「新潮文庫の100冊」「カドフェス」「ナツイチ」、各社の文庫本のフェスが始まった。
今年も「新潮文庫の100冊」完読に挑戦中なので、読んだ本23冊中9冊が新潮文庫となった。
◆あすなろ物語 (井上靖)
井上靖さんの自伝的小説。目標も持てずに、時代に流されたり、女に迷ったり、意地を張ったり、井上さん、わざと自虐的、露悪的に書いたのかな。
◆未来いそっぷ (星 新一)
今まで読んだ星新一さんのショート・ショートの中で、一番読みやすかった。適度な長さ(10頁くらい)の作品が多かったからかな。
◆よるのふくらみ (窪 美澄)
兄・圭祐と弟・裕太、顔も性格も似ていない兄弟が幼馴染を好きになった。先に告白し、付き合うことになった兄、でも彼にはセックスができないという悩みがあった。
兄弟とその幼馴染の恋人みひろ、三人三様の視点の連作短編が6編。冒頭の「なすすべもない」で身体を持て余したみひろがいきなり裕太と関係を持つ。窪さんの小説はいつも生々しい。
みひろが兄から弟に乗り換えても、兄弟はいつまでも兄弟、大阪に逃げた兄。京子との出会いは少し笑える。圭祐さん、まずちん○んを治そう。
◆銀の匙 (中 勘助)
良く言えば感受性が強いというか、おんば日傘で育てられた人見知りのヘンなガキ。でも、自分もちょっとヘンなガキだったので、何となく分かる。大人になってからも、幼児時代の心境をここまで正確に書けるっていうのがすごい。
小説に出てくる閻魔様のお寺は私の実家から徒歩数分、今はオフィスビルやマンションが林立する自分の生まれ育った町は、昔はこんなところだったって思いながら読んだ。
◆豆の上で眠る (湊 かなえ)
変質者に誘拐された?失踪した小学校3年の姉が、2年後に記憶喪失になって帰ってきた。でも、どうみても別人?
真相を知ってしまえば「なんだそんなこと」ってことだけど、子供心には悩むよね。「えっ、どうなってるの」と一気読みしてしまった。
童話からとった「豆の上で眠る」のタイトルも秀逸。
◆殿様の通信簿 (磯田 道史)
戦国時代から江戸時代へ、頭の中は戦国真っただ中の本多作左衛門や内藤家長、平和な時代の到来にたぎる野心を押し殺す前田家長、家常、そして官僚機構が確立し、お飾りになってしまった殿様も。豊臣を滅ぼし権力を手にした家康の時代、まだまだ戦国の気風が残っていた秀忠、家光の時代、そして5代綱吉の元禄時代に至って、時代もやっと戦国の毒気が抜けてきた。
価値観の転換期に、殿様もそのありようを変えざるを得なかった。歴史って面白いですね。
◆さきちゃんたちの夜 (よしもとばなな)
「スポンジ」「鬼っ子」「癒しの豆スープ」「天使」「さきちゃんたちの夜」、いろんなさきちゃんたちの短編が5編。よしもとさんの小説って、表現が独特でみずみずしい。
感受性が強いのと霊媒体質は紙一重なのか?「鬼っ子」のおばさんの気持ち、何となく分かるな。「癒し豆のスープ」も良かった。
◆葉隠入門 (三島 由紀夫)
「武士道といふは死ぬことと見付けたり」、この一句が独り歩きして、武士のための書という先入観があったが、さにあらず。17世紀末、戦国時代が遠くなり、武士が職業軍人から行政官僚になった時代の行動哲学の書であり、現代のサラリーマンやエリート官僚の自己啓発の書としても立派に通用する。
名言抄の方を先に読んだが、感銘を受けた文章が多々あった。原文を声に出して読みたい本。図書館本で読んでしまったが、購入して付箋をつけながら再読、座右の書として会社のデスクの手が届くところに置いておきたい。
◆飛ぶ教室 (エーリヒ ケストナー)
組織内の掟と人間関係、友情、善き先生との絆、寄宿制のギムナジウムでの濃い生活が興味深く描かれていた。脳内で萩尾望都さんの漫画に変換しながら読んだ。
これで「新潮文庫の100冊」残りあと11冊。
角川文庫が3冊。
◆空想科学読本 3分間で地球を守れ!? (柳田 理科雄)
マンガ、アニメ、特撮ヒーローものの設定が科学的にいかに無理があるかを真面目に考えた本。幼少の頃、怪獣映画やウルトラマンシリーズにどっぷりはまった自分は、大人になってこれを読んだ時、懐かしくも昔の自分をいとおしく思えた。その記憶すら今は懐かしい。
読んだ記憶がある話に、シン・ゴジラやおそ松さんなど最近のネタも加わっており、大変楽しく読んだ。
◆だれでも書ける最高の読書感想文 (:齋藤 孝)
最初は、「なんだ、中学生が夏休みの宿題の読書感想文を書くための本?」と思ったが、実際に中学生が書いた感想文を読んでみると、これが中々に侮れない。主観と客観、自分と関連づけるなど、なるほどなと思わせるアドバイスも多々あった。
◆自閉症の僕が跳びはねる理由 (東田 直樹)
正直自閉症の人とはほとんど関わったことがないので、分からないことが多いのだが、ほとんど他人とコミュニケーションが取れない13歳の少年がここまでのものを書けるっていうのが驚き。「文明の支配を受けずに、自然のままに生まれてきた人」、確かにそうなのかもしれない。
もし自閉症の方と接する機会があったら、この本に書かれていたことを忘れずにおこうと思う。
集英社文庫が1冊。
◆永遠の出口 (森 絵都)
どこにでもいるような平凡な女の子、紀子。でもこうして読むと彼女の子供時代は決して平凡ではない。みなそれなりに波乱万丈なんだなと、この本を読みながら自分の子供時代を思った。
この歳になって昔の友達と会うことが増えたが、みな少しずつ自分勝手に過去を美化していて、話が微妙に食い違うことが多い。でも少しだけ自分をヒーローにして、それが前を向いて今を生きる活力になるならそれでいい。
その他は、ライトノベルが3冊。
◆エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日 (伏見 つかさ)
つかの間の休日に沙霧を始め、マサムネ・ハーレムのメンバーたちがマサムネとの過去を振り返る短編集。
アニメで言えば第11話あたりの話。大団円も近いのか?
◆終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? (3) (枯野 瑛)
クトリは自分を世界一幸せな女の子だと言う。そんな幸せも続かない。
ネフレンを助けるために、ヴィレムも、そして意識が消滅する寸前のクトリも、獣がうごめく地上に落下してしまう。勝ち目のない絶望的な闘い。
アニメではこれで最終回、やるせない、救いのないバッドエンド。原作はまだまだ続くようだけど、これをどうやって続けられるのかな、、、
◆掟上今日子の裏表紙(西尾 維新)
早やシリーズ9作目は書き下ろし長編。厄介くんだけではなく、親切くんや囲井さんも登場する新パターン。
あろうことか今日子さんが強盗殺人で現行犯逮捕されているというシチュエーションで物語が始まるのだが、どんな事件だったか分かり始めるのが100頁を過ぎてからで、長い、長いですよ。事件、謎解き自体は短編、中編ネタでしょうか、それを長編に仕立てるあたりがいつもの西尾さん。
厄介くんは、これで正式に今日子さんのワトソン役に昇格できるのかな?
普通に最近の小説が5冊。
◆希望荘(宮部 みゆき)
前作「ペテロの葬列」で妻と離婚、今多コンツェルンも辞めてしまった杉村三郎が、とうとう本物の探偵になった。
今回は「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」の短編が4編。引き続き登場の睡蓮のマスターの他に、新たな登場人物も良い人が多いし、描かれる犯罪もどこか哀しい、舞台は変わっても、杉村三郎シリーズの味は健在です。
◆ツバキ文具店(小川 糸)
古都鎌倉の四季とともに語られるひっそりとした物語。
祖母に反発し家を飛び出した鳩子が、祖母と同じ代筆という仕事を通じて友人の輪が広がり、厳しいだけと思っていた祖母の鳩子に対する想いも明らかになっていく。
スマホという便利でストレートなコミュニケーションツールが主流となった現代。手書きの手紙とは、なんとも手間のかかる、でも奥深い情報伝達手段だろうか。
「私も、あなたと同じ代筆屋になりました」今はいない祖母に当てた鳩子の手紙が心を打つ。
◆また、同じ夢を見ていた(住野 よる)
不器用で正義感が強いため孤立してしまう小学3年生の女の子が、未来の自分に会って気づきをもらい、両親、クラスメート、そしてちょっと気になる男の子・桐生くんとの関係を修復していく、タイムリープ系のファンタジー・ビルドゥングズロマン、と思わせておいて夢落ちですか。
でも、大切なことは、序盤から再三語られる「幸せとは何」の問いなのでしょう。自分のことを想ってくれる人がいることに気が付ければ、人生は変わるはず。
◆ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン(小路幸也)
東京バンドワゴンも早やシリーズ第12作。最新作のヒロインはなんと秋実さん。第1作ではもう亡くなっていたので、今回が初登場。語り手のサチさんも幽霊ではなく当然生きている、しかも長編。昭和40年ごろの話なので、登場人物をドラマのキャストに脳内変換できない。
相も変らぬハッピーエンド、安心して読めるワンパターン。やはりこのシリーズは面白い。
◆明るい夜に出かけて(佐藤多佳子)
ラジオの深夜放送、谷村新司の「セイ!ヤング」とか、高校、大学の頃に結構はまった(歳がばれる?)。最近はご無沙汰だが、何となく雰囲気は分かる。佐藤多佳子さんは、ヘビーリスナーなのだろう。番組愛?を感じる。
とある事件をきっかけにモラトリアム期間に突入したトミヤマくん、コミュニケーション下手で周囲にバリアを張っていたが、バイト仲間やラジオの投稿仲間にぐいぐい距離を詰められる。
マニアックなのにリアリティのある小説。地味だけど、こういう青春もなかなかいいじゃないかと思わせる、納得の山本周五郎賞受賞作。
ビジネス書が2冊。
◆V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (三枝 匡)
三枝さんの本は「会社改造」に続いて2冊目。単純化、体系化された会社改革のエッセンスが詰まった本。
元がここまで悪い会社であれば、やり切れればこれくらいのドラスティックな成果は十分可能だろう。当社もそうだけど、実際にはここまでひどくない、そこそこ黒字も出している会社をどうするかが難しい。
大切なことは一にも二にもマネジメント人材の育成、魂の伝授とは言いえて妙。この本は、日本を再び成長する国にしたいという志を持ったビジネスマンに対する教科書であり、応援歌である。
◆誰がアパレルを殺すのか(杉原 淳一,染原 睦美)
誰が殺すのかって、現実から目をそらし、根拠のない希望的観測を繰り返し、思考を停止させている当事者が自分で自分の首を絞めている、ですよね。
私も若い頃に右肩上がりを経験した世代、書いてある内容は正に正鵠を射ているといってよい。
今年も「新潮文庫の100冊」完読に挑戦中なので、読んだ本23冊中9冊が新潮文庫となった。
◆あすなろ物語 (井上靖)
井上靖さんの自伝的小説。目標も持てずに、時代に流されたり、女に迷ったり、意地を張ったり、井上さん、わざと自虐的、露悪的に書いたのかな。
◆未来いそっぷ (星 新一)
今まで読んだ星新一さんのショート・ショートの中で、一番読みやすかった。適度な長さ(10頁くらい)の作品が多かったからかな。
◆よるのふくらみ (窪 美澄)
兄・圭祐と弟・裕太、顔も性格も似ていない兄弟が幼馴染を好きになった。先に告白し、付き合うことになった兄、でも彼にはセックスができないという悩みがあった。
兄弟とその幼馴染の恋人みひろ、三人三様の視点の連作短編が6編。冒頭の「なすすべもない」で身体を持て余したみひろがいきなり裕太と関係を持つ。窪さんの小説はいつも生々しい。
みひろが兄から弟に乗り換えても、兄弟はいつまでも兄弟、大阪に逃げた兄。京子との出会いは少し笑える。圭祐さん、まずちん○んを治そう。
◆銀の匙 (中 勘助)
良く言えば感受性が強いというか、おんば日傘で育てられた人見知りのヘンなガキ。でも、自分もちょっとヘンなガキだったので、何となく分かる。大人になってからも、幼児時代の心境をここまで正確に書けるっていうのがすごい。
小説に出てくる閻魔様のお寺は私の実家から徒歩数分、今はオフィスビルやマンションが林立する自分の生まれ育った町は、昔はこんなところだったって思いながら読んだ。
◆豆の上で眠る (湊 かなえ)
変質者に誘拐された?失踪した小学校3年の姉が、2年後に記憶喪失になって帰ってきた。でも、どうみても別人?
真相を知ってしまえば「なんだそんなこと」ってことだけど、子供心には悩むよね。「えっ、どうなってるの」と一気読みしてしまった。
童話からとった「豆の上で眠る」のタイトルも秀逸。
◆殿様の通信簿 (磯田 道史)
戦国時代から江戸時代へ、頭の中は戦国真っただ中の本多作左衛門や内藤家長、平和な時代の到来にたぎる野心を押し殺す前田家長、家常、そして官僚機構が確立し、お飾りになってしまった殿様も。豊臣を滅ぼし権力を手にした家康の時代、まだまだ戦国の気風が残っていた秀忠、家光の時代、そして5代綱吉の元禄時代に至って、時代もやっと戦国の毒気が抜けてきた。
価値観の転換期に、殿様もそのありようを変えざるを得なかった。歴史って面白いですね。
◆さきちゃんたちの夜 (よしもとばなな)
「スポンジ」「鬼っ子」「癒しの豆スープ」「天使」「さきちゃんたちの夜」、いろんなさきちゃんたちの短編が5編。よしもとさんの小説って、表現が独特でみずみずしい。
感受性が強いのと霊媒体質は紙一重なのか?「鬼っ子」のおばさんの気持ち、何となく分かるな。「癒し豆のスープ」も良かった。
◆葉隠入門 (三島 由紀夫)
「武士道といふは死ぬことと見付けたり」、この一句が独り歩きして、武士のための書という先入観があったが、さにあらず。17世紀末、戦国時代が遠くなり、武士が職業軍人から行政官僚になった時代の行動哲学の書であり、現代のサラリーマンやエリート官僚の自己啓発の書としても立派に通用する。
名言抄の方を先に読んだが、感銘を受けた文章が多々あった。原文を声に出して読みたい本。図書館本で読んでしまったが、購入して付箋をつけながら再読、座右の書として会社のデスクの手が届くところに置いておきたい。
◆飛ぶ教室 (エーリヒ ケストナー)
組織内の掟と人間関係、友情、善き先生との絆、寄宿制のギムナジウムでの濃い生活が興味深く描かれていた。脳内で萩尾望都さんの漫画に変換しながら読んだ。
これで「新潮文庫の100冊」残りあと11冊。
角川文庫が3冊。
◆空想科学読本 3分間で地球を守れ!? (柳田 理科雄)
マンガ、アニメ、特撮ヒーローものの設定が科学的にいかに無理があるかを真面目に考えた本。幼少の頃、怪獣映画やウルトラマンシリーズにどっぷりはまった自分は、大人になってこれを読んだ時、懐かしくも昔の自分をいとおしく思えた。その記憶すら今は懐かしい。
読んだ記憶がある話に、シン・ゴジラやおそ松さんなど最近のネタも加わっており、大変楽しく読んだ。
◆だれでも書ける最高の読書感想文 (:齋藤 孝)
最初は、「なんだ、中学生が夏休みの宿題の読書感想文を書くための本?」と思ったが、実際に中学生が書いた感想文を読んでみると、これが中々に侮れない。主観と客観、自分と関連づけるなど、なるほどなと思わせるアドバイスも多々あった。
◆自閉症の僕が跳びはねる理由 (東田 直樹)
正直自閉症の人とはほとんど関わったことがないので、分からないことが多いのだが、ほとんど他人とコミュニケーションが取れない13歳の少年がここまでのものを書けるっていうのが驚き。「文明の支配を受けずに、自然のままに生まれてきた人」、確かにそうなのかもしれない。
もし自閉症の方と接する機会があったら、この本に書かれていたことを忘れずにおこうと思う。
集英社文庫が1冊。
◆永遠の出口 (森 絵都)
どこにでもいるような平凡な女の子、紀子。でもこうして読むと彼女の子供時代は決して平凡ではない。みなそれなりに波乱万丈なんだなと、この本を読みながら自分の子供時代を思った。
この歳になって昔の友達と会うことが増えたが、みな少しずつ自分勝手に過去を美化していて、話が微妙に食い違うことが多い。でも少しだけ自分をヒーローにして、それが前を向いて今を生きる活力になるならそれでいい。
その他は、ライトノベルが3冊。
◆エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日 (伏見 つかさ)
つかの間の休日に沙霧を始め、マサムネ・ハーレムのメンバーたちがマサムネとの過去を振り返る短編集。
アニメで言えば第11話あたりの話。大団円も近いのか?
◆終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? (3) (枯野 瑛)
クトリは自分を世界一幸せな女の子だと言う。そんな幸せも続かない。
ネフレンを助けるために、ヴィレムも、そして意識が消滅する寸前のクトリも、獣がうごめく地上に落下してしまう。勝ち目のない絶望的な闘い。
アニメではこれで最終回、やるせない、救いのないバッドエンド。原作はまだまだ続くようだけど、これをどうやって続けられるのかな、、、
◆掟上今日子の裏表紙(西尾 維新)
早やシリーズ9作目は書き下ろし長編。厄介くんだけではなく、親切くんや囲井さんも登場する新パターン。
あろうことか今日子さんが強盗殺人で現行犯逮捕されているというシチュエーションで物語が始まるのだが、どんな事件だったか分かり始めるのが100頁を過ぎてからで、長い、長いですよ。事件、謎解き自体は短編、中編ネタでしょうか、それを長編に仕立てるあたりがいつもの西尾さん。
厄介くんは、これで正式に今日子さんのワトソン役に昇格できるのかな?
普通に最近の小説が5冊。
◆希望荘(宮部 みゆき)
前作「ペテロの葬列」で妻と離婚、今多コンツェルンも辞めてしまった杉村三郎が、とうとう本物の探偵になった。
今回は「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」の短編が4編。引き続き登場の睡蓮のマスターの他に、新たな登場人物も良い人が多いし、描かれる犯罪もどこか哀しい、舞台は変わっても、杉村三郎シリーズの味は健在です。
◆ツバキ文具店(小川 糸)
古都鎌倉の四季とともに語られるひっそりとした物語。
祖母に反発し家を飛び出した鳩子が、祖母と同じ代筆という仕事を通じて友人の輪が広がり、厳しいだけと思っていた祖母の鳩子に対する想いも明らかになっていく。
スマホという便利でストレートなコミュニケーションツールが主流となった現代。手書きの手紙とは、なんとも手間のかかる、でも奥深い情報伝達手段だろうか。
「私も、あなたと同じ代筆屋になりました」今はいない祖母に当てた鳩子の手紙が心を打つ。
◆また、同じ夢を見ていた(住野 よる)
不器用で正義感が強いため孤立してしまう小学3年生の女の子が、未来の自分に会って気づきをもらい、両親、クラスメート、そしてちょっと気になる男の子・桐生くんとの関係を修復していく、タイムリープ系のファンタジー・ビルドゥングズロマン、と思わせておいて夢落ちですか。
でも、大切なことは、序盤から再三語られる「幸せとは何」の問いなのでしょう。自分のことを想ってくれる人がいることに気が付ければ、人生は変わるはず。
◆ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン(小路幸也)
東京バンドワゴンも早やシリーズ第12作。最新作のヒロインはなんと秋実さん。第1作ではもう亡くなっていたので、今回が初登場。語り手のサチさんも幽霊ではなく当然生きている、しかも長編。昭和40年ごろの話なので、登場人物をドラマのキャストに脳内変換できない。
相も変らぬハッピーエンド、安心して読めるワンパターン。やはりこのシリーズは面白い。
◆明るい夜に出かけて(佐藤多佳子)
ラジオの深夜放送、谷村新司の「セイ!ヤング」とか、高校、大学の頃に結構はまった(歳がばれる?)。最近はご無沙汰だが、何となく雰囲気は分かる。佐藤多佳子さんは、ヘビーリスナーなのだろう。番組愛?を感じる。
とある事件をきっかけにモラトリアム期間に突入したトミヤマくん、コミュニケーション下手で周囲にバリアを張っていたが、バイト仲間やラジオの投稿仲間にぐいぐい距離を詰められる。
マニアックなのにリアリティのある小説。地味だけど、こういう青春もなかなかいいじゃないかと思わせる、納得の山本周五郎賞受賞作。
ビジネス書が2冊。
◆V字回復の経営―2年で会社を変えられますか (三枝 匡)
三枝さんの本は「会社改造」に続いて2冊目。単純化、体系化された会社改革のエッセンスが詰まった本。
元がここまで悪い会社であれば、やり切れればこれくらいのドラスティックな成果は十分可能だろう。当社もそうだけど、実際にはここまでひどくない、そこそこ黒字も出している会社をどうするかが難しい。
大切なことは一にも二にもマネジメント人材の育成、魂の伝授とは言いえて妙。この本は、日本を再び成長する国にしたいという志を持ったビジネスマンに対する教科書であり、応援歌である。
◆誰がアパレルを殺すのか(杉原 淳一,染原 睦美)
誰が殺すのかって、現実から目をそらし、根拠のない希望的観測を繰り返し、思考を停止させている当事者が自分で自分の首を絞めている、ですよね。
私も若い頃に右肩上がりを経験した世代、書いてある内容は正に正鵠を射ているといってよい。
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