大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・067『氷室との出会い』

2021-09-17 15:04:06 | 小説4

・067

『氷室との出会い』 加藤 恵  

 

 

 

 眉毛剃ったら人相変わるよ。

 

 火星の仲間には言われた。

 緒方未来の姿が解除できないからだ。

 緒方未来に成りすまして火星に潜入したけど、彼女には強い味方がいたようで、予想に反して火星に戻って来てしまった。

 仕方なく、九分通り潜入に成功した扶桑城を後にして、ムーンベース経由で西ノ島にやってきた。さすがに眉は剃らないで、髪を切って、前髪を変えた。

 

「ひょっとして仕事を探してる?」

 

 振り返ると、旧式の戦闘服が立っている。

 戦闘服だけが立っていたら、24世紀の今日でもシュールすぎる。

 戦闘服の中身は、髭を剃ったら十倍はアドバンテージが上がりそうな男。

 細身だけど、関節とか丈夫そうで、意外に痩せマッチョかも。西南戦争で連隊旗を奪われたころの乃木希典に似ていると思ったけど、こいつは、乃木さんのような泣き顔じゃない。

 一秒で、そう感じたけど、おくびにも出さずに半分だけ正直に言う。

「わけありなんですけど」

「この島の人間はみんなわけありさ。いっそ、島の全員に訳有って苗字に改名させたら、スッキリする」

「ハハ、そうね、で、あなたは?」

「南の方の世話役をやってる氷室だ。きみは?」

「えと……加藤恵」

 どうせバレるから「本名」を言っておく。

「そう、どっちで呼んだらいい?」

「どっちって?」

「苗字か名前か」

「恵」

「じゃ、メグミ」

「あ、それカタカナのニュアンス」

「少しだけ斜めに外した方がおもしろい」

「変な人」

「変な人に変な奴って言われてしまった」

「人って言ったの、変な人」

「うん、だから、斜めに外した方が面白い」

「で、仕事って?」

「知っていたら教えてほしい。さっき、旧式のマイドが下りて来たって通報があったんだけど、知らないかなあ?」

「さあ、わたしは船に紛れてやってきたから」

「そうか、じゃあ……」

 ギッコン ズズー ギッコン ズズー

「わ!」

 岩陰から突然現れたものに、リアルに驚いてしまった。

「おお、ニッパチ、動けるようになったのか!」

 それは、野外作業に特化した旧式の労務ロボットだ。厳密にはロボットではなく作業機械に区分される。機械なので、ロボット保護法の適用は受けない。実数的にはヒューマノイドよりもずっと数が多いと言われている。

『PC容量ノ80%ヲ駆動系モジュールニマワシ……マシタ』

「ああ、ひどい声だなあ」

『コミニケーションヲ モニターダケニスレバ 左足動クカモ……』

 言うと、そいつはマンガの吹き出しのようなバーチャルモニターを出した。

「ベースに帰ってピックアップとってくるよ、しばらく、そこで我慢しろ」

『デモ、マイド見ツケニ行カナケレバ』

「お前の方が大事だよ、ニッパチ、とにかく待ってろ。すまん、ニッパチ見てやってくれないか。誘拐されると困るんでな」

『這ッテ行ケバ、付イテイケマス』

「それじゃ、虐待になっちまう」

『ニッパチハ作業機械、虐待ニナラナイデス』

「そんなこと言うな」

「よかったら、診てみようか、ロボットの事なら少しは分かるから」

「おお、メグミはメカに強いのか!?」

「多少はね」

「じゃ、ちょっと診てやってやってくれ、メカに愛情はあるんだけど、技術はからっきしでねえ」

「じゃあ……」

『オネガイシマス』

 ハンベと繋いで上半身の駆動系PCを腰から下の駆動系にまわしてやる。細かい作業だが、十分ほどで終了。

『おお、直りました! 上半身はグニャグニャですが、普通に歩けます!』

「声も戻ったじゃないか、やっぱりニッパチは温もりのあるアニメ声でなくちゃなあ!」

「えと、応急処置なんで、機材の整ったところでやり直した方がいいと思う」

「よし、メグミ、きみはたった今から、氷室カンパニーの社員だ!」

「あ、やったあ!」

 

 ズドドーーン

 

『あ、社長、マイドです! マイドが逃げていきますよ!』

 岩山の向こうから発射音。どうやら修理が終わったようで、本来の五倍ぐらいの騒音をまき散らしてマイドが上昇していく。

「惜しい、あんな旧型はめったに見られないのに……」

 雲間に上昇していくマイドを見上げる二人と一台の姿は、なんだか長閑で、お伽話の始まりのようにも終わりのようにも思えた。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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やくもあやかし物語・100『成敗!』

2021-09-17 09:55:27 | ライトノベルセレクト

やく物語・100

『成敗!』   

 

 

 ごめんね……ごめんね……

 

 遊んでいる長鳴き鳥を避けながら鳥居を出る。

 眼下に黄昏時の高安の郷が広がって、薄闇の果てに一の鳥居が標のように浮かび上がっている。

「この道を上がってきたのね……」

 首だけ出したチカコが意味ありげに呟く。

 一の鳥居までは、白っぽく玉祖神社の参道が伸びている。上ってきた時と全然印象が違う。

「参道を外れたところは妖の気配がする……」

 うん、他の道は黄昏の赤闇に沈んで、一歩踏み込んだら何が出てくるかわからない感じ。

「僕は、一足先に東高野街道に出るよ。やくもは、参道を下っておいで」

 長い参道をまた歩くのかと思うと、ちょっとだけ、気後れ。

「やくもが一の鳥居を出るまで、長鳴き鳥たちが呪をかけてくれる」

「シュ……」

「だいじょうぶだよ、今風に言えば白魔法。鬼からは見えなくなって、攻撃を躱しやすくなる呪だから」

 コケ

 振り返ると、長鳴き鳥が横一列になって見送ってくれている。

「じゃ、お先に」

 フワリ……

 黒髪とスカートをフワリ靡かせたかと思うと、電柱の高さほどに舞い上がって、あっという間に一の鳥居の向こうの東高野街道の方角に飛んで行った。

「じゃ、わたしたちも行こうか」

「あなたたち、しっかり護らなかったら焼き鳥にしちゃうからね!」

 コケ

「チカコ!」

 ムギュ

 チカコをポケットに押し込んで、一の鳥居を目指す。

 自分の体が、ボーっと光っているのが分かる。長鳴き鳥たちの呪が効いているしるしなんだろう。やがて、一の鳥居を出るころには、光は半分ほどになっていた。

 ウォーーン ウォーーン

 気配が道を行き来している。

「妖とか物の怪が通っている……無害なものばっかりだけど、さすがは東高野街道ね、京の都と高野山の行き来が想像以上」

「どっち行く?」

「あっち」

 ポケットから腕だけ出して北を指し示すチカコ。

 真っ直ぐ街道を北に行くのかと思ったら、途中からグニグニ曲がって、いつの間にか川沿いの土手道に出てきた。

 たぶん、こないだ来た恩智川。

 街灯があるので真っ暗じゃないんだけど、なんとも心細い。

 こんな時間でも、歩いたり自転車に乗ったりした人たちがポツリポツリ。半分くらいが高校生、女子がちょっと多いかな。

 途中切れかけの街灯が死にかけの蛍のようにチカチカ。

「ピストルは持ってるわよね?」

「うん」

 カバンの中でガバメントを握りしめている。セーフティーも外してある。

「初弾は籠めてある?」

「あ……いっかい出すね」

 ガシャ

 スライド(遊底)を引いて弾を込め、再びセーフティーをかけて、グリップを握ったままカバンにしまう。

「左に曲がる」

「うん」

 お地蔵さんが見えたところで左に曲がる。

 両側とも、ちょっと広い田んぼになっている。

 チラリと見えたお厨子の中、お地蔵さんは首だけ後ろ向きになっている。

「お地蔵、ビビってる」

「そろそろ?」

「居た」

 道の向こうにJK姿の俊徳丸の後姿、ちょっと青白く光ってる?

「まずい、鬼が狙いをつけ始めてる」

 他の通行人は、闇に溶けている。わたしは長鳴き鳥の呪がかかっていて、ほの白い。

 鬼が狙いを付けると、青白く光るみたいだ。

 

 ゾワ

 

 禍々しいものが追い越していった。

「鬼だよ!」

 それは、俊徳丸の上に来ると姿を現わした。

 青鬼だ!

 ゾワゾワゾワ

 虫のようなものが飛び跳ねる気配。

「妖たちが逃げている、いよいよだよ!」

 フ!

 音もなく、鬼が俊徳丸の背中に飛びかかる!

―― 今だ ――

 振り返った俊徳丸が口の形だけで言う。

 

 ドギュン!!

 

 エアガンだとは思えない音と反動があった。

 アウ!

 尻餅をつきながら、目だけは離さない。

 ボン

 意外にかそけき音をさせて鬼が四散した……。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

 

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ライトノベルベスト・「GIVE ME FIVE!・5」

2021-09-17 06:00:03 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『GIVE ME FIVE!・5』

 

 

「そんなこともあったわね」

 渡り廊下から降りてきたスーザンがしみじみと言った。

「止めんの大変だったんだから」
「ごめんね」
「もういいよ」

 ボクは、傷の残っている右手を、そっとポケットに突っこんだ。でも、スーザンは目ざとく、それを見つけて、ボクの右手を引っぱり出した。

「傷になっちゃったね」
「ハハ、男の勲章だよ」
「傷にキスしてみようか。カエルだって王子さまにもどれたんだし。ボクがやったら、傷も治って、キミはいい男になれるかもよ」
「その、ボクってのはよせよ。日本語の一人称として間違ってる」
「ボクは、ボク少女。いいじゃん。この半年で見つけた新しい日本だよ。キミも含めてね」
「よく、そういう劇的な台詞が言えるよ。他の奴が聞いたら誤解するぜ」
「だって、ボクはアメリカ人なのよ。普通にこういう表現はするわよ。ただ日本語だってことだけじゃん……あ!」

 スーザンが有らぬ方角を指差した。驚いてその方角を見ているうちに手の甲にキスされてしまった。

「あ、あのなあ……」
「リップクリームしか付けてないから」
「そういうことじゃなくて」
「……じゃなくて?」
 
 気の早いウグイスが鳴いた。少し間が抜けた感じになった。

「シアトルには、いつ帰んの?」
「明日の飛行機」
「早いんだな……」
「見送りになんか来なくっていいからね……ここでの半年は、ちゃんと単位として認められるから。秋までは遊んで暮らせる。もちろん、大学いくまではバイトはやらなきゃならないけどね」

 アメリカの学校は夏に終わって、秋に始まるんだ。

「ねえ、GIVE ME FIVE!(ギブ ミー ファイブ!)OK?」

 ボクは勘違いした。

 卒業に当たって、女の子が男の子の制服の何番目かのボタンをもらう習慣と。

 で、ボクたちの学校の制服は、第五ボタンまである。なんか違うなあという気持ちはあったけど、ボクは返事した。

「いいよ」
「じゃ、ワン、ツー、スリーで!」

 で、ボクたちは数を数えた。そして……。

「えい!」

 ブチっという音と、ブチュって音が同時にした。

 ボクは、てっきり第五ボタンだと思って、ボタンを引きちぎった。スーザンは、なぜか右手を挙げてジャンプし、勢い余って、ボクの方に倒れかかってきた。

 危ないと思ってボクは彼女を受け止めた。でも勢いは止められず、ボクとスーザンの顔はくっついてしまった。クチビルという一点で……。

「キミね、GIVE ME FIVEってのはハイタッチのことなのよ! ああ、こんなシュチュエーションでファーストキスだなんて。もう、サイテー!」

 それから、一年。ボクもスーザンも、お互いの国で大学生になった。

 

 で、ボクはシアトル行きの飛行機の中にいる。手には彼女からの手紙と写真。写真は少し大人びた彼女のバストアップ。胸にはボクの第五ボタンがついている。スーザンはヘブンのロックを、同じ名前の母校の生活とともにパスしたみたいだった。

 シアトルについたら、スーズって呼べそうな気がする。しかしボクの心って、窓から見える雲のよう。青空の中の雲はヘブン(天国)を連想させるが、実際はそんなもんじゃない。

 前の四列目の座席で乗客が呟いた。

「あれって、積乱雲。外目にはきれいだけど、中は嵐みたいで、飛行機も飛べないんだぜ」

 同席の女性が軽くおののいた。

 ボクの心は、もっとおののいている……。

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