「新潮文庫の100冊」挑戦もいよいよ終盤。
今月は、10冊読んで、いよいよあと2冊となりました。
◆リカーシブル (米澤穂信)
ページ数の割にはあっさり読めました。
突然未来視を始めた義理の弟サトルをめぐる停滞した地方都市の謎。町からも、そして家族からも疎外された少女ハルカが、一人弟を守るために町に挑む。
地味に面白かったけど、最後も、結局どうなったのという、もやもやした感じが残りました。
◆人間の土地 (サン=テグジュペリ)
著者の言いたいことはわかるのだが、元々そういう文体なのか、それとも訳のせいなのか、文章が抽象的、観念的で読みづらかった。
飛行機械という新技術が、短期間に、画期的に、運送や戦争の在り方を変えた。その乱暴な革新を支えたのは、著者たちパイロットの冒険心、使命感、矜持。著者はそこから人間の本然(原語はNATUREなのかな)に話を展開する。
ムーア人の、奴隷の、戦場に赴く戦士の、地球上すべての人の本然。
堀口大學さんの名訳にケチをつけて申し訳ないのですが、私には高尚過ぎて、もう少し読みやすい訳があれば読んでみたい。
宮崎駿さんの解説は「そっち?」という感もあるが、これはこれで彼らしい。
◆ぼくは猟師になった (千松信也)
去年の冬、イタリアンレストランで「鴨肉のいいのが入ったのでいかがですか」と毛抜き前のマガモを見せられてぎょっとしたのですが、なるほどジビエを食すということはこういうことなんだなと思った。
東京から日帰りで山を歩いたり、走ったりしていても、鹿や猪を見かけることはある。一億人の胃袋を満たすための畜産業とは完全に一線を画する自給自足の猟師生活が、実は都会に近い里山でも実現できるという事実。
命を食するというのはどういうことなのかを示してくれる、実に興味深い本でした。でも自分にはは無理だなー。
◆ボッコちゃん (星新一)
星新一さんのショート・ショートの代表作ですよね。
どのお話も洗練されているというか、パターンもいろいろあって落ちがなかなか読めないです。個人的には「鏡」「妖精」あたりの話が好き。「親善キッス」も笑える。
◆破獄 (吉村昭)
吉村昭さんの本は4冊目。戦中、戦後の世相を反映した、脱獄に執念を燃やす男と看守たちの壮絶な戦い、今回も執拗なまでの歴史記録文学、吉村さんの本領発揮と思ったのですが、佐久間清太郎はじめ登場人物は仮名なのですね。多少なりともフィクションは入っているのかな。
青森、秋田、網走、札幌と府中の「北風と太陽」的な話も、そうなると少しできすぎかなとも思えてきます。
◆反哲学入門 (木田元)
以前読んだ永井均さんの「子どものための哲学」って本に、「世間一般の哲学書は哲学をした人の思想の書に過ぎない。自分自身が問題だと思ったことを考え続けることが哲学なのだ」とあって、なるほどとちょっと哲学が分かった気になっていたのだが、この本は正に「哲学をした人の思想の書」。
しかもいきなり「哲学は欧米人だけの思考法である」ときたもんだから、「あれ?」と思いました。西洋哲学史の入門書ですね。
一神教的なものと多神教の思考の違い。これはこれで少しだけ哲学がわかったような気になりました。 1年後くらいに再読してみます。
◆さよなら、ベイビー (里見蘭)
表紙とタイトルから、お涙ちょうだい的引きこもり少年の子育て奮闘記を予想していたのですが、良い意味で裏切られました。
意外としっかりしたミステリーで、いろいろとミスリードの仕掛けがあって、いや騙されました。
こういうミステリー、好きです。
綾辻行人さんの初期作品、精神病患者、フリーク(畸形)をテーマにした短編3編。綾辻さんは「Another」しか読んだことがないのだけど、これはなんとも江戸川乱歩っぽいというか、違う意味で不気味な作品でした。「夢魔の手―三一三号室の患者」「四〇九号室の患者」は何となく落ちが読めたのだけど
◆ジャイロスコープ (伊坂幸太郎)
なかなかに多彩な短編7編を収めた短編集。
「ギア」はセミンゴという謎の生物が暴れる世界を描いた訳のわからない話、伊阪さんらしくないような。
「彗星さんたち」TESSEIのことはビジネス書で読みました。パウエル国務長官の自己啓発本も読みました。これもちょっと意外なお話。
「浜田青年ホントスカ」「二月下旬から三月下旬」「if」「一人では無理がある」、そして最後は「後ろの声がうるさい」で伊阪さんらしくまとまりました。
◆革命のリベリオン: 第II部 叛逆の狼煙 (神永学)
新潮文庫の100冊ということでⅠ部、Ⅱ部と手に取ってみたのだが、軽い感じのお話で、普通にライトノベルでした。
Ⅲ部は来年とか。それまでに内容をわすれてしまいそう。あまり引っ張らずに、Ⅲ部くらいで完結してくれることを望みます。
◆八甲田山死の彷徨 (新田次郎)
八甲田山の悲劇は映画にもなったので知っていたが、全工程を踏破した部隊があったということは知らなかった。
成功する組織と失敗する組織の差、指揮命令系統、組織組成の重要性、謙虚であるということ、リーダーシップということについて、いろいろと考えさせられる作品でした。
集英社の「ナツイチ」から2冊。
◆残酷な王と悲しみの王妃 (中野京子)
私は歴史ヲタを自認しているのですが、それは日本史に限ったことで、西欧史は、大学受験で勉強したはずなのですが、ほとんど忘れている。
日本の戦国時代とほぼ同時期の欧州の歴史なのですが、日本と際立って違うのは、キリスト教、ローマ教皇が権威をもっているため、離婚や側室が認められないこと。さらには女性でも皇位継承権がある国があり、それが王妃の立場を日本よりも悲惨なものにしている。
外交の駒であり、子を産む道具であるのにリプレースが容易ではない。西欧史は日本の戦国時代より恐ろしい。
◆おしまいのデート (瀬尾まいこ)
祖父と中学生、元不良高校生と元教師、クラスメートの男子高校生、せつなくもほのぼのとしたそれぞれの別れ、その次を感じさせるバツイチとバイトの大学生、徐々に距離を縮めていく保育士と園児とそのお父さん、心温まる短編集でした。
角川文庫の「カドフェス」から2冊
◆おちくぼ姫 (田辺聖子)
不勉強にて原作を知らなかったので、田辺聖子さんのこの小説がどの程度原作に忠実なのかは分かりませんが、、、
光源氏とは全く違う、少将とおちくぼ姫の王朝純愛物語。
継母への仕返しも、そこは日本らしく最後はハッピーエンドで、これが10世紀に書かれていたということが、すごい。
◆フリークス (綾辻行人)
最後の「フリークス―五六四の患者」は、そうきたかというか、最後まで謎の余韻を残して終わっていて、楽しめました。
◆火花(又吉直樹)
「世間じゃずいぶん話題になってるけど、どんなもんかいな?」くらいの気持ちで読み始めたのですが、面白くて一気読みでした。
神谷先輩、孤高の天才、その唯一といってもいい?理解者、崇拝者の徳永。
漫才師かくあるべきとの信念を曲げない神谷と、漫才師であり続けることに全力を傾けた徳永、スパークスの最後の漫才は悲しくも感動的。
やるだけやった徳永となにもできなかった神谷、でも成功するにはもっと別のものを持っていなければならないのかな。
二人のお笑い哲学が心に沁みました。
◆もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら(岩崎夏海)
再読。本棚を整理していて、何とはなしにまた読んでしまった。
元ネタ本のドラッカーの「マネジメント」も読みましたが、大切なことは、それぞれの持ち場で、学んだことを実践すること。
◆虎よ、虎よ! (アルフレッド・ベスター)
「ガーディアンの1000冊」「長門有希の100冊」。
てんこ盛り、波乱万丈、急転換で、「ついていけませんっ!」て感じのSF、ストーリーを追うと疲れるので、ただ体感するように読めばよいのかな。
これが1956年、約60年前の作品だなんて、信じられません。
石ノ森章太郎はこの小説を読んで「サイボーグ009」を書いたのだな、当時はまだ「パクリ」という概念は薄かったんだなって思いました。
◆逆説の日本史 18 幕末年代史編 1 (井沢元彦)
根拠なき楽観、無作為、頑迷、日和見、先送り、有能者の排斥、平和はいかに為政者の危機管理能力を喪失させるものか。
「異人は切り殺せ」の小攘夷の人々も同様で、話にならない。おかげで明治維新に至るまでに、日本はたくさんのものを失った。
でも今も「日本国憲法は祖法でござる」みたいな政治家はたくさんいるし、安保法制に反対するからには、中国の領海侵犯や北朝鮮のミサイルに対し具体的な対抗策がなければならない。
「起こらないと思う」「何とかなるのでは」「話し合いで」では江戸幕府と変わらない。現代人も歴史に学ばないと。
今月は、10冊読んで、いよいよあと2冊となりました。
◆リカーシブル (米澤穂信)
ページ数の割にはあっさり読めました。
突然未来視を始めた義理の弟サトルをめぐる停滞した地方都市の謎。町からも、そして家族からも疎外された少女ハルカが、一人弟を守るために町に挑む。
地味に面白かったけど、最後も、結局どうなったのという、もやもやした感じが残りました。
◆人間の土地 (サン=テグジュペリ)
著者の言いたいことはわかるのだが、元々そういう文体なのか、それとも訳のせいなのか、文章が抽象的、観念的で読みづらかった。
飛行機械という新技術が、短期間に、画期的に、運送や戦争の在り方を変えた。その乱暴な革新を支えたのは、著者たちパイロットの冒険心、使命感、矜持。著者はそこから人間の本然(原語はNATUREなのかな)に話を展開する。
ムーア人の、奴隷の、戦場に赴く戦士の、地球上すべての人の本然。
堀口大學さんの名訳にケチをつけて申し訳ないのですが、私には高尚過ぎて、もう少し読みやすい訳があれば読んでみたい。
宮崎駿さんの解説は「そっち?」という感もあるが、これはこれで彼らしい。
◆ぼくは猟師になった (千松信也)
去年の冬、イタリアンレストランで「鴨肉のいいのが入ったのでいかがですか」と毛抜き前のマガモを見せられてぎょっとしたのですが、なるほどジビエを食すということはこういうことなんだなと思った。
東京から日帰りで山を歩いたり、走ったりしていても、鹿や猪を見かけることはある。一億人の胃袋を満たすための畜産業とは完全に一線を画する自給自足の猟師生活が、実は都会に近い里山でも実現できるという事実。
命を食するというのはどういうことなのかを示してくれる、実に興味深い本でした。でも自分にはは無理だなー。
◆ボッコちゃん (星新一)
星新一さんのショート・ショートの代表作ですよね。
どのお話も洗練されているというか、パターンもいろいろあって落ちがなかなか読めないです。個人的には「鏡」「妖精」あたりの話が好き。「親善キッス」も笑える。
◆破獄 (吉村昭)
吉村昭さんの本は4冊目。戦中、戦後の世相を反映した、脱獄に執念を燃やす男と看守たちの壮絶な戦い、今回も執拗なまでの歴史記録文学、吉村さんの本領発揮と思ったのですが、佐久間清太郎はじめ登場人物は仮名なのですね。多少なりともフィクションは入っているのかな。
青森、秋田、網走、札幌と府中の「北風と太陽」的な話も、そうなると少しできすぎかなとも思えてきます。
◆反哲学入門 (木田元)
以前読んだ永井均さんの「子どものための哲学」って本に、「世間一般の哲学書は哲学をした人の思想の書に過ぎない。自分自身が問題だと思ったことを考え続けることが哲学なのだ」とあって、なるほどとちょっと哲学が分かった気になっていたのだが、この本は正に「哲学をした人の思想の書」。
しかもいきなり「哲学は欧米人だけの思考法である」ときたもんだから、「あれ?」と思いました。西洋哲学史の入門書ですね。
一神教的なものと多神教の思考の違い。これはこれで少しだけ哲学がわかったような気になりました。 1年後くらいに再読してみます。
◆さよなら、ベイビー (里見蘭)
表紙とタイトルから、お涙ちょうだい的引きこもり少年の子育て奮闘記を予想していたのですが、良い意味で裏切られました。
意外としっかりしたミステリーで、いろいろとミスリードの仕掛けがあって、いや騙されました。
こういうミステリー、好きです。
綾辻行人さんの初期作品、精神病患者、フリーク(畸形)をテーマにした短編3編。綾辻さんは「Another」しか読んだことがないのだけど、これはなんとも江戸川乱歩っぽいというか、違う意味で不気味な作品でした。「夢魔の手―三一三号室の患者」「四〇九号室の患者」は何となく落ちが読めたのだけど
◆ジャイロスコープ (伊坂幸太郎)
なかなかに多彩な短編7編を収めた短編集。
「ギア」はセミンゴという謎の生物が暴れる世界を描いた訳のわからない話、伊阪さんらしくないような。
「彗星さんたち」TESSEIのことはビジネス書で読みました。パウエル国務長官の自己啓発本も読みました。これもちょっと意外なお話。
「浜田青年ホントスカ」「二月下旬から三月下旬」「if」「一人では無理がある」、そして最後は「後ろの声がうるさい」で伊阪さんらしくまとまりました。
◆革命のリベリオン: 第II部 叛逆の狼煙 (神永学)
新潮文庫の100冊ということでⅠ部、Ⅱ部と手に取ってみたのだが、軽い感じのお話で、普通にライトノベルでした。
Ⅲ部は来年とか。それまでに内容をわすれてしまいそう。あまり引っ張らずに、Ⅲ部くらいで完結してくれることを望みます。
◆八甲田山死の彷徨 (新田次郎)
八甲田山の悲劇は映画にもなったので知っていたが、全工程を踏破した部隊があったということは知らなかった。
成功する組織と失敗する組織の差、指揮命令系統、組織組成の重要性、謙虚であるということ、リーダーシップということについて、いろいろと考えさせられる作品でした。
集英社の「ナツイチ」から2冊。
◆残酷な王と悲しみの王妃 (中野京子)
私は歴史ヲタを自認しているのですが、それは日本史に限ったことで、西欧史は、大学受験で勉強したはずなのですが、ほとんど忘れている。
日本の戦国時代とほぼ同時期の欧州の歴史なのですが、日本と際立って違うのは、キリスト教、ローマ教皇が権威をもっているため、離婚や側室が認められないこと。さらには女性でも皇位継承権がある国があり、それが王妃の立場を日本よりも悲惨なものにしている。
外交の駒であり、子を産む道具であるのにリプレースが容易ではない。西欧史は日本の戦国時代より恐ろしい。
◆おしまいのデート (瀬尾まいこ)
祖父と中学生、元不良高校生と元教師、クラスメートの男子高校生、せつなくもほのぼのとしたそれぞれの別れ、その次を感じさせるバツイチとバイトの大学生、徐々に距離を縮めていく保育士と園児とそのお父さん、心温まる短編集でした。
角川文庫の「カドフェス」から2冊
◆おちくぼ姫 (田辺聖子)
不勉強にて原作を知らなかったので、田辺聖子さんのこの小説がどの程度原作に忠実なのかは分かりませんが、、、
光源氏とは全く違う、少将とおちくぼ姫の王朝純愛物語。
継母への仕返しも、そこは日本らしく最後はハッピーエンドで、これが10世紀に書かれていたということが、すごい。
◆フリークス (綾辻行人)
最後の「フリークス―五六四の患者」は、そうきたかというか、最後まで謎の余韻を残して終わっていて、楽しめました。
◆火花(又吉直樹)
「世間じゃずいぶん話題になってるけど、どんなもんかいな?」くらいの気持ちで読み始めたのですが、面白くて一気読みでした。
神谷先輩、孤高の天才、その唯一といってもいい?理解者、崇拝者の徳永。
漫才師かくあるべきとの信念を曲げない神谷と、漫才師であり続けることに全力を傾けた徳永、スパークスの最後の漫才は悲しくも感動的。
やるだけやった徳永となにもできなかった神谷、でも成功するにはもっと別のものを持っていなければならないのかな。
二人のお笑い哲学が心に沁みました。
◆もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら(岩崎夏海)
再読。本棚を整理していて、何とはなしにまた読んでしまった。
元ネタ本のドラッカーの「マネジメント」も読みましたが、大切なことは、それぞれの持ち場で、学んだことを実践すること。
◆虎よ、虎よ! (アルフレッド・ベスター)
「ガーディアンの1000冊」「長門有希の100冊」。
てんこ盛り、波乱万丈、急転換で、「ついていけませんっ!」て感じのSF、ストーリーを追うと疲れるので、ただ体感するように読めばよいのかな。
これが1956年、約60年前の作品だなんて、信じられません。
石ノ森章太郎はこの小説を読んで「サイボーグ009」を書いたのだな、当時はまだ「パクリ」という概念は薄かったんだなって思いました。
◆逆説の日本史 18 幕末年代史編 1 (井沢元彦)
根拠なき楽観、無作為、頑迷、日和見、先送り、有能者の排斥、平和はいかに為政者の危機管理能力を喪失させるものか。
「異人は切り殺せ」の小攘夷の人々も同様で、話にならない。おかげで明治維新に至るまでに、日本はたくさんのものを失った。
でも今も「日本国憲法は祖法でござる」みたいな政治家はたくさんいるし、安保法制に反対するからには、中国の領海侵犯や北朝鮮のミサイルに対し具体的な対抗策がなければならない。
「起こらないと思う」「何とかなるのでは」「話し合いで」では江戸幕府と変わらない。現代人も歴史に学ばないと。
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