大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・103『メイドの体を借りた二丁目地蔵』

2021-09-28 12:53:45 | ライトノベルセレクト

やく物語・103

『メイドの体を借りた二丁目地蔵』   

 

 

 あ……?

 

 そこを曲がったら二丁目地蔵という辻に立っていたのは久しぶりのメイドお化け。

「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 このまんまアキバに連れて行ったらメイドクイーンの称号が取れるんじゃないかってくらいの笑顔が気持ち悪い。

「えと……二丁目地蔵さんのところへ行くんだけど」

「はい、まあ、お久しぶりなんですから、まずはうちにお寄りになってくださいませ(^▽^)」

 メイドスマイルで後ろの家に誘おうとする。

 え?

 ここは、五十坪ほどの普通の家があったはずなのに、メイドカフェになっている。

 看板は『メイドカフェ』とあるだけなんだけど、店の造りは、レンガの本格的英国風。

「え、あ、でも、お地蔵さんの所へ……」

「ノープロブレム、どうぞどうぞ!」

 顔は笑ってるんだけど、すっごい力で引っ張られる、ワチャワチャと他のメイドたちも出てきて「どうぞどうぞ!」とか「お嬢さま!」とか囃し立てて、お店の奥に連れ込まれた!

「キャ! ちょっと、なに……」

 おたついてワタワタしてると、みるみるうちにメイドお化けの表情が冷たくなった。

 

「そこ、座んな!」

 

「痛いよ」

 突き飛ばされるようにして座ったのは、お店の真ん中の皮張りの椅子。

「そんな不浄なもの持って来られたらかなわないから、ちょっとメイドお化けの体借りてるの」

「え? え、じゃあ、中身はお地蔵さん?」

「そうだよ、メイド地蔵。みんな、警備はちゃんとやっておくれよ」

 はい、お地蔵さま!

 可愛くも凛々しい声が店のあちこちからしたと思うと、手に手にこん棒やら斧やら持ったメイドたちが現れて、ドアとか窓とかのところに警備に立った。

「そいつはね、茨木童子の片腕なのよ」

「イバラギドージ?」

「ああ、渡辺綱というのがやっつけたんだけどね、平安時代の事だから、戒めも解けて、この二百年くらいは時々現れては悪さをするんだ」

「あ、うん、だから、俊徳丸も自分をおとりにして退治したのよ。その記念に残った片腕もらってきたんだから」

「それが災いのもとなのよ」

「願い事叶えてくれるよ。ついこないだも『ピザが食べたい』と思ったらピザが食べられたもん」

「たしかに、そういう効能はあるんだけどね」

「だったら……」

「効能があるっていうことは、鬼も取り返したいわけよ。箱根山を越えてしまったら貼ってあるお札の効き目も薄くなってしまうの」

「そういうものなの?」

「うん、お蕎麦の出汁だって西と東じゃ違うでしょ? 卵焼きだって、ここいらはお砂糖いれた甘い奴だけど、西は塩とお出汁の味だし、電気の周波数も西が60ヘルツだけど東は50ヘルツ」

「あ、理科で習った気がする……」

「ま、そういうことで、お札とかの力も弱くなるんで、鬼も取り返しやすくなる」

「え、え……でも……」

「よく聞いてね」

「うん、はい」

「これを見て」

 メイドお化け、いや、二丁目地蔵はポケットからコロコロを取り出した。ほら、ガムテのでんぐり返しみたくなってて、コロコロ転がして、埃やらゴミやらとるやつ。

「メイドの必需品。ちょっとでも暇があったら、こいつで、あちこちコロコロ転がして、お家やご主人様の清潔を保つの」

「なかなかの心がけですね」

「千年前の鬼は、新品のコロコロみたいだった。それが、千年の間にゴミや汚れを一身に付けまくって……」

「キャ」

 メイド地蔵は、わたしの服から始めて、そこらへんの椅子やらソファーやら、あげくにはカーペットまでコロコロやり出した。

「ほら、いろいろくっ付いて、なんだか妖怪じみてきた」

「うん、妖怪コロコロお化け」

「やくもも協力して、鬼の本体と、ほとんどのゴミをやっつけた……」

 ホワ

 コロコロが消えて、ゴミだけがコロコロの筒の状態で残った。

「この残されたゴミのリングが、いまの状態」

「なるほど……」

「放っておくと、消えたはずのコロコロお化けが蘇る」

「かならず?」

「うん、かならず」

「どうしたらいいの?」

「それが、やくもの仕事」

「わたし?」

「残ったのが、どんなゴミかは分からないけど、やくもは霊感とか強いから、じきに向こうから働きかけてくる。がんばって解決してあげてね。そうすれば、そのとき、ほんとうにやくもにとってのラッキーアイテムになるからね」

「俊徳丸に相談するってのはどう?」

「ダメよ、俊徳丸は善意と感謝の気持ちでくれたんだからね、ガッカリさせちゃダメだよ」

「え、あ……そうなのか」

「まあ、どうしてもって時は相談して」

「今は?」

「ダメ、まだ、その時期じゃないから。ね、がんばってね」

「う、うん……」

「みんな、お嬢様のお出かけですよ!」

 ザワザワザワ

 警備に付いていたメイドたちが、あっという間に出口までのメイド道を作ってしまう。

 

 行ってらっしゃいませ、お嬢様!

 

 振り返ると、いつもの五十坪の家があるきりだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手

 

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ライトノベルベスト・『夏のおわり・3』

2021-09-28 06:15:45 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

のおわり・3』  



 

 さんざん絞られてカスカスのレモンのカケラみたくなって駅への坂道を歩いていた。

 プップー

 と、前から来た車にクラクションを鳴らされた!

「あ……」

 運転席でニヤニヤと手を振っているのは、今朝、ホームで「失礼な子ね!」と、あたしを罵倒したニューハーフのコイトだった。あたしは、招き猫に寄せられるように、車のドアに寄った。

「あんた、ほんとは……トイレ……行きたかったったのよね?」

 で、気が付いたら、コイトの車に乗って、コイト御用達のファミレスに向かっていた。誤解で怒鳴ったことへのお詫びで、お昼をご馳走になることになってしまった。
 途中、交差点なんかで停まると、何人も人が振り返り、写真まで撮られた。やっぱ、売れっ子のタレントは違うと思った。

「分かるなあ、夏休みが終わったばかりで、体がついてこないのよね」
「ええ……」
「で、必死で気持ちをそらそうとして、覚えたエクスプレスとかがテストに出たんだ」
「でも、そこだけだったから……」
「で、先生に絞られて、フリーズドライにされたレモンみたいになって歩いてたんだ」
 コイトは、実に聞き上手で、これも気づいたら、みんな喋らされた。
「そりゃそうよ、あたしもマスコミでチョイ売れするまでは、お店に出てたんだから、ノセ上手の聞き上手。ね、よかったら、これからラジオの収録やるの。夏、放送局って行ったことないでしょ?」

 で、今度は放送局へ行くことになった。

 地下の駐車場で、初めて乗っていた車に気が付いた。

「ゲ、この車って、お尻ないんですね!?」
「やっと気づいた? これ、ホンダN360Zっていってね、通称水中メガネ。40年前の超レアな車よ。お尻がカワイイから、みんな注目してくれるしね」
 みんなが注目してくれていたのは、コイトが注目されていたからじゃないんだ。
「失礼ね。五人に一人ぐらいは、あたしに注目してるからよ」
「あ、あたし、何にも言ってませんけど……」
「夏はね、あたしとの相性がいいの。思ってることの半分は、黙ってても分かるわ」
「でも、今朝は誤解でしたけど」
「あれはね、二日酔いで朝帰りだったから。あれから十分寝たから、シャッキリよ。おはようございまーす(受付のおじさんに挨拶)こっちよナッチャン。あ、ちょっと待っててね」
 
 コイトは、先に部屋に入って、エラソーな人とちょっと話してすぐに出てきた。

「おいで、ナッチャン。せっかくだから、ラジオの収録経験しとこ」
「え、あ、うん……失礼しまーす」

 エライサン含め、ゴッツイ機械の前に二人のスタッフとおぼしき人がいた。みんなニコニコ迎えてくれて、「よろしくね」なんて言われて、嬉しくなって、そのままゴッツイドアをあけて、八畳ほどの部屋に入った。
 コイトと向かい合わせの席に座らされた。目の前にマイクがぶら下げられていて、さらにその前に金魚すくいの親玉を黒くしたようなのがある。
「自分が喋るときは、この電車のアクセルみたいなの前に倒すの。ここ肝心ってか、ここだけ覚えときゃいいから。で、このヘッドホンみたいなのしといてね。挿入曲とか、ブースからの指示とかは、ここからくるから」
『本番、三十秒前です』
 ヘッドホンから聞こえてきて、急に緊張してきた。コイトがそっと手を重ねてくる。目が「大丈夫」と言っている……。

「ただいまあ」

 いつものように、家に帰ると、お母さんが鬼みたいな顔して、リビングから飛び出してきた。
「夏、なんで、あんたがラジオの生番組出てんのよ!」
「え……?」

 アハハハハハハハハハ(≧▽≦)

 奥のソファーでは、お婆ちゃんが、死にそうになって笑っていた……。

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