大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・58『思い出した!』

2021-09-02 13:05:37 | 評論

訳日本の神話・58
『思い出した!』  

 

 

 思い出した!

 

 トヨタマヒメと夜を明かしたヤマサチは、ガバっと起き上がりました。

 夕べまでトヨタマヒメと過ごした海底宮殿の甘い生活が、いっぺんに吹き飛んでしまいます。

「ぼくは、釣り針を探していたんだった!」

「あ、えと、釣り針なんて、どこにでもあるから、ね、そんなの忘れて寝ましょうよ。なんっだたら、また二人で励みますぅ(#*´ω`*#)?」

 そう言いながら、トヨタマヒメはヤマサチに身を寄せます。

「ウウ……めっちゃ未練は残るけど、そんなこと言ってられないんだ、針を、釣り針を持って帰らなきゃ、兄きにも、ご先祖の神さまにも申し訳がたたないんだ!」

「し、仕方ありません、お父様に相談します」

 

 トヨタマヒメはシャワーを浴びて身づくろいをすると、父のワタツミの神の部屋に向かいます。

 

「おお、トヨタマヒメ、朝からシャンプーの匂いなどさせよって……お!? ひょっとして!?」

「そんな話じゃありません! あの人、釣り針のこと思い出しちゃって……」

「だったら、抱き付いて励んでしまえば、すぐに忘れる。おまえの魅力は父が保障するぞ!」

「いや、もう通じないのよ。思っていたよりも大事な釣り針のようで」

「そうか、では仕方ない、魚たちを集めようか。おい、大臣……」

 ワタツミは大臣に命じて、釣り針に憶えのある魚たちを集めさせました。

 

「どうだ、おまえたちの中で釣り針に憶えのある者がいたら、手を挙げろ!」

 

 魚たちは、互いに顔を見かわして、ブツブツ声をあげます。

「手を挙げろと言われてもなあ……」

「俺たち、ヒレがあるばかりで、手も足もないからなあ」

「足ならあるぞ」

 イカが名乗り出ます。

「イカ、おまえ知ってんのか?」

「だって、足がいるって言っただろ?」

「釣り針を知っていたらだ」

「それなら、知らねえ」

「だったら、出てくんな!」

「オレ、知ってるかも……」

 

 今度は、タコが足をあげました。

 

「よし、知っているなら申せ! 正解だったらたこ焼きをやるぞ!」

「あ、共食いになるから、いいっす」

「じゃ、タコつぼをやろう。おまえ、先祖は貝類だから、居心地がいいぞ」

「あ、それ、いいかも(^▽^)/」

「で、どこで見た?」

「ああ、なんだか、鯛の親父が喉に引っかかって飯も喉を通らないってボヤいてましたから……」

「それだ! よし、鯛を呼べ!」

 

 呼ばれた鯛の喉には、ウミサチの釣り針が刺さっていました。

 

「よしよし、でかした! 鯛にはタイ旅行のクーポンとアンコ焼きの命名権を授けよう! タコにはタコつぼじゃ!」

 こうして、釣り針はヤマサチの手に戻ります。

 鯛はアンコ焼きをタイ焼きと命名して、ファンを獲得。タコは、タコつぼに住むようになりましたが、その習性を知った人間たちに掴まってしまう者が続出したという話でありました。

 

 

 

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せやさかい・241『委員長のM子さんが』

2021-09-02 09:52:06 | ノベル

・241

『委員長のM子さんが』頼子      

 

 

 晴れた日ならカーテン越しの朝日に美しい横顔を照らされて、英語か数学の予習をやっている委員長のM子さん。

 

 いつものように教科書と辞書が並んでいる机にピカリと光るものがある。

 え、スマホを見てる?

 教室を見回すと、そろそろ始業のチャイムだというのに、十人ほどの子がスマホを見たり、中には小さくたたんだ新聞を読んでいる子もいる。

 真理愛学院は、スマホの使用を禁止にはしていないけど、節度を持って使いなさいと言われている。

 だから、授業中に操作している子なんて、めったにいないし、休み時間でも見ている子は少ない。

 

 あれなんだろうな。

 

 見当はつく。

 社会的にショックな事件が二つあった。

 山梨県で女子高生が刺殺され、あくる日には犯人が逮捕された事件。

 ちょっと愛憎のもつれ的なところが関心を持たれる。

 もう一つは、内親王さまがご結婚のご意思を固められたというニュース。

 内親王さまと殺人事件を横並びというのは畏れ多いんだけど、両方とも、裏にいろいろある。

 

 ちょっと気になるので、ロッカーに辞書を取りに行くふりをしてみんなの様子を探る。

 

 ロッカーを開けると、後ろに人の気配。

―― コロシ2人、プリンセス7人 ――

 一瞬の呟きはソフィーだ。

 辞書を取ると、交代で自分のロッカーをまさぐるソフィー。

 わたしの様子を見極めて、そっと教えてくれたんだ。

 姉妹同然のソフィーだから、心の中で苦笑しておしまいなんだけど、ソフィーの仕事はガードの他に、わたしの監視もあるんだと思い返す。

 

 内親王さまのご決断に感想を口にするのは差し控えるけど、ロイヤルファミリーという立場の重さは他人事じゃない。

 

 いつもは敬遠しているお婆さまだけど、今日は無性に会って話がしたくなった。

 さすがにスマホを出すことはしなかったけど、一時間目が始まる前から学校の事が上の空になってしまいそう。

「起立!」

 M子さんの掛け声で我に返る。

 担任の先生が朝礼にやってきたんだ。

 スマホやアレコレを仕舞う気配があちこちでするけど、先生は苦情も言わずに、サッと出席をとって、マスク越しだけど、ハッキリ言った。

「よそのクラスで複数の感染者が出ました。よって、二年生は、ただ今より学年閉鎖になります。期限は二週間。詳しくは一斉送信のメールで昼までには送ります。万一感染した人やPCR検査を受けた場合は速やかに学校まで連絡すること、それでは、ただちに下校してください。起立!」

 先生は、委員長の掛け声も待たずに朝礼を打ち切って廊下に出る。

 そのまま職員室に戻るのかと思ったら、入り口を出たところで立っている。

 早く帰りなさいということだ。

 

「殿下、お車が……」

 

 そこを過ぎたら駅が見える公園の前にさしかかって、ソフィーが囁く。

 首を向けると、公園の向こう側の道路に青色ナンバーが停まっている。

 下校の列から離れて、公園を斜めに抜けて車に乗り込む。

「まっすぐ戻ります」

 消毒液を差し出しながらジョン・スミス。

 ダッシュボードには週刊Sが載っている。

 トップ記事が『内親王さま婚約者の母○○さん……』の大きな見出し。

 シートベルトをしようとして、ジョン・スミス。

「アフガニスタンにヤマセンブルグの者が数名残されています。関連記事が載っているものですから……」

 そう言うと、助手席に週刊誌を置いて、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

 昨日までの青空は、鈍色の曇り空になって、発車と同時にフロントガラスに雨粒が降りかかる。

「二日もすれば晴れるそうですよ」

 ソフィーが気遣って微笑ってくれた。

 魔法使いの末裔も少しはいい笑顔をするようになったかな。

 笑顔を返そうとしたけど、我ながら虫歯をこらえているような表情になってしまって閉口。

 閉口したまま領事館に帰った。

 

 

 

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ライトノベルベスト『しつこいんだよ先生・4』

2021-09-02 06:13:37 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『しつこいんだよ先生・4』    

 




 美紀をごみ置き場の観音開きの向こうに見送って、ため息ひとつ。

 たぶん、これで良かったんだと思う。中抜けというちょっとした冒険。姉貴の服に着替えさせてホテルへ。一通り喋らせると、オレは美紀をベッドに誘った。予想通り美紀は拒絶した。しかし「ごめんね」と言いながら目は潤んでいた。この次は、きっとうまくいく。

 そう思って振り返ると、オレのバイクに並んでもう一台のバイク……見覚えのある400CC……。

「ネネちゃん先生ご愛用のホンダの400よ」

 視野の外から声がかかった。

「ゲ、ネネちゃん先生!?」

 先生は、黒の短パンツナギに肘と膝にプロテクター。長い髪を風になぶらせて、まるで峰不二子。オレはルパン三世並の早さでバイクに跨ったが、バイクはウンともスンとも言わない。

「キーは預かってるわ。ここじゃ目につく、そこの公園にでも行こう」

 住宅街の小公園は、昼前ということもあって、人っ子一人いなかった。

「……どうして分かったんすか?」

「最初のメール見たのが失敗。あれ開くとGPS機能が働いて、どこに居ても分かっちゃう。鈴木オートもホテルナントカも。で、美紀ちゃんを学校に戻すの見当ついてたから、あそこで待ち伏せしてたわけ」

「オレの声色どうして分かったの?」

「石橋先生の横にいたのよ。石橋先生、あたしに振りたがってたけど、亮介の情報知りたくって、そのまま横で聞かせてもらった。声紋チェクで亮介だってことは分かってたけど、声色使ってまでのずる休みの動機が知りたくってね。石橋先生早く切っちゃったから、どこか女の子に会いに行くとこまでしか分からなかった。ちょっとややこしいことになりそうだから、ここまでフォローしてきたのよ」

「なんで、そんなことができるの……?」

「だって、あたしは亮介の副担任だもの」

「説明になってない。先生って、なんだか超人的だ……」

「あたしは特殊な先生なの。石橋先生みたいな無責任でもないし、亮介のご両親のようにそつのないベテラン風のマニュアル教師でもない」

「それって……」

 遠くで雷の音がした。嵐の予感がした。

「亮介の美紀ちゃんへの関心は、年齢的には相応なものだと思う。ホテルに誘ったのは少し飛躍だとおもったけど、無理押しはしなかった」

「そんなことまで……」

「言ったでしょ、メール開いちゃったから、みんなお見通し」

「無茶してないから、いいじゃん。ちゃんと時間通りに美紀送り返したし。明日はちゃんと学校行くしさ」

「亮介、君は順序さえ踏めば、それでいいって思ってんのよ。亮介の美紀ちゃんへの想いなんて、ただ女の子に対する関心をごまかしてるだけ。あけすけに言えば美紀ちゃんの心と体を自由にして楽しんでいたいだけよ」

「そ、それはあんまりな言い方だ!」

「ほうら、核心を突いたからムキになる」

「そ、そんなことは……」

「あるわ。亮介、あんた一度もあたしから目をそらさにじゃない。普通の人間は、言葉を選んだり、考えをまとめるために無意識に目線がずれるもの。ウソをつく前兆だけじゃないのよ、目をそらすのは……」

 オレの心はざわついた。自分でも美紀への気持ちは本物だと思っていたから……でも、オレのウソの核心は突いている。

「試してみよう……」

「え……?」

 ネネちゃん先生の輪郭がぼやけたと思ったら、二三秒で姿が変わった……え?

 その姿は、美紀そのものだった!

 

 

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