大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・243『敬老の日には間があるけど』

2021-09-11 15:39:31 | ノベル

・243

『敬老の日には間があるけど』さくら      

 

 

 懐かしいなあ……

 

 テレビを観てたお祖父ちゃんが呟いた。

 お祖父ちゃんは、半分引退した坊主なんで、昼間はリビングに居てることが多い。

「人が来はったら出やすいからなあ」

 というのが理由(言い訳)

 たしかに、おばちゃんは二つ奥の台所とか、家のあちこちで用事してることが多いから、場合によってはお客さんがあっても気ぃつけへんことがある。

「再配達になったら悪いしなあ」

 これも頷ける。

 郵便屋さんとか宅配が来ても、ピンポ~ンが聞こえへんかったら留守と間違われて再配達になることがあるからね。

 

 せやけど、お祖父ちゃんがリビングに居てるわけは……人恋しいからやと思う( ^ิ艸^ิ゚)。

 

 リビングと、その前の廊下は、うちでいちばん人通りが多い。

 家のみんなも、用事が無かったらリビングに来る傾向があるしね。

 リビングには80インチのテレビとかがあって、ぼんやり座ってるのにうってつけ。

 部屋にテレビがあったら、取りあえずテレビに向かって座ってみる。そんなことてあれへんやろか?

「それはね、ソファーとか、テレビを観やすいように配置してあるからよ」

 留美ちゃんの指摘は鋭い。

「まあ、お祖父ちゃんにしたら、取りあえずテレビの前に座ってたらかっこつくからだろうね」

 詩(ことは)ちゃんは分析する。

「真っ黒なままの画面見てたら認知症の兆候やぞ」

 テイ兄ちゃんは、面白がってる。

 そんなん当たり前やんか……と思たら、おっちゃんもおばちゃんも、時々お祖父ちゃんが見てるテレビの画面をチラ見して、真っ黒になってないことをチェック。

 で、お祖父ちゃんの観てるのは、おおかたユーチューブ。

「おじいさん若いわねえ」

 留美ちゃんは感心する。

「なんでぇ?」

「だって、普通のお年寄りは、漫然とワイドショーとか観てるっていうわよ」

「そうそう、だから日本の年よりは情弱っていうね」

 あたしは、テイ兄ちゃんがユーチューブを観易い設定にしてるからやと思う。

 ちなみに、お祖父ちゃんの部屋のテレビではユーチューブは見られへん。

「でも、あれって、お好み焼きじゃないの?」

 画面に映っているものをチラ見して、留美ちゃんが指摘。

 確かにフライパンの中でジュージュー焼けてるのはお好み焼きっぽい。

「だよね……ボールの中にキャベツと小麦粉を溶いたものが入ってて、かき混ぜて、ジュワッと焼いて……あれ、トッピングが無いよ」

「ブタタマの豚抜き?」

「いや、卵も入ってないみたいやし」

「ブタタマの豚卵抜き?」

「ただの『焼き』や」

 ウプ(〃艸〃)!

 留美ちゃんと詩ちゃんが吹き出す。

「キャベツ焼き作ろか(ˊωˋ*)!」

 お祖父ちゃんが振り返る。どうやら、聞こえてたらしい。

 うちらは、リビングの隣の茶の間で進路希望調査票を前に、あれこれ相談してたとこ。

 そのうち、お祖父ちゃん観てる方が面白なってきて、手がお留守になってたわけです。

 

 で、お祖父ちゃんは娘三人を引き連れてスーパーへ。

 通り過がりのオッサンらが、なんや羨ましそうな目つきで見ていきよる。

 まあ、敬老の日には間があるけど、お祖父ちゃん孝行の土曜日です(^▽^)。

 お好み焼きとキャベツ焼きの違いは、次回に回します。

 

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誤訳怪訳日本の神話・60『帰ってきたヤマサチ』

2021-09-11 09:24:02 | 評論

訳日本の神話・60
『帰ってきたヤマサチ』  

 

 

 ヤマサチが帰ってきただと!?

 

 ヤマサチの帰還を伝えられたウミサチはブッタマゲます。

―― くそ、釣り針にことよせて追放して、あいつの土地やら財産を奪ってやるつもりだったのに(҂⌣̀_⌣́)! ――

 しかし、帰ってきた者を無下には扱えません。

「おお、よく見たつけて帰ったな。さすがは、俺の弟だ。ま、とりあえず見せてもらおうか」

「はい、どうぞ」

 ヤマサチはワタツミの神に言われた通り、後ろ向きになって「ゴニョゴニョゴニョ」とお呪いの言葉を唱えて釣り針を手渡します。

「ま、これからは気を付けてくれよな」

「はい、兄上」

 表面は穏やかに言葉を交わして、弟を返すウミサチでしたが、そのすぐ後に、血相を変えて飛び込んできた家来の報告に言葉を失います。

 

「大変です、ウミサチさま!」

「なんだ、騒々しい」

「ウミサチさまの田んぼがカラカラに干上がってしまいました!」

「なんだと!?」

 

 家来たちと田んぼを見に行きますと、砂漠のようにカラカラに干上がっております。

 

「そうか、釣り針を返す時に、あいつ後ろ向きで、なにかゴニョゴニョ言っておったな!?」

「きっと、それが呪いの言葉だったのでございますよ!」

「くそ! 皆の者、かくなる上は、ヤマサチめをギッタギタにやっつけてやるぞ! すぐに武装して、やつの屋敷を襲え!」

「「「「「「オオ!」」」」」」

 

 いっぽう、自分の屋敷に帰ったヤマサチのもとをトヨタマヒメが尋ねてきます。

 

「姫、どうされたのですか?」

「じつは、お帰りになった後、お腹の中にヤマサチさんのお子が宿っていることが分かりました……」

「え、ええ、ボクの赤ちゃんが、姫のお腹の中に(# ゚Д゚#)!?」

「はい、それが……あ、あ、生まれそうです!」

「あ、ちょ、みんな、姫の為に産屋を作りなさい! 姫にとってもボクにとっても、最初の子どもだ、ちゃんとした産屋を!」

「「「心得ました!」」」

 

 家来たちは、大急ぎで姫の為に産屋を作りました。

 

「お願いです、わたしが無事に子供を産むまでは、わたしが『よい』と言うまではけして覗いてはなりません」

「わ、分かった、姫がいいと言うまでは、けして覗かないよ」

「きっとですよ」

「うん、きっとだよ」

 そうして、指切りげんまんをして、トヨタマヒメは産屋に入って行きました。

 

 似た話がありましたよね。

 そうです。

 黄泉の国へ行ってしまったイザナミを追いかけて「帰ってきてくれ」と頼んだイザナミに同じようなことを言ってますね。

「黄泉の国の神々と相談します。結論が出ればお知らせしますから、けして覗いてはいけませんよ」

「うん、分かった」

 返事はしたものの、あまりに遅いので、イザナミは、つい覗いてしまって大変なことになりました。

 

 ヤマサチも、堪えきれずに覗いてしまいます(^_^;)。

 

 堪え性がないというか、男と言うのは、元来そういう者なのか。女というのは、男に気を持たせるように出来ているのか、結論は人類滅亡の日まで分からないでしょう。

 覗いたヤマサチはビックリします。

 なんと、赤ん坊を産んでいるのは大きなサメだったのです!

「ああ、あれほど約束したのに覗いてしまったのですね(。>ㅿ<。)」

「ご、ごめん(;゚Д゚)」

 

 その時、見張りの家来が血相を変えてやってきます。

 

「大変です! ウミサチさまが軍勢を率いて攻めてこられました!」

「しまった、もう、お呪いが効いてきたんだ!」

 ウミサチの軍勢は、すでに山の麓にたどり着いています。

「あなた、塩盈珠(しおみつたま)をお投げなさい!」

 赤ん坊を抱きかかえたトヨタマヒメが叫びます。

「わ、分かった、こっちの珠だな」

「早く投げて!」

「えい!」

 

 塩盈珠(しおみつたま)は放物線を描いて、麓の軍勢の上に落ちて行きます。

 

 ドッシャーーーーン!!

 

 塩盈珠(しおみつたま)が弾けると、まるで天の底が抜けたような音がして、海の水がまとまって落ちてきます。

 ザップーン! ゴボゴボゴボ……

 軍勢は、麓の平地もろとも沈んでいき、それでも勢いは止まらず、ヤマサチのいる山さえ呑み込んでしまいそうな勢いです。

「す、すごい……」

 その威力にヤマサチは呆然とするばかりです。

「あなた! 早く、今度は塩乾珠(しおふるたま)を投げて!」

「う、うん、分かった。えい!」

 塩乾珠(しおふるたま)は同じように放物線を描き、その頂点で破裂。

 すると、地上を丸呑みするのではないかと思われた水が見る見る引いて、溺れそうになっていたウミサチとその軍勢は、やっと助かりました。

 

「ま、まいったまいった。オレの負けだ。これからは、おまえの家来になるから、この通りだ!」

 

 頭をこすりつけて謝るので、ヤマサチはウミサチを許してやります。

 

 しかし、振り返るとトヨタマヒメの姿はありませんでした……。

 

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ライトノベルベスト『さよならバタフライ』

2021-09-11 06:31:42 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『さよならバタフライ』    

 





 無数のチョウチョが空中を舞って飛び去っていくようなイメージだった。

「金床、○分○○秒!」

 コーチの金丸さんの声が頭上でした。とても他人様に言える記録じゃないので、タイムは秘密。

 だけど、ボクが水泳部に入って、バタフライでは最速の記録だ。

 

 今日は、ぼくの水泳部最後の日だった。

 

 三年生の引退は早い。一応進学校であるうちの高校は二年生がピークだ。朝から夕方遅くまで一万メートルも泳ぐことは、時間的にも体力的にも、受験を控えた三年生には無理だからだ。

 ボクは、去年の地区大会自由形で二位にまでいけた。それで十分だった。

 もともと名前がいけない。金床碇(かなとこいかり)どう見ても水泳部向きの名前じゃない。

 ボクの家は祖父ちゃんの代まで、近くの漁師さんやお百姓さん相手に、漁具や農具を作ってきた野鍛冶屋だった。

 お祖父ちゃんは、特に漁具、その中でも碇を作らせたら県の中では一番だった。

 特徴は長持ちすること。

 金床の碇は一生ものとか言われ、沿岸漁業がアゲアゲのころは大した羽振りで、女の人に入れあげては婆ちゃんを泣かせていたらしい。 

 それでもアゲアゲだったから、親類も世間も、男の甲斐性だ。くらいに見てくれた。

 でも、地域の漁業が廃れる……とは言わないが、横ばい状態になるといけなかった。なまじ一生ものなんて作る物だから、注文がほとんど来なくなった。

 で、昭和ヒトケタの祖父ちゃんは、生まれた初孫に「碇」という迷惑な名前をつけて、ボクが三歳のときに、あっさり死んだ。最後にお父さんに残した言葉が振るっている。

「腹上死がしてえなあ……!」

 病院のベッドで大声で叫んで逝ってしまった。狭い町なので、噂はパッと広がり腹上死の金床と、しばらく言われた。

 お父さんもお母さんも婆ちゃんも恥ずかしそうにしていたけど、ボクは平気だった。

 だって、みんな明るく腹上死の金床と言うもんで、ボクは誉め言葉だろうと思った。事実お祖父ちゃんは町のみんなから愛されていたことは確かだ。

 しかし、ボクも小五で腹上死の意味を知ると、やっぱ恥ずかしかった。

 水泳部に入ったのは事故のようなものだった。

 教室のある三階の廊下からプールは丸見えで、水泳部の女の子たちが泳いでいるのを、一年のときニンマリ見ていた。すると、同じクラスのダボハゼみたいな野島春奈ってのに言われてしまった。

「さすが、腹上死の孫ね。あんなの見てニヤニヤ、ガチスケベ!」

 で、

「ちがわい、オレは水泳部に入りたいんだ!」

 ダボハゼが犬の糞を飲み込んだような顔をした。

 ダボハゼは幼稚園から高校まで同じという、どちらにとっても有り難くない存在だった。

 ダボハゼは、腹上死の金床を知っている珍しいガキだったし。ボクはボクで、小六のとき、ダボハゼが廊下を掃除していて、ちり取りをとったところで、派手にオナラをしたのを聞いてしまっている。

 

 で、とにかく水泳部に入った。

 

「おまえ、よくそれで水泳部入ったな」

 と、先輩にも仲間にも言われたが、コーチ一人が庇ってくれた。

「オレだって金丸。同じ金付きだ。オレが泳げるようにしてやる」

 で、ほんとうに、ある程度は泳げるようになった、クロ-ルでは、部内でトップクラスになった。

 でも、他の泳法はさんざんだった。特にバタフライがいけない。

「金床のは、テンプラ鍋に飛び込んだアマガエルみたいだ!」

 と、言われた。やたらに水しぶきは上がるけど、前に進まない。コーチには「腰が定まっていないからだ」と技術的に指導を受けた。

 しかし、今日で引退。もうみっともないバタフライを人に見られずに済む。

 でも……信じがたいだろうが、ボクのバタフライを誉めてくれたやつがいる。それもとても可愛い子に。

 あれは、二年の一学期の中間明けだった。水島洋子という、なんだか水泳部向きの名前をした一年生が見学に来た。

「金床さんですね。いつも三階の窓から見てたんです。先輩のバタフライいいですよ」
「ええ、どこが!?」

 同輩たちが一斉に叫んだ。

「あ、あの力強さが、なんだかタグボートみたいに元気いっぱいで」
「アハハ、タグボートはよかったな!」

 洋子は、瞬間怒ったような目になったが、すぐに元の穏やかな目になった。

 二日目には水着を持ってきて、自分から泳ぎだした。名前に負けずきれいなフォームだった……え、あ、正直に言うと体のフォームも泳ぎのフォームも。な、正直だろ!

 二十分もたったころだったろうか、洋子が溺れた。コーチや女子部員が飛び込んで助けた。

「水島。おまえ、股関節……だろ」

 コーチが難しい病気の名前を言った。

「もう治ったと思っていたんです……」

 洋子は悔しそうにしていた。水から上がったばかりなのでよく分からなかったけど、あの子の頬をつたっていたのは水では無かったと思う。

 その日は、お父さんが職場から、そのまま駆けつけてきた。その時の制服で、この町の近くにある海上自衛隊の幹部だということが分かった。

 洋子は、それ以来水泳部には顔を見せない。もう泳ぐのを諦めたんだろう。

 どうしてか、水泳部最後の日に洋子のことを思い出した。きっと、最後という言葉のせいだ。

 コーチや、みんなに挨拶して、その日は早めに自転車で家に帰った。海岸通りに出ると、ときどき横殴りの風が吹いてきて、体をもっていかれそうになる。前線が近づいているようだった。

 日の出橋まできて、異変に気がついた。

 橋の真ん中に自転車が倒れ、小学校の低学年とおぼしきガキが泣き叫んでいた。

「どうした、おまえら?」
「お、おねえちゃんが海に。あたしたちを除けようとして……」

 その時、また突風が吹いてきた。ガキの目線の先には……洋子が、ぐったりして浮き沈みしている。

「この風にさらわれたんだな!」

 橋は、船を通すために十メートル近い高さがある。一瞬ビビッタけれど、体の方が先に動いた。

 我ながらきれいなダイビングだったと思う。

 海に飛び込むと、数メートル潜った。そして水を蹴って水面に顔を出すと方角を確認。しかし、橋の上とは違い、沈みかけた洋子は見つからない。

「水島! 洋子!」

 すると、橋の上のガキたちが方角を示した。いったん潜って洋子を確認し、ボクは泳いだ、それも、こともあろうにバタフライで。

 クロール! と頭の誰かが叫ぶんだけど、体は拒否してバタフライになる。そして、それは今まで体験したことがないほどの速さだった。

 水面下二メートルほどのところで、洋子を掴まえた。浮上して洋子の体を確保しながら背泳ぎで岸にたどりついた。

 脈はあるが、呼吸をしていない。ボクは洋子に水を吐かせてから、人工呼吸をした。そのときは必死だったけど、マウストゥーマウスだった。

 病院で、うっすら意識が戻ったとき、洋子が言った。

「先輩のバタフライ……やっぱ、かっこいいです」

 

 洋子は、その秋に転校した。

 

 お父さんの転勤……お父さんは鈍足のタグボートの艇長だった。洋子の病気のために、移動の少ない船を選んだようだが、時代が、お父さんを必要としはじめていた。それに東京の親類に預け、治療に専念できる体制もできたようだ。

 ボクはというと、身の程知らずにも推薦をみんなけ飛ばし、センター試験をうけ某公立大学に入った。

 入学して半月、学食でランチを食っていたら、後ろから懐かしい声で、懐かしい言葉をなげかけられた。

「お、腹上死!」

 ダボハゼの春奈がランチのトレーを持ってニンマリしていた。

 春奈は、忘れていたが、高校でダンス部に入った。で、大学でも続けているようで、もうダボハゼの面影はニクソゲな言葉にしか残っていなかった。まあ、人魚姫の侍女ぐらいは勤まりそうだ。

 金床の青春って、こんなもんだろう。

 碇を降ろすにはまだまだ時間がありそう。

 とりあえず、さよならバタフライ……。
 

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