たちの哀歓を描くお仕事小説(と、こういうふうに書くとやはり軽いか)だ。7人のお話の短編連作。意に沿わない配置換え、人事異動、昇進、左遷などや人間関係のお話が中心になる。企業で働くことの悲喜こもごものドラマは多かれ少なかれ心当たりがあるだろう。誰の胸にも響く。
好きなことを仕事にする。そのはずだったのに、意に沿わないことだらけ。だけど、ここにいるのは意味があることだと思う。船を造ることを夢見た。だからここにいる。自分がしたかったことって何だったのかと、戸惑うこともある。長い人生だ。思うようにはいかないし、思ったこととは違うことも。最初の気持ちをずっと持ち続けることは難しい。でも、ここにいたいと思う。そんな人たちのそれぞれのドラマが描かれる。
若手社員から始まり、最後は社長まで。さまざまなケースが描かれていく。ほぼ同じ時間、同じ場所に起きる7人のお話は、微妙なところで交錯する場合もあるし、しないこともある。でも、この同じ会社でさまざまな想いを抱え、同じひとつの仕事を成し遂げるという意味では同じだ。全力を尽くすしかあるまい。
どのエピソードもいい話ばかりだったけど、最後の新社長の話が胸に沁みる。年老いた母親をひとり残して、もう一度本社に戻るまでが描かれる。自分の人生を生きている。だけど、自分一人で生きているわけではない。最善を尽くすために為さなくてはならないことって何だろうか。みんながみんな、自分だけではなく、「自分たち」のために何をするべきかを考え生きている。そうであればいい。