信長狂詩曲(ラプソディー)・10
『彩雲を待ちながら』
信長という姓は山陰地方に多く見られ、広島県尾道市から岡山市の間に集中してみられる。信永氏、延永氏からの転化だといわれ、けして冗談や気まぐれで付いた苗字ではない。これは、そんな苗字で生まれた信長美乃の物語である。
校舎の脇を通ると、非常階段でピカリと光るものがあった。
「なにしてんのよ、こんなとこで?」
美乃は、光がした非常階段の一番上まで上がってみた。クラスの滝川と、顔は分かるが名前までは分からない二人が体操服姿で、彼方の空を見ていた。
「今度こそだぞ、滝川……」
「おう……」
「今だ!」
滝川がスマホを構えた。さっき光ったのは、このスマホだろうと分かった。そして、スマホのレンズが向いている方向に感動的なものを見た。
中天高く昇った太陽の前を真綿のような雲がかかり、それが七色に染まったのだ。
「きれい……あんなの初めて見た」
「あれは彩雲とか瑞雲とか言うんだ。そう珍しい現象じゃないけど、虹ほど大きくないから見逃すことが多い。それに、色やカタチのいいのはなかなか撮れないからね」
名前の分からない男子が言った。
「意外に高尚なことやってるのね。てっきりタバコでも喫ってんのかと思った」
「中学で止めたよ。高いし、体に悪いからな」
滝川がオッサンのようなことを言う。
「あたし、信長美乃。あなたは?」
「明智光。あんまり目立たないから知らないだろう。おれは隣のB組で君のことは知ってるけど。ってか、清洲高で君のこと知らないやつなんていないだろうけど」
「ハハ、よろしく。あなたみたいな人が隣りのクラスにいるなんて知らなかった。連休前までは引きこもってたからね」
「それも含めて知ってる。滝川がクラスの退学第一号になりそうって言ってたからな。こんなイメチェンで復活してくるとは思わなかった」
「美乃は、連休が明けて人が変わっちまった。ワケわかんねえけど、良い奴になった」
「お前のルーズな腰パン止めさせたんだもんな。オレが言っても聞かなかった浩一をさ」
「オレも、そろそろ、そういうの卒業しようと思ってたとこだったしな」
「ハハ、たまたまなんだね」
「ま、そういうことにしておこう」
「うっせー、おまえら」
滝川が口を尖らせる。意外に可愛い顔になる。
「あ、そろそろ時間だ」
「まだ四分あるぞ」
「今日はライン引きなの」
「信長さんて、スケバンにはならないんだ……」
「そういうの腰パンよりかっこわるいから。じゃ」
非常階段を二階まで降りて、美乃は思いついた。
「ねえ、お願いあるんだけど!」
三階の途中まで戻って、見上げるようにして二人に言った。
「分かった、のるよ」
「え、あたし、まだなんにも言ってないよ」
「その顔見ただけで、面白そうなことだって分かる。体育終わったら聞かせてよ。オレ達も、そろそろ行くわ。もう彩雲消えちまったし」
そう言うと、二人は美乃を追い越して非常階段を降りていった。
学校が、もう一つ面白くなるような気がしてきた。
『彩雲を待ちながら』
信長という姓は山陰地方に多く見られ、広島県尾道市から岡山市の間に集中してみられる。信永氏、延永氏からの転化だといわれ、けして冗談や気まぐれで付いた苗字ではない。これは、そんな苗字で生まれた信長美乃の物語である。
校舎の脇を通ると、非常階段でピカリと光るものがあった。
「なにしてんのよ、こんなとこで?」
美乃は、光がした非常階段の一番上まで上がってみた。クラスの滝川と、顔は分かるが名前までは分からない二人が体操服姿で、彼方の空を見ていた。
「今度こそだぞ、滝川……」
「おう……」
「今だ!」
滝川がスマホを構えた。さっき光ったのは、このスマホだろうと分かった。そして、スマホのレンズが向いている方向に感動的なものを見た。
中天高く昇った太陽の前を真綿のような雲がかかり、それが七色に染まったのだ。
「きれい……あんなの初めて見た」
「あれは彩雲とか瑞雲とか言うんだ。そう珍しい現象じゃないけど、虹ほど大きくないから見逃すことが多い。それに、色やカタチのいいのはなかなか撮れないからね」
名前の分からない男子が言った。
「意外に高尚なことやってるのね。てっきりタバコでも喫ってんのかと思った」
「中学で止めたよ。高いし、体に悪いからな」
滝川がオッサンのようなことを言う。
「あたし、信長美乃。あなたは?」
「明智光。あんまり目立たないから知らないだろう。おれは隣のB組で君のことは知ってるけど。ってか、清洲高で君のこと知らないやつなんていないだろうけど」
「ハハ、よろしく。あなたみたいな人が隣りのクラスにいるなんて知らなかった。連休前までは引きこもってたからね」
「それも含めて知ってる。滝川がクラスの退学第一号になりそうって言ってたからな。こんなイメチェンで復活してくるとは思わなかった」
「美乃は、連休が明けて人が変わっちまった。ワケわかんねえけど、良い奴になった」
「お前のルーズな腰パン止めさせたんだもんな。オレが言っても聞かなかった浩一をさ」
「オレも、そろそろ、そういうの卒業しようと思ってたとこだったしな」
「ハハ、たまたまなんだね」
「ま、そういうことにしておこう」
「うっせー、おまえら」
滝川が口を尖らせる。意外に可愛い顔になる。
「あ、そろそろ時間だ」
「まだ四分あるぞ」
「今日はライン引きなの」
「信長さんて、スケバンにはならないんだ……」
「そういうの腰パンよりかっこわるいから。じゃ」
非常階段を二階まで降りて、美乃は思いついた。
「ねえ、お願いあるんだけど!」
三階の途中まで戻って、見上げるようにして二人に言った。
「分かった、のるよ」
「え、あたし、まだなんにも言ってないよ」
「その顔見ただけで、面白そうなことだって分かる。体育終わったら聞かせてよ。オレ達も、そろそろ行くわ。もう彩雲消えちまったし」
そう言うと、二人は美乃を追い越して非常階段を降りていった。
学校が、もう一つ面白くなるような気がしてきた。