大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・信長狂詩曲(ラプソディー)・19『商店街デビュー・4』

2017-03-20 06:32:45 | ノベル2
信長狂詩曲(ラプソディー)・19
 『商店街デビュー・4』



 信長という姓は山陰地方に多く見られ、広島県尾道市から岡山市の間に集中してみられる。信永氏、延永氏からの転化だといわれ、けして冗談や気まぐれで付いた苗字ではない。これは、そんな苗字で生まれた信長美乃の物語である。



「ねえ、放送局が来てるわよ!」


 袖幕から覗いていた森蘭が言った。感動はしているが、いつも冷静なところが、この子の取り柄だ。
「事件があったせいだろうけど、確実に公共の電波には乗るわ。これはチャンスです」
「うん、災い転じて福よ。持ってる力出し切りましょう!」
 宇子先輩が間髪入れずに檄を飛ばす。しかし木下藤子が手を挙げた。
「なに、木下さん?」
「こんなチャンス、当たり前にやっちゃもったいないです。一工夫しましょう!」
「え、今から?」
 さすがの美乃もびっくりした。
「本番まで30分もないよ。一工夫たって……」
 藤子は、ポケットからUSBメモリーを取り出した。
「思い付きだったんですけど、軽音に校歌をロック風にアレンジしてもらったんです。で、不思議なことにフォーチュンクッキーの清州版の振り付けがぴったり合うんです。やってみませんか!?」
 言いながら、藤子は、PAのパソコンにUSBをセットし終わっていた。
「……ほんとだ、フォーチュンクッキーでいけるよ!」
 みんなもヘッドセットで聞きながら、フリをあわせた。
「少しアレンジしよう。サビのところで、前列と後列で一小節ずらそう。で、ラストの決めポーズは、各自の思い付きでやってみよう」
「まだ20分ある。合わせとこう!」

 ヘッドセットから流れてくる音だけを頼りに、みんなで合わせてみた。サビの一小節ずらしはうまくいったが、最後の決めポーズがオリジナルから抜け出せなくて半端なバラバラになる。
「みんなね、ネコになった感覚でポーズ作って」
 藤子がそう言って、みんなのポーズを修正していった。そして宇子と美乃で全体のバランスを調整した。

「さあ、本番いくよ!」進行係の旅行代理店の兄ちゃんが本番を告げに来た。

「みなさん、本当に今日はありがとうございます。こうやって集まってくださったお客さんたち、そして裏で支えてくださっている商店会のみなさん。そして陰で警備してくださっている警備員と警察の方々のおかげで、ラストのステージがやれます。わたしたちも感謝の気持ちでいっぱいです。ついさっきも、みなさんの期待に応えたいと、わたしたちなりに最後の工夫をしてみました。精一杯がんばります。みなさんも、どうぞ最後まで楽しんでいってください!」
 そして、予定していた8曲がステージと観客席が一体になって進んでいった。間のMCも藤子を中心に宇子や美乃も入って大いに盛り上がった。
「ほんとうは、いまの『前しか向かねえ』でフィナーレなんですけど、急きょ一曲増やしました。お客さんの1/3はご存知かもしれません。よかったらいっしょに歌ってください。じゃ、いくよ、みんな!」
 イントロでは、分からなかったが、歌詞のところで分かる人が半分近くいた。

 清州の清流、泳ぐ若鮎のように、わたしたちはここ雪解けの流れの中に~♪

 最後の決めポーズも完璧だった。放送局も事件のニュースとしてではなく、一つのイベントとして撮ってくれた。むろんニュースの枠の中での放送だから編集され、パフォーマンスのところなんか、ほんのちょっとになるんだろうけど、これが出発だと美乃は思った。

「美乃、大した反響だよ!」

 家に帰ると兄貴が出迎えてすぐリビングに戻っていった。なんと第三部が、全部流されていた。
「番組に時間枠がないんで、各放送局が撮った映像を編集して、YOU TUBEにアップロードしていた。着替えるのも忘れて最後まで見終わると、アクセスが一万件をこえていることを知った。

 その夜、絶賛のこコメントで、美乃のブログは炎上した……。

コメント
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