巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
家を出て一分ほどで橋を渡る。
コンクリート製で欄干の親柱に『戻り橋』と彫られている。
ちなみに、最寄りの橋は『寿橋』で、家からは30秒。
なんで、わざわざ遠い『戻り橋』を通るのかというと、わたしは毎日半世紀以上の時を遡って1970年の宮之森高校に通っているからだ。
そのいきさつについては、物語の最初の方にあるから気になる人は読んでくれると嬉しいかな。
戻り橋は、人の目には見えないんだ。
袂のところに『M』のシルシがあって、それを足でツンツンすると橋が現れる。
現れても他の人には見えない。
「ねえ、他の人にはどう見えるの?」
お祖母ちゃんに聞いてみたことがある。
「見えないって言っただろ、魔法少女とか魔属性のある者にしか見えない」
「そうじゃなくって、渡っている時のわたしの姿」
「……消えたように見える」
「消えたように?」
「うん、だから近くに人が居ないことを確認してから渡るわけよ」
「な、なるほど(;'∀')」
だから、家を出てから橋を渡るまでは前後の100mぐらいは意識する。
100m以内に人が居たらやり過ごす。まあ、たいていスマホ見るふりしてタイミングを計る。
今日も、スマホ見るフリして宅配の車をやりすごしてMをツンツン。
ゴォォォォォォォォ
橋の下を川が流れる。
位置的には寿川なんだけど、渡っているのは時の流れ。
時の流れなんだから、渡り切ったらいつの時代のいつの時間に行くか分からないだろうと思うんだけど、「そのために橋があるんじゃないか」とお祖母ちゃんの説明。
なるほど、戻り橋は、わたしがボンヤリしていても、ピッタリ1970年に着くように調整済みなんだ。
グゴォォォォォォォ
あれ?
微妙に川の流れが違う。
微妙に荒れている……チラ見すると、流れも少し乱れて小さな渦が出来かけては消えていく。
こういうのには、あまり気を取られない方がいい。
本能的にそう思って、速足で渡り切った。
ひょっとして、学校でなにか事件とか起こるのか……少し心配になったけど、なにごともなく授業が始まり、現国の時間もいつものように自習になって、いつものように昼休みになって、いつもの仲間と学食に向かう。
たみ子一人が国語準備室経由。
さすがの杉野先生も、なんにもなしでの自習は気が引けると見えて、今日は自習課題を出しいていたんだ。
それを届けに行ったから、ちょっとだけ遅れる。
ロコが代わりにB定食を買って四人掛けのテーブルに着く。
ササササと、ちょっと急ぎ足でたみ子が戻って来る。
「え、なにかあったですか?」
ロコが、さっそく顔を寄せる。
「準備室のラジオで言ってたんだけどね、三島由紀夫が切腹したって!」
「「ええ!?」」
ロコと佳奈子が目を丸くして、ちょうど席に着こうとしていた真知子はあやうくトレーをひっくり返しそうになった。
わたしは『切腹』の二文字にはビックリしたけど、三島由紀夫という名前にはピンとこなかった。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人