大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・070『今夜も酒盛り』

2021-09-29 13:31:14 | 小説4

・070

『今夜も酒盛り』 加藤 恵  

 

 

 氷室カンパニーは単純な者が多い。

 B鉱区のパルスガ鉱石に見込みがないと分かっても、一瞬がっかりするだけだ。

「今度採れた分だけでも、とうぶん酒代には困らない、好きなだけやってくれ!」

 がっかりした社員たちに氷室がメガホンで言うと、瞬間で笑顔が戻ってきて「それなら今夜も!」と上機嫌の歓声があがる。

 ウオーーーーーーー!(^▽^)/!

 歓声が鎮まる間もなく、あちこちで酒盛りが始まった。

「二年分とは言わないのね?」

 後ろに立ってこっそり言うと、回れ右して顔を近づけてくる。

「そんなこと言ったら、これから二年間はろくに働かなくなる」

「なるほど……」

「『とうぶん』というのは人によって受け止め方がちがう。ほとんど永久だと思う者、まあ、一週間ぐらいだと思う者。一週間ぐらいだと思う者でも、一週間丸々飲んでいようという者もいれば、一週間後の作業再開の準備を心がける者といろいろだよ、ほら……」

 氷室の示した先には、とりあえず手近の酒瓶をラッパ飲みするやつ、倉庫に酒を取りに行くやつ、みんなで飲もうとテーブルや椅子を用意する者、酒の肴を作りにキッチンの火を起こす者、機械に油を差しておく者、二日酔いの薬をチェックする医療係り、いろいろだ。

「あ、ハナがゲートから出ていく」

「ハナは、近所に挨拶に行くんだ」

「あいさつ?」

「ああ『今夜もお騒がせします』ってね、ああ見えて、あかなか気配りのできる子なんだ」

「なんだか過去を感じさせる子ね」

「ここに居る者は、みんな世間の標準よりは重い過去を持っているよ。それを尊重しあうというのが、わが社の数少ないルール。ここでは、本人が言わない限り人の過去には触れない、メグミのこともね」

「社長のことも?」

「お、初めて社長って呼んでくれたね。それが一番しっくりくるかな」

「あ、じゃあ、そうするわ」

 なんだかはぐらかされた、ま、いいか。

「よし、ボクは酒の肴でもつくるか!」

「社長が?」

「ああ、アセトアルデヒドを分解しにくい体質なんでね」

「……もう、キッチンは一杯みたい」

「大丈夫、おーい、ニッパチ!」

 人の輪の外で突っ立ていたニッパチの首が、こっちを向いた。

「酒の肴作るから、手伝え!」

『がってん!』

 氷室……いや、社長はニッパチを引き連れると、資材の中からコンパネの切れを取り出してまな板にして、手当たり次第に余りものの食材で調理にかかる。

 一度ニッパチに見本をやって見せ、少し説明を加えると、次はニッパチにさせて、うまくいくと褒めてやる。

 ニッパチも、わたしが付けてやったリアルハンドのスキルが上がるのが嬉しいようで、ボディーをガチャガチャ言わせながら、宴たけなわになっても嬉々として調理をしていた。

 ルーズなようで、微妙にバランスの取れている氷室カンパニーではあった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ)

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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せやさかい・247『ハイベーが出なくて……』

2021-09-29 10:14:31 | ノベル

・247

『ハイベーが出なくて……』詩(ことは)      

 

 

 プピーー

 

 やっぱりハイベーで崩れてしまう。

 大和川の河川敷、聞いてる人もいないだろうからいいんだけどね……と思ったら、草叢でカサリと音がして犬が顔を上げた。こいつ、笑ってる……犬に笑われた。

 ペス!

 名前を呼ばれて犬は回れ右して駆け去っていく。堤防の下の所に中年のおばさんが犬に怖い顔をしている。

 自分でリードを放しといて怖い顔はないと思う。

 あ、いま『中年のおばさん』て思ったよね、わたし。

 おばさんは中年に決まってるはずなのにね……いや、若くても中年みたいなのは居るよ。

 いまのわたしみたいにね。

 プピラピラピラ……プヒーー

 やっぱり、ハイベー。

 まあ、サックスやめて一年。仕方ないか。

 

「今年度は無理ですね」

 

 ただでも隔たりを感じる学務課、コロナ対策のアクリルの衝立も空々しく、ますます隔たりを感じさせて主幹のIDぶら下げたおばさんに言われた。

 大学に幻滅したわたしは、ほとんど三蔵法師の気分になって留学を考えた。

 三蔵法師っていうのは孫悟空の親分というだけでは無くて、基本は求道者なんだ。

 中国の仏教に飽き足らず、天竺まで勉強しに行こうって発奮したえらいお坊さん。

「あれなに?」

 幼いころに、お祖父ちゃんに付いて行って、改築したばかりのよそのお寺に行った。

 お祖父ちゃんは、布教師の資格なんか持っていて、時々よそのお寺に講師で出かけるんだ。

 そこの本堂のマス目になった天井に駱駝やら砂漠やらインドらしき景色の絵がはめ込まれていた。うちの本堂の天井も同じように絵が描いてあるんだけど、昔ながらの花とか天人の姿なので、すごく珍しかった。

「あれは、三蔵法師が天竺まで行ってお経の本を頂いてくる様子を描いたもんや」

「へえ……」

 それから、十数年。わたしは三蔵法師になってみようと思った。

 と言っても、仏教の勉強じゃないよ(^_^;)、うちは兄貴が坊主になったから跡継ぎは十分。お寺に嫁入りするつもりもないしね。実は、坊主の奥さんてけっこう大変。坊守(ぼうもり)って言ってね、お母さん大変なの見てるしね。

 大学じゃ児童文学とかやってるから、そっちの勉強をね。

 一昨年、さくらがエディンバラとヤマセンブルグに行ってきた。エディンバラがハリポタの故郷だってことは知ってたけど、帰ってきたさくらの目はキラキラしてた。癪に障るから、さくらとそう言う話はしたことないけど、父親の失踪で歌おばさんとうちに来て、苗字も酒井に変わって、傍で見ていても痛々しいくらいいい子にしていた。

 それが、帰ってきてからは、とっても生き生きと自然になってきた。

 なにがなんでもという感じで選んだ学部じゃないけど、やるんなら今のうちだ。

 基礎ゼミの先生も学務課のおばさんも「中国にしたら」って言った。大学には中国の留学生も多くて、日中双方にパイプができているらしいけど、丁重に断った。先生に相談した三日後には、それまで口をきいたこともないゼミの劉さんが電話して来てビックリした。

 行くんならイギリス。

 その矢先にコロナだからね、まいっちゃう。ずいぶん粘ったんだけど、学務課で「今年度は無理ですね」と宣告されてしまった。

 あの内親王さまもエディンバラに留学されていた。庶民の娘には、道は険しい。

 久々にサックス担いで大和川の河川敷。

 思っていた以上に錆びついていて、ハイベーが苦しい(;'∀')。

 あ、サックスはピカピカだよ。わたし、モノは大事にする人だからね。

 もう二三日あったら勘も唇も戻ってくるかもしれない。でも、もうやらない。

 最後に一曲、ぜったい失敗しないやつ……

『蛍の光』を決めて自転車に跨って家路につく。

 帰路は抜けるような青空。ま、これで良しとしよう。

 

 

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ライトノベルベスト『夏のおわり・4』

2021-09-29 05:32:16 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

のおわり・4』  




 直接的な表現じゃないけど、結果的に「うんこ」を五回も連発した!

 お婆ちゃんが、今時珍しいカセットテープに放送の半分ほどを録音していた。他に電車の中で英単語覚えたことも、その理由と共にしゃべっていた。で、学校名こそ伏せられていたけど(学校の名前のとこは、ピーって音になってた)学校のあれこれ喋りまくり。こりゃ、明日からひきこもりと落ち込んで、晩ご飯にも出られなかった。

「いいじゃないの、あれは聞く人に力を与える話だったわよ」

 お風呂から上がると、やっぱりお腹が空くので、晩ご飯の残り食べていたら、お婆ちゃんが、テレビ見ながら言った。

「こんなに、無理に笑ってるバラエティー番組より、よっぽどよかったじゃない。あの話……話しもそうだけど、夏のしゃべり方って、人の心を和ませるよ。うん、素質かもしれないわね!?」
「ゲホゲホ、ゲホッ! あれが!?」

 あたしは冷や奴にむせながら、お婆ちゃんの誉め言葉を聞いた。お婆ちゃんは、うそは言わない。感情を顕わにすることなんかないけども、いつも落ち着いて、本当の話をしてくれる。
 お母さんは悪い母じゃないけど、その場の感情でしゃべったり、グチったり、文句言ったり。で、当然そこには、誇張やら、軽いウソが混じることがある。小さい頃は引っ込み思案で、言いたいことの半分も言えない子だったので、喋ったときには大いに喜んでやるようにして、お婆ちゃんはお母さんを育てたのだそうである。
 お母さんは、そうやって、それなりにイッッパシの婦人(お婆ちゃんが好きな言葉)になったのだそうだ。

 ただ、世の中は完ぺきに行くことは少なく、イッパシの女子高生、イッパシの女子大生、イッパシの作家になって、あたしを育ててくれて、ありがたいんだけど、あたしにはお父さんがいない。

 最初っからいない。

 いわゆるシングルマザー。

 お父さんが居ないことで特に寂しいと感じたことはない。友だちの中にも何人かそういうのがいる。
「そういうのもアリ!」
 たまに、そう言う話になると、たいていお婆ちゃんが、そう締めくくる。

『ごめんね、今日は騙したみたいで~』
「みたいじゃなく、騙したのコイトは!」
 いつ教えたのか、コイトは、あたしのアドレス知ってて、スマホをかけてきた。
『レギュラーが、急にアウトになっちゃって、ダメモトでディレクターに言ったら、イザってときはあたしが責任取るってことでOKくれたのよ』
「でも、騙した!」
『だから、それはゴメン。でもさ、ナッチャン、スゴイ反響だよ。放送局にいっぱいメールやら、お便りきてるから、あとで転送しとくね。で、またお座敷かかったら、よろしく!』
「もう掛けてこないで!」

 切った後、直ぐにコイトのメールが来た。添付で、リスナーのメールがコピーされて転送されてきた。

 で、不覚にも、そのいくつかにホロッとしてしまった。

――ナッチャンありがとう。こんな女子高生もあり! 二学期は学校行く気になりました――
――あたしも、ワケありで父なるものがいませんが、勇気もらいました!――
――ナッチャンのおかげで、リスカ用のカッターナイフ捨てちゃった!――
――ナッチャンみたいな子が、友だちにいたらなあ! ハミーゴより――

 バスタオルで、涙拭いていたら、お婆ちゃんが横にやってきた。
「ね、やっぱり夏は、いいことやったのよ。これは、まだ収まらないね……」
 そう言って、自分の昔話をし始めた……。

 で、明くる日、学校に行くと、加藤と雅美が、怖い顔していた。

「今さら、昔のあだ名の話なんかするなよな!」
「夏が、あんなに口の軽い子だとは思わなかったわ!」
「え、なんのこと?」

 あたしは、八重桜の昔話(第一話)もしてしまったようだった……。

「で、だーれ、八重桜の二人組は!?」

 コイトが、教壇で聞いた。
 4時間目のホ-ムルームに、渋谷が珍しくニコニコ顔で入ってきたかと思うと、その後からスタッフを引き連れてコイトが、フワフワのモテカワ系のコスであらわれた。で、トーゼン教室は歓声に包まれた。

 で、さっきの質問になったわけ。

 あー、親友二人の反応がコワイよー!

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