かの世界この世界:142
身の丈三十メートルのトール元帥はムヘン駐留の一個連隊の親衛戦車部隊を引き連れている。
親衛戦車部隊は空を飛べる。
日ごろ、ムヘンの警備任務にあたっているのは国防軍で、国防軍の戦車は飛ぶことができない。
我々が苦労して積み込んだことで分かる通り、我々の四号は国防軍仕様の四号だ。テルやケイトは羨ましそうな顔をしているが、空飛ぶ戦車は燃費が悪い。飛行していると満タンでもニ十分が限度。それが一個連隊の大編隊で飛べるのはトール元帥が飛行しながら補っているからだ。
トール元帥の図体が大きいのも、その全身にエネルギーを貯めているからなのだ。
かつて、父オーディンから辺境の討伐を命ぜられた時、元帥は父に言った。
「一年や一年半なら、存分に暴れまわって見せましょう。しかし、二年三年となっては、まったく目途が立ちません。それでもやれとおっしゃるなら、オーディンの歴史には書けない非常の手段を用いなければなりませんが。よろしいか?」
父は、黙って頷いた。
父はずるい。
困ったときは、相手に喋らせ、自分は頷くだけだ。
わたしの時も、そうであった。
わたしは、そんな父が許せなくてヴァルハラを飛び出してしまった。父は、わたしの討伐を命じたが、トール元帥はムヘンの流刑地に押し込めるだけで済ませてしまった。それも、いずれは、わたしが抜け出し、独自に行動に出ることを見越していた……でなければ、こんな風に仲間を募ってヴァルハラを目指すことなどできなかったであろうからな……。
トール元帥のエネルギーが尽きる時……耐えがたいことが起こる。
クリーチャーの上空を旋回しながら攻撃のタイミングを見計らっているトール元帥。もう、そのことを覚悟したのだろうか。
それとも一撃で敵を屠って、エネルギーをリチャージすることなく終わらせる奇策があるというのだろうか。
元帥がミョルニル(聖なる大鉄槌、ミョルニルハンマー、以下ミョルニル)を振りかぶった!
鬼神であろうとゴジラであろうと大魔神であろうと一撃で粉砕する聖なる大鉄槌ミョルニルが巡洋艦を取り込んだクリーチャーのど真ん中に振り下ろされる!
グヮッシャーーーーーーン!!
ミョルニルの炸裂にクリーチャーは粉々に粉砕! さすがはトール元帥!
しかし、本体は粉砕されたものの、破片の多くが独立したクリーチャーになって四方八方に逃げ始めた。
追え!
元帥の一言で、一個連隊の戦車部隊がクリーチャーを追いかけ、三次元行進間射撃を加える。
一つも残さず、地の果てまで追いかけてせん滅せよ!
戦車たちは水平線の彼方までクリーチャーどもを追撃していった。
元帥は、マーメイド号に並んで飛行しながら語り掛けてきた。
「姫、パラノキアとクリーチャーは、この元帥にお任せあれ。姫は、ひたすら障害を乗り越えつつヴァルハラを目指されよ」
「元帥!」
「大丈夫、時の女神がそろって目覚めるころには方がつきましょう」
「元帥、わたしもお供を!」
タングリスが手を差し伸べる。分かっている、元帥が立ち上がったのだ、副官であるタングリスは付いていかざるを得ないだろう。過酷な任務と知りながらでも……でも、こういう時のタングリスって、わたしが見ても震えが出るほどに美しくなる。アンビバレンツな美しさを、わたしは正視出来ないぞ。
「おまえは、姫のお供をしろ。今度の出征にはタングニョーストが付いてくれている、心配するな」
「元帥……」
「テル、ケイト、ロキ、ユーリア、おまえたちにも苦労をかけるが、なにとぞよろしく頼むぞ」
「元帥、あたしにもお!」
「ポチ、この戦が終わって、姫の旅が成就したら、このトールが新しい名前をつけてやろう。それを楽しみにわたしも戦う。姫も皆も息災でな!」
身体を捻り、二度旋回すると、元帥は西の水平線を目指して飛び去ってしまった。
大丈夫だろうか……空飛ぶ戦車もミョルニルも恐ろしくエネルギーを消費するのだが……。
☆ ステータス
HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長