鳴かぬなら 信長転生記
これをお使いください
織部が差し出したのは袋竹刀(ふくろしない)だ。
普通の竹刀に革袋を被せて漆で塗り固めたもの、おおよそそうだ。
元の世界で、剣術の稽古と言えば木刀だったが、力加減ができなければ、けっこうな怪我をする。
後に竹刀が発明されるが、竹刀と木刀の間に存在していた稽古用の刀で、鍔がないのが外見的な特徴。竹刀よりも当たりが穏やかだが、値段が高くてメンテナンスが難しい。
つまりは、竹刀の高級品だ。
「剣術にも『侘び寂びの境地』をと、用意いたしました」
「剣術に侘び寂びか?」
ブン!
信玄が上段に構えて、豪快に振る。
「いささか軽い」
「試してみなければわからんな」
信信コンビは素直には認めない。
「試してみよう」
俺は実証的だ。
「「よかろう」」
戦国の三雄が、木刀、竹刀、袋竹刀を持ち替えては試すことになる。
カン! カン! カンカン!
「馴染みの手応えだ」
木刀の硬質な音と手ごたえは、やっぱりシックリくる。
パン! パン! パンパン!
「竹刀は祭りの景気づけにはいいかもしれん」
「諏訪湖の御神渡りの音に似ている」
バシ! バシ!
「袋竹刀は音が濁る」
「侘び寂びと言われれば、そういう気もするがな」
「個人的には、毘沙門天の凄烈さにも似た木刀の響きがいいが」
「そうそう、響きといいますと……」
織部が目を輝かせて割り込んできた。
「なんだ?」
「川中島の一騎打ちでは、謙信公の太刀と信玄公の軍配が『カキーン コキーン』と小気味よく木霊したと聞いておりますが、信玄公の軍配は、何で出来ておったのですか!?」
「ああ、あれか。ええと……南部鉄の一品であったか、明珍の業物であったか?」
「東映映画村の刻印があったような気がするが」
「謙信の兜こそ、眉庇の裏に大映のシールが貼ってなかったかあ?」
「東映? 大映? ひょっとして、お二人は……?」
「「本物だ!」」
「川中島では何度も戦ったからな、わしのも謙信のも武具は痛みが激しくてなあ……」
「映画屋の情熱とはすごいものであったぞ」
「ああ、もう大型時代劇は撮れないというので、時空を超えて持ってきてくれたんだ」
「大映の道具係りなど、大映倒産のあとは、こっちに住み着いて、最後までやってくれたなあ」
「そうそう、わたしの陣太刀など、道具屋の習慣で、あやうく竹光にされるところだったぞ」
「それなら、大魔神をお借りになれば、一気に有利に……」
「「それは反則だろ!」」
反則も何も、大魔神はボークスとかいうフィギュア屋に引き取られているはず……俺も、なんで、こんなマニアックな情報を知っているんだ?
ゴホン!
咳払いに振り返ると、武蔵がいっそうの三白眼になってイラついていた。
☆ 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生
- 熱田敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
- パヴリィチェンコ 転生学園の狙撃手
- 二宮忠八 紙飛行機の神さま