大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト『大島優子がやってくる!』

2017-01-05 07:30:04 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
『大島優子がやってくる!』



「大島優子がやってくる!」とザキシマからメールが入ったのは夕べというか、日付が変わって一時間ほどしてから。

 佐々木は大のAKBのファンで、オシメンは未だに大島優子だった。
 昨夜も遅くまで、大島優子が入っている『恋チュン』を探しては、繰り返し動画サイトで見ていた。
 あっさり信じ込んだのは、南森町一番出口に大島優子らしき人物とザキシマが並んでいたこと、大島優子のブログを見ると、昨日と今日は仕事で大阪に行くと書いてあったから。

 今は春休み中。学校にやってくるということは、学校訪問の番組。それも夏休み中だから、見るものと言えばクラブ活動ほどしかない。それでなきゃ、ロケ地にうちの学校が選ばれて、純然と仕事でやってくるか? ここのところ大島優子のドラマへの露出が増えている。あり得ない話しではない。

 で、佐々木は久方ぶりに時間通りに、所属クラブである演劇部に顔を出すことにした。

「やあ、ほんまに来てくれたんや!」
 ザキシマが目を丸くして驚いていた。ちなみに佐々木とザキシマは中学からの腐れ縁。ちょっと親しい女友達ってところだったし、佐々木は人に注目されるのが大好きなイチビリ人間。女の子がいっぱい居るということとザキシマがしつこく勧めるので、演劇部に籍をおいた。基礎練習なんかカッタルカッたけど、女の子ばかりのところに混じってやっていると『へんなやつ』というオーラを発している自分に気づく。
 これが佐々木にはたまらなかった。吉本系人間の佐々木は『けったいなやつ』と思われるのが無上の喜びなのである。

 顧問は、東京のW大学の演劇科を出た友山という先生で、はっきり言って時代遅れ。佐々木のパフォーマンス感覚とは水と油だったが、その場しのぎの当て書きが上手い先生で、作る話はうすっぺらいけど、稽古中の本人がチラッと見せる良さを作品に取り上げ、すぐに改稿して好きなようにやらせてくれるので、佐々木には居心地のいい場所になった。
 去年のコンクールでは、軽い青春ドラマだったけど、観客の反応もいけてたし、舞台に立っていても充実感があった。

「これは地区優勝間違いなし!」

 と思ったら落とされた。優勝したのはOM高校で、不登校の話だった。台詞は聞こえないわ、ドラマとして人間同士が誰も絡み合っていない。終わって幕が下りたときも「え、おわり?」という感じでお義理の拍手がきたのは幕が完全に降り切ったときだった。
 審査の講評では「その伝わらないところが現代の高校生の孤独をよく表している」というワケの分からない理由で一等賞になった。
 大橋むつおというオッサンが、大阪は審査基準がないのが最大の問題ということをブログで、何度も書いていた。ネチコイオッサンだと思っていたが、実際審査される側に立つと、大橋という人のいうことも、あながち外れていないと思うようになった。

 審査員の実際のボスは白瀬という高校の教師で、芝居が好きな割には演劇部の顧問もやらず、ひたすら芝居を観まくっては、感想をブログで書き散らしてるオッサン。
 で、それ以来佐々木はクラブから足が遠のいている。そんなことよりもAKBの動向の方が大事だった。
 歳の割には、古参の選抜メンバーが大好きで、タカミナの卒業予告に驚き、大島優子の卒業に涙していた。

「で、ザキシマ。大島優子さんは、どこに居てはんねん!?」
「ああ、あそこ」
 さされた指の先にはザキシマの綺麗に切った爪があり、さらにその先に焦点を合わせると、稽古場にしている多目的教室の隅っこに中学生がお行儀よく座っていた。
「あの子、ほんまに大島優子いうねん。最初からうちの演劇部に入りとうて、入学した子。正確には四月にならんと部員になられへんけど、とりあえず見学に来てもろた。大島さーん!」
「はい」
 と返事した顔は、選抜に入るまえのパルルににていたが、パルルは佐々木の趣味ではなかった。
「あの写メの大島優子は!?」
「ああ、たまたま出会うて声かけたら、気楽に写メ撮らせてくれはった」
「なんやて~!」
 そんな先輩二人のやり取りを、大島優子は尊敬の混ざったニコニコ顔で見てくれた。

 尊敬のまなざしで見られるというのは悪いものではなく、佐々木は、そのまま演劇部に復活した。

 中演というのは、今や絶滅同様で、演劇部の経験ありという大島優子はぐんぐん力を付けてきた。そして迎えた、その年のコンクール。
 浦島太郎に似た名前の審査員は、ものの見事に佐々木の学校を落としていった……どころか、大島優子と佐々木が演劇的なコミニケーションがとれていないとケチをつけた。去年の白瀬は、逆の目で芝居を観て行った。大島優子は可愛そうに、佐々木の胸に顔を埋めて泣いた。
「ほんま、大阪は、どないなっとんねん! なあ優子ちゃん!」
 佐々木は本格的にクラブを辞めた。どううわけか、大島優子も辞めた。ご丁寧に学校まで辞めてしまった。

 大島優子は、大阪のアイドルグループの研究生になった。で、通学条件が合う学校に転校してしまった。

 佐々木の学校は、本当に損をした。たった十カ月で大島は研究生から大抜擢されて選抜メンバーに入り、テレビとパソコンの画面でしかお目にかかれない子になってしまった。

 そして、佐々木の成果は、数年後ザキシマの苗字を佐々木に変えたこと。披露宴には出世した大島優子が来てくれて評判になったこと。


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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『忍びの国』

2017-01-05 07:02:21 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『忍びの国』


昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が身内に流している書評ですが、もったいないので、転載したものです。


「のぼうの城」作者/和田竜の忍者小説です。

 山田風太郎亡き後、このジャンルは久し振りです。作品そのものは5年程前の物ですが23年に文庫化(新潮)しています。
 一読、さすがに和田竜、一行目からありありと画が浮かび上がって来ます。物語は、織田信長の伊賀攻めの前に、伊勢の国を支配した信長次男/北畠信雄と伊賀との戦いがメインのお話。ストーリー展開は史実をベースに虚実取り混ぜて繰り広げられる。
 主人公は“無門”と名乗る伊賀一の術者……この人物は作者創作だと思うが、その他の登場人物は 皆実在した人々。とはいえ、作者の視線は歴史専門家と読者の中間に位置し、適度に史書を引用しながら語って行く。
「のぼうの城」もそうだったが、主人公/無門以外の人物像も鮮明に描かれていて、それぞれがなかなかに魅力的である。作中、名前の出て来る人物は皆丁寧に書き込まれている。
文吾(後の五右衛門)に思い入れる人もいるだろう、信雄の悲しみに共感する人もいるだろう、大膳の戦国武者の生き様を是とする人もいるだろう。
 すなわち、読み手によって本作の主人公は変わる。 本来、本作の主人公は、百地党一の術者“無門”に違いはないが、それ以外の登場人物が その位魅力的に書き込まれている。戦国戦略ミステリーとしても第一級作、余計な事は一切言わない。風太郎以後、読む本が無かったと嘆いている方々よ! 刮目しつつ本書を読みたまえ、内容絶対保証!
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