魔法少女マヂカ・231
ちょっと難しい。
妖や魔法少女相手ならどんなことでもできる。
魔法と力技で封じ込めるとかやっつけるとかすればいいことだ。
つい最近も、横浜で魔物侵略軍を壊滅させたり、横須賀で待ち伏せしていたロシアの艦娘どもをやっつけた。
しかし、今度はリアル・現実の軍艦だ。
それもやっつけるわけではない。
イギリスの巡洋艦が長門を発見して追って来るのを阻止するという難しいものだ。
「やっぱり、無理でしょうか?」
腕組みしたわたしが不安を与えたのだろう、赤城さんが目を伏せてしまう。
ノンコと霧子が「どうにかならないの?」という風にわたしを見る。
「方法が無いわけではない」
「「「どんな?」」」
三人の声が揃う。
プレッシャーだ。
「長門の幻を作って、カタログデータ通りの22ノットで走らせて、巡洋艦に追わせればいい」
「「それよ!」」
霧子とノンコが無邪気に喜ぶが、さすがに赤城さんは心配顔だ。
「幻の長門って、大変じゃないんですか?」
「「そうなの?」」
「ちょっと大きすぎる。わたし一人じゃ規模的にも時間的にももたない」
「あたし、参加しよか!? あたしも魔法少女の端くれやさかい!」
「ノンコには化学教えてないからなあ、わたしが術を掛けても、他の人間に化けるのがやっとだ。戦艦みたいなデカブツは無理だ」
「……そうなんや」
「それに、相手はプロの海軍軍人だ。正確に化けなければ見破られてしまう。正確に化けるには、よほど本物の長門の傍に居なければできない」
「それって……」
頭の回転のいい霧子は見当がついたようだ。
「瞬間だけど、本物と偽物の長門が並んで走ることになる。化けた瞬間に本物を逃がさなきゃならない。いくら26.6ノットといっても東京駅ほどのデカブツだぞ、無理だ。もしできたとしても……」
自分が天才魔法少女であることを呪った(;'∀')。
無理なことを説明しようとして、対策を思いついてしまった。
「どないしたん、マヂカぁ?」
長い付き合いだ、ノンコは、わたしの閃きを読み取って、ヨダレが出そうな笑顔になる。
「いや、なに……一人がイギリスの巡洋艦に乗り込んで、偽物が見えた瞬間に『長門発見!』と叫んで、同時に、もう一人が長門に乗り込んでいて、同じ瞬間に長門の姿を隠せばできないことではない」
「すてき!」
「そうか!」
「え? え?」
霧子と赤城さんがたちまち理解し、呑み込みの悪いノンコの頭にいくつも?マークが浮かぶ。
「こういうことですよ! ちょっと、マヂカさん立ってください!」
「あ、ああ」
「マヂカさんが本物の長門で、わたしが偽物だとします」
ドロン
言うがはやいか、赤城さんはわたしに化けた。
エイ!
「「あ、真っ暗!」」
魔法で二人の視力を奪うと、わたしの姿を消してしまった。
パチン
赤城さんの指が鳴る
と……二人の視力が戻って、目の前には、わたしに化けた赤城さんだけが残る。
「あ?」
「えと?」
「わたしは偽者です。本物のマヂカさんは……」
ゴソゴソ
「ハハハ、ここだ……」
タイミングを合わせて机の下に隠れたわたしが姿を現わす。わたしも付き合いがいい(^_^;)
「「なるほどおお!」」
二人も分かったようだ。
そう、本物と偽物を入れ替えて、イギリスの巡洋艦の目をくらませてから本物は26.6ノットで東京湾を目指すという寸法だ。
しかし、待ってくれ!
これをデカブツの長門でどうやるんだ?
それに、タイミングよく本物を隠して、偽物に注目させる!
いったい、どうやって!?
ああ、墓穴を掘ってしまった(^_^;)!
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男
- 箕作健人 請願巡査