想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

饒舌なアイ・コンタクト

2009-12-25 01:09:16 | Weblog
何を見てもどんな時も、すごーい、すごいー、すげー、っつうかスッゲエー‥‥、
これだけでリアクションする人、なんだか増えた気がする。老若問わず。
江國香織の小説にゴージャス、プリティー、シット(だったかな)しか言わない男、
けれどイケメンらしい彼氏が出てくる短編があるのを思い出し、実際いるよなあと
苦笑いする。ちなみにこの話はハッピーエンドではなかった、もちろん。

うちはアイコンタクトだからもっとも言葉は少ないんだけど、アイコンタクトの種類は
豊富だ。ベイビーは目で合図するので、それを読み取ってわたしも目で返したり、口に
したり、そのときどきだけど、声に出した方が喜ぶ気がする。でもわざと口を開かないで
目だけで返すのをしつこくやるときもある。それはこっちが楽しいからであって、
犬的にはヒトなんだからおっかあはしゃべれよ、と思っているかもしれない。
とにかく、わたしは二つ三つの言葉でしか表現しない人とは一緒にいられない質なので
感情表現豊かなベイビーの目が好きだし、だから楽しく暮らせるんだろうと思う。

動物が何も言わないのをいいことにヒトが勝手な解釈で思い込んでるとよく言われるが、
本当にわかりあうことはあるのである。
人は自分が思いたいように思うものというが、それなら人対動物の場合だけではなく
むしろ人が人に対しての方が思い込みの度合いは深いのではないだろうか。
噂とか陰口とかはそうやって生まれるし、嫉妬の類いも思い込みから始まる。
動物と共に暮せば、勝手な思い込みや妄想が通用しないことはわかることである。

話変わって今年もK氏からリンゴが届いた。
K氏は恩人なので歳暮をいただく立場にないのだが、長年の行き来から数年前からお返し
で冬はりんご、夏は梨が届くようになった。
今ではメールで消息を知らせるくらいになったが、りんごの箱を開けたときの甘酸っぱい
香りと一緒に、どう? 元気にしてるかい?と声が聞こえる気がする。

十年ほど前理不尽な裁判で苦労していた頃、助けてもらった数少ない知人、先輩である。
(裁判などすると友人知人が日ごと減っていくのであるよ、だから希少な存在)
今は交流はほとんどないが、契りの証のように届く贈り物。
申し訳ないなあと思う。けれど、ほっと安堵するのも本当の気持ちである。
いつも前もってお断りしなくてはと思っていると見透かしたように直前に届く、そんな
タイミングが続いていて、いいんだか悪いんだか、まあ嬉しいからいいことにするとして。

ある年のこと、銀座の小さな料理屋でK氏と食事をした。そのときK氏の夢の話を聞いた。
フィリピンに学校を建てる、夢じゃなくて本当にやる、と言っていた。
スラムに住む子たちの話をした。ゴミ拾うしかないのだよ、生きる術がないんだと言っていた。
その頃のわたしは何を思っていたのだろうか。
今ならその話、乗りますと言うかもしれないと、あの時の少しだけ酔っていたK氏の顔を
思い出しながら考える。その頃、正直わたしの興味は別のところにあったのであまり関心を
示さなかったのだ。

   

なぜ君はあんな山の中に通うんだい? というわたしへの問いから始まった話だった。
「子どもが学べる場所を作る、今は大人が集まってるけど、子どもが大事だから」
と言ったと思う。するとK氏はああ、ぼくと同じだね、と先の話をし始めたのだった。
そんなこと考えてたなんて想像もしなかった、だってコンサルタントなんて金儲けの話
ばかりしてるじゃないですか、とわたしが返すとK氏は大笑いした。そうだね、確かに、と。
でもこんなのは行動すればいいだけだからさ、話さないよ、無言実行なのさ。資金はあとから
ついてくる、って実際大変は大変だけど、まあやってるよ、もう始めちゃったからさ。
君も、君ならきっとやれるよと言われた。わたしは、予想外の話に内心驚いたし、そして
この人と出会ってよかった、こういう人だからわたしを助けてくれたのだと知った。
店を出たら雪が降ってて、そうか、あれは冬だったんだ‥‥。
あれからずいぶん会っていない。
けれど「行動だよ」と言う声が、果物の箱を開けると聞こえてくるのである。
      
コメント
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