やくもあやかし物語・102
鬼の手を前に考えている。
願いが叶うラッキーアイテムなんだけど、ちょっと考えものなんだ。
中秋の名月の夜、ピザが食べたいって思ったのよ。
するとね、お婆ちゃんがピザを注文してくれていて、お願いが叶った……。
ちょっとね、簡単すぎて気味が悪い。
例えばよ、ネットニュースなんか見てて「こんな奴死ねばいいのに」って思うことあるじゃない。
殺人とか、子どもの虐待だとか、女の人を騙したとか。
そういう呟きを拾って実行されたら怖いじゃない。
子どものころね「死ね」が口癖だった時期がある。
今は言わない、いや、言ってないと思う……自信ない。独り言で言ってるかもしれないよ(;'∀')。
そんな独り言で実行されたらかなわない。
「考えすぎだよ」
チカコが言う。
チカコの言うこともアテにならない。
でも、集中力が続かなくって、お風呂に入るころには忘れてしまう。
髪の毛を拭きながら部屋に戻ると、開け放ったドアの前にゴキブリが歩いている。
死ね!
悲鳴の代わりに言ってしまった。
ポテ
一瞬で、ゴキブリは動かなくなってしまった。
すぐに、机の上の鬼の手に目が行く。
ゴキブリの死骸を始末して、わたしは鬼の手を机の奥にしまい込んだ。
そのあくる日、鬼の手をどうしてやろうかと思いながら学校から帰る。
引き出しに仕舞いっぱなしというのは、なんだか負けたような気がする。
そうだ、あいつは見かけは孫の手なんだ。
だったら、孫の手として扱ってやれば『自分の本来の仕事は孫の手なんだ』と自覚するかもしれない。
思ったら実行。
孫の手の鬼の手を出して、襟首から突っ込んで背中を掻いてみる。
ゾク(#゚Д゚#)
痒くもないのに、孫の手が触れるとゾクっとする。
プツン
抜こうとしたら、ブラの後ろに引っかかってホックが外れてしまった(#^_^#)。
クソ、やっぱりおちょくられてる。
こういう時は、一人で思い悩んでもろくなことがない。
「ちょっと出かけてくる、お風呂掃除までには帰るから」
リビングに声を掛けて、玄関にいそいだ。
『なんだ、やくも……』
『孫の手握ってましたねえ……』
お爺ちゃんお婆ちゃんの声を背中で聞いて、わたしは二丁目地蔵のところに急いだ……。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手