1968年
落合勤一。二十一歳。今シーズンは23試合に登板、1勝2敗といっても、ご存知でない方が多いであろう。つまり、これから伸びそうなおもしろい投手である。初勝利は、九月十二日(小倉)の西鉄戦。たしか初登板も、西鉄戦(平和台)だったと思う。あれは、ちょうど暑くなりだした六月末のことであった。スピードもコントロールもよくて、コーチ連中は口をそろえて「楽しみなピッチャーだ」といっていたのを思い出す。当時、期待されていた尾崎がさっぱりダメなことも手伝って、この落合は桜井、松本などとともに大下監督の救世主的青写真のなかにはいっていた。南海戦に突然先発して、途中まで南海打線を手玉にとったこともあるのだ。わたしに強く残っている印象は「落ちるタマ」の魔力であった。「落ちるスライダー」といっていいのか、それとも「鋭く落ちるカーブ」と呼んだほうがいいのか非常にまぎらわしいタマである。これなどたいへん期待できる武器だが、できることならコンスタントにこのタマを使いきってほしい。そのための補助手段として、インシュートで打者の横っ腹をえぐるか、あるいは高めのつりダマをおとりに活用することを工夫してみるがいい。もし、この攻めかたが一つの型にはまってくると、あとはピタピタときまって、投球が楽しくなってくるにちがいない。4コマの連続写真を圧縮したこの投球フォームなかなか味わいがある。ポカーンと口をあけるのではなく、真一文字に結んだ口元は「食うか食われるか」の戦いをいどんでいる男の表情そのものだ。ただ、それにしては、いきさが眼光に鋭さが欠けている。まったく惜しい。球界には毛深いおひとよしがかなりいる。クマソを連想させながら、その実、打者との勝負になると「逃げてばかり」の投手もいたものだ。この落合も見たところ、九時十五分のマユがりりしいが、さて気性はどうなのか。この投球フォーム、手首が思う存分かえっているのが目につく。そのせいかボールが指先によく粘っているのが、うかがい知ることができる。顔をかくして腕だけみると、小山(東京)と間違えそうだ。それほど、まとまりのいいスイングである。
落合投手の話 はじめてペナントレースで投げたので、はじめはビビッてしまった。それでもスライダーはよくきまった方だと思う。残念なのは、ストレートが思ったより伸びなかったことだ。握力が弱いので、スナップがきかないからかもしれない。それにスタンスを大きくとるので、どうしても右足が折れるよう曲がってしまう。だから、タマが出るところが、それだけ低くなるから、角度はなくなるし、スピードも死んでしまう。来春の伊東キャンプではこの点の是正に努めるつもりだ。
土屋コーチの話 落合はあれだけ上背に恵まれていながら、それを十分生かしきっていない。投げるとき、どういうわけか、右足が折れてしまうのだ。腕を大きく振っても、タマはそれだけ死んでしまうし、角度もなくなる。これを直すのには、スタンスを小さくすることも効果的だが、足腰をより強くすることだろう。キャンプではみっちり走りこませる。