想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

雨の中のバラ

2010-06-28 10:42:06 | Weblog


誰もこない森の奥で咲いている。どんな気分かだって?
誰も見ていない 誰も触らない 誰も呼ばない。

花のわたしを訪れるのは無作法なハチ 乱暴な蜘蛛 おっちょこちょいの蟻
それぞれが自分のことに忙しい わたしの花びらでとんとんと足をならし
引っ掻き傷を作ってもおかまいなし

誰もわたしを呼ばないので 雨粒に頭を垂れ 少しうとうとして過ごした
 


ただ雨に打たれて咲いているだけじゃ かわいそうよねとあなたが言って
わたしを摘み取って行く
その声に目が覚めて そうなのか、かわいそうなのか、と考えてしまった。



わたしはかわいそうだから あなたの元へ行くのですか。

雨にあたらず、ただ眺めているだけの位置に来て、きれいな冷たい水を吸い
あなたの得意げな声が聞こえている。
あなたの声はあの梢でさえずる、あの太った鳥に似ている気がした。
ここいらで森のおしゃべりおばさんと噂されているあの鳥に。

わたしは咲いているだけじゃかわいそうなのか、その疑問を早く忘れるために
またじっと目を閉じてしまった。
雨の日に咲いて、気持ちが清々としているよとつぶやいて、眠りに落ちていく。

花を咲かせたのはわたし、とおしゃべりな鳥が歌いながら木の葉を揺らしている。
君に歌うことを教えたのは誰?と、桜の木がそっと尋ねたのも届かない高らかなさえずり。
「かわいそう かわいそう」と雨音にだぶって聴こえ、子守唄のようにわたしを包む。
ふたたび降りだした雨が地表を叩く音がして、勢いを増して広がっていった。
コメント
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