読書の秋ながら、10月は14冊と低調でした。
そんな中で、これは来年の本屋大賞に入ってほしいと思える、良い作品でした。
◆そして、バトンは渡された(瀬尾 まいこ)
継母1人に継父2人と聞いて、物語シリーズの羽川翼のような悲惨な話かと構えてしまったけど、それぞれの人にその人なりの愛情の注がれ方をして、まっすぐに育った優子さんは幸せ、特に森宮さんが良い。そしてその役割は結婚相手の早瀬さんに引き継がれる。
「妻の連れ子を虐待死」なんて殺伐としたニュースが聞かれる今日この頃、父性愛を刺激される、優しい気持ちにさせられる作品。自分は子育ては終わってしまったのだけと、優子さんみたいな娘なら今からでも欲しい。
チャレンジ中の文庫本フェアは、新潮文庫から5冊、角川文庫から2冊、集英社文庫から1冊。
◆手のひらの音符 (藤岡 陽子)
初読みの著者さんでしたが、「新潮文庫の100冊」のおかげで良い本に出会えました。人生の岐路で立ちすくんでいた時に来た、自分の運命を変えてくれた恩師の病のしらせ、それをきっかけに初恋が動き出す。こういう話は好き。
一つだけ突っ込むとすれば、「憲吾、信也の消息くらい、ググればわかるだろ」
◆青い鳥 (メーテルリンク)
「青い鳥」って、てっきり童話だと思っていたら、戯曲だった。それもかなり手の込んだ、登場人物のやたらと多い戯曲。むーん。
◆人斬り以蔵 (司馬 遼太郎)
司馬遼太郎の歴史上の人物造形は実にリアル、彼に「こういう人だった」と決めつけられると、自然とこれは真実に違いないと思えてしまう。戦国の古田織部、後藤又兵衛、塙団右衛門、そして幕末の大村益次郎、岡田以蔵。高取植村藩の大砲方、作州津山藩の大阪留守居役、井上馨の命を救った医者は歴史上ほぼ無名の人なので、人物というよりも幕末の滑稽さそのものの造形だろうか。
「おお、大砲」の新次郎の「侍のころは、ばかばかしいことが多かったな」が秀逸。
◆あこがれ (川上 未映子)
サリンジャーばりのジュブナイルもの。足が速くてやんちゃで、お母さんがいないヘガティーと、絵とあだ名をつけるのが得意で、お父さんがいない麦くんの成長物語。
疾走感が良い。この先二人はどうなるのか。案外離れ離れになって、15年後くらいに偶然再会して、とそんなことを想像しながら読んだ。
◆あのひとは蜘蛛を潰せない (彩瀬 まる)
ヒロインはドラッグストア店長の梨枝、母にみっともない女になるなと厳しく育てられ、28歳になる今も処女で実家暮し。そんな彼女がバイトの大学生と恋に落ちるという「みっともないこと」になり、母とぶつかりながら家を出る。
早くに結婚して家を出た兄、幼馴染の義理姉、店の客の薬物依存女、そして恋人、人はそれぞれ自分があり、秘密があり、相容れない相手の中に「かわいそう」と思える部分を探し、微妙な距離感を保つ。傷つくリスクを覚悟し、少しだけ踏み出す勇気を持てば改善する関係もある。人間関係につき色々と考えさせられた一作。
◆津軽 (太宰 治)
大東亜戦争戦時下の話なので、天皇陛下を奉るような記述や軍事上の拠点なんて話もでてきたが、全体のトーンは「戦争なんてどこでやっているの」的な印象、のどかで牧歌的。津軽の方々の人柄がなんともこれまた激しい。郷土史に関する記述も多々あったが、元々は地の果て、化外の地、おべんちゃらで「皇国の威光が」みたいな書き方をした部分もあるが、そんなことはない。いずれにしても旅情を掻き立てる紀行文。私は仕事で一度青森に行ったことがあるだけで津軽には縁がないが、行ってみたくなった。
◆弁当屋さんのおもてなし ほかほかごはんと北海鮭かま (喜多 みどり)
カドフェス本。食べ物を題材にした、良い人ばかり出てくる、恋の予感も少し感じる、心温まる系のお話。ナツイチの「ゆきうさぎのお品書き」とか、似たパターンの作品はいろいろあるので、どれを続けて読むかは個人的な好み、なのかな。
◆残り全部バケーション (伊坂 幸太郎)
主人公は溝口と岡田の裏稼業コンビ。「タキオン作戦」虐待少年を助ける優しい一面を持つ岡田。「残り全部バケーション」足を洗いたいという岡田に溝口の無理難題、面識のない早坂にメールを送り家族ぐるみで友達になる。毒島を裏切るも報復を恐れて岡田のせいにする溝口、毒島に拉致される岡田。「小さな兵隊」少年時代の岡田と溝口の思い出、そして行方不明の岡田を探す今の溝口。「飛べても8分」岡田を消した?毒島に対する溝口の復讐。溝口のキャラが何ともユニーク、伊坂さんらしい、楽しい短編連作。
早坂吝さんの援交探偵上木らいちシリーズの新作が出た。
■メーラーデーモンの戦慄 (早坂 吝)
エロ要素薄め、叙述トリック満載の本格ミステリ。今まで自分の頭で考えたことのなかった藍川さんがまさかの探偵役。青の館や、今まで出てきた人物も登場、シリーズものらしくなってきました。
アニメ再放送中、来年早々には劇場版も、「幼女戦記」も8巻、いよいよ終盤!
◆幼女戦記 8 In omnia paratus(カルロ・ゼン)
ターニャの「コミーの兵は畑で取れる」発言、第二次世界大戦のソ連の戦死者は約1000万人(日本の約5倍)、ドイツから見ればそんな感じだったんだろう。兵もどんどん強くなり、帝国はいよいよ総力戦に耐えられなくなる。ターニャたちレルゲン戦闘団や、今回はなんとゼートゥーア中将自らの最前線で囮になり薄氷の勝利、でも主力をつぎ込んだアンドロメダ作戦は兵站がついていかず頓挫、いよいよ切ない展開になってきました。
さて、ゼートゥーア中将は何を思ったのか、それを行動に移すのか、いよいよ悲劇のクライマックスの予感、で、次巻へ。
◆おもしろい!進化のふしぎ 続々ざんねんないきもの事典(今泉 忠明)
図書館本なので3作目が先に借りられてしまった。
こども向けの本だけど、話題になっているので読んでみたが、大人も十分に楽しめる。
うんこネタが多いような、、、小学生男子、そういうの、好きだもんなー。
◆日本が戦ってくれて感謝しています アジアが賞賛する日本とあの戦争(井上和彦)
何事にも功罪、陰陽、二面性がある。私が子供の頃の教科書には、欧米の植民地だったアジア諸国の独立を促したと書いてあったし、少年漫画誌には、「ゼロ戦○○」とか、戦争漫画が掲載されていた。それが、いつ頃からだろうか。大東亜戦争が真っ黒に塗り潰されたのは。
自国と違う史観を妄言として思考停止するのではなく、多面的に、ニュートラルに考えることが大切。単にこの本を読んで気持ちよくなるのではなく、先人に学んで、良識的な愛国心、自国の歴史に対する矜持を持ち続けたいものだ。
◆プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術(印南 敦史)
「ライフハッカー」という情報系のウェブサイトで、ビジネス本の書評を書いている著者が、分かりやすい文章の書き方について述べた本。実際にサイトの書評も読んでみたが、ビジネス本のエッセンスを簡潔に伝える文章としては実に分かりやすい。
でも、小説のコメントとか、ブログ等で自分の意見などを表現する場合の文章とはちょっと違うのかな。自分はだらだらと長いセンテンスを書いてしまう癖があるので、リズムや句読点など役に立つ部分が多々あった。
どうでもよいことであるが表紙の絵、江口寿史さんですよね。彼の描くメガネっ子は実に良い。
そんな中で、これは来年の本屋大賞に入ってほしいと思える、良い作品でした。
◆そして、バトンは渡された(瀬尾 まいこ)
継母1人に継父2人と聞いて、物語シリーズの羽川翼のような悲惨な話かと構えてしまったけど、それぞれの人にその人なりの愛情の注がれ方をして、まっすぐに育った優子さんは幸せ、特に森宮さんが良い。そしてその役割は結婚相手の早瀬さんに引き継がれる。
「妻の連れ子を虐待死」なんて殺伐としたニュースが聞かれる今日この頃、父性愛を刺激される、優しい気持ちにさせられる作品。自分は子育ては終わってしまったのだけと、優子さんみたいな娘なら今からでも欲しい。
チャレンジ中の文庫本フェアは、新潮文庫から5冊、角川文庫から2冊、集英社文庫から1冊。
◆手のひらの音符 (藤岡 陽子)
初読みの著者さんでしたが、「新潮文庫の100冊」のおかげで良い本に出会えました。人生の岐路で立ちすくんでいた時に来た、自分の運命を変えてくれた恩師の病のしらせ、それをきっかけに初恋が動き出す。こういう話は好き。
一つだけ突っ込むとすれば、「憲吾、信也の消息くらい、ググればわかるだろ」
◆青い鳥 (メーテルリンク)
「青い鳥」って、てっきり童話だと思っていたら、戯曲だった。それもかなり手の込んだ、登場人物のやたらと多い戯曲。むーん。
◆人斬り以蔵 (司馬 遼太郎)
司馬遼太郎の歴史上の人物造形は実にリアル、彼に「こういう人だった」と決めつけられると、自然とこれは真実に違いないと思えてしまう。戦国の古田織部、後藤又兵衛、塙団右衛門、そして幕末の大村益次郎、岡田以蔵。高取植村藩の大砲方、作州津山藩の大阪留守居役、井上馨の命を救った医者は歴史上ほぼ無名の人なので、人物というよりも幕末の滑稽さそのものの造形だろうか。
「おお、大砲」の新次郎の「侍のころは、ばかばかしいことが多かったな」が秀逸。
◆あこがれ (川上 未映子)
サリンジャーばりのジュブナイルもの。足が速くてやんちゃで、お母さんがいないヘガティーと、絵とあだ名をつけるのが得意で、お父さんがいない麦くんの成長物語。
疾走感が良い。この先二人はどうなるのか。案外離れ離れになって、15年後くらいに偶然再会して、とそんなことを想像しながら読んだ。
◆あのひとは蜘蛛を潰せない (彩瀬 まる)
ヒロインはドラッグストア店長の梨枝、母にみっともない女になるなと厳しく育てられ、28歳になる今も処女で実家暮し。そんな彼女がバイトの大学生と恋に落ちるという「みっともないこと」になり、母とぶつかりながら家を出る。
早くに結婚して家を出た兄、幼馴染の義理姉、店の客の薬物依存女、そして恋人、人はそれぞれ自分があり、秘密があり、相容れない相手の中に「かわいそう」と思える部分を探し、微妙な距離感を保つ。傷つくリスクを覚悟し、少しだけ踏み出す勇気を持てば改善する関係もある。人間関係につき色々と考えさせられた一作。
◆津軽 (太宰 治)
大東亜戦争戦時下の話なので、天皇陛下を奉るような記述や軍事上の拠点なんて話もでてきたが、全体のトーンは「戦争なんてどこでやっているの」的な印象、のどかで牧歌的。津軽の方々の人柄がなんともこれまた激しい。郷土史に関する記述も多々あったが、元々は地の果て、化外の地、おべんちゃらで「皇国の威光が」みたいな書き方をした部分もあるが、そんなことはない。いずれにしても旅情を掻き立てる紀行文。私は仕事で一度青森に行ったことがあるだけで津軽には縁がないが、行ってみたくなった。
◆弁当屋さんのおもてなし ほかほかごはんと北海鮭かま (喜多 みどり)
カドフェス本。食べ物を題材にした、良い人ばかり出てくる、恋の予感も少し感じる、心温まる系のお話。ナツイチの「ゆきうさぎのお品書き」とか、似たパターンの作品はいろいろあるので、どれを続けて読むかは個人的な好み、なのかな。
◆残り全部バケーション (伊坂 幸太郎)
主人公は溝口と岡田の裏稼業コンビ。「タキオン作戦」虐待少年を助ける優しい一面を持つ岡田。「残り全部バケーション」足を洗いたいという岡田に溝口の無理難題、面識のない早坂にメールを送り家族ぐるみで友達になる。毒島を裏切るも報復を恐れて岡田のせいにする溝口、毒島に拉致される岡田。「小さな兵隊」少年時代の岡田と溝口の思い出、そして行方不明の岡田を探す今の溝口。「飛べても8分」岡田を消した?毒島に対する溝口の復讐。溝口のキャラが何ともユニーク、伊坂さんらしい、楽しい短編連作。
早坂吝さんの援交探偵上木らいちシリーズの新作が出た。
■メーラーデーモンの戦慄 (早坂 吝)
エロ要素薄め、叙述トリック満載の本格ミステリ。今まで自分の頭で考えたことのなかった藍川さんがまさかの探偵役。青の館や、今まで出てきた人物も登場、シリーズものらしくなってきました。
アニメ再放送中、来年早々には劇場版も、「幼女戦記」も8巻、いよいよ終盤!
◆幼女戦記 8 In omnia paratus(カルロ・ゼン)
ターニャの「コミーの兵は畑で取れる」発言、第二次世界大戦のソ連の戦死者は約1000万人(日本の約5倍)、ドイツから見ればそんな感じだったんだろう。兵もどんどん強くなり、帝国はいよいよ総力戦に耐えられなくなる。ターニャたちレルゲン戦闘団や、今回はなんとゼートゥーア中将自らの最前線で囮になり薄氷の勝利、でも主力をつぎ込んだアンドロメダ作戦は兵站がついていかず頓挫、いよいよ切ない展開になってきました。
さて、ゼートゥーア中将は何を思ったのか、それを行動に移すのか、いよいよ悲劇のクライマックスの予感、で、次巻へ。
◆おもしろい!進化のふしぎ 続々ざんねんないきもの事典(今泉 忠明)
図書館本なので3作目が先に借りられてしまった。
こども向けの本だけど、話題になっているので読んでみたが、大人も十分に楽しめる。
うんこネタが多いような、、、小学生男子、そういうの、好きだもんなー。
◆日本が戦ってくれて感謝しています アジアが賞賛する日本とあの戦争(井上和彦)
何事にも功罪、陰陽、二面性がある。私が子供の頃の教科書には、欧米の植民地だったアジア諸国の独立を促したと書いてあったし、少年漫画誌には、「ゼロ戦○○」とか、戦争漫画が掲載されていた。それが、いつ頃からだろうか。大東亜戦争が真っ黒に塗り潰されたのは。
自国と違う史観を妄言として思考停止するのではなく、多面的に、ニュートラルに考えることが大切。単にこの本を読んで気持ちよくなるのではなく、先人に学んで、良識的な愛国心、自国の歴史に対する矜持を持ち続けたいものだ。
◆プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術(印南 敦史)
「ライフハッカー」という情報系のウェブサイトで、ビジネス本の書評を書いている著者が、分かりやすい文章の書き方について述べた本。実際にサイトの書評も読んでみたが、ビジネス本のエッセンスを簡潔に伝える文章としては実に分かりやすい。
でも、小説のコメントとか、ブログ等で自分の意見などを表現する場合の文章とはちょっと違うのかな。自分はだらだらと長いセンテンスを書いてしまう癖があるので、リズムや句読点など役に立つ部分が多々あった。
どうでもよいことであるが表紙の絵、江口寿史さんですよね。彼の描くメガネっ子は実に良い。
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