大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・111「ヒトという字は人? 入?」

2020-04-25 06:28:28 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
111『ヒトという字は人? 入?』
       




 人いう漢字を手ぇの平に書いて飲んだらええぞ!

 衣装に着替えてワタワタしていたら啓介が教えてくれた。

「そ、そうなんだ(;゚Д゚)、ちょ、ちょっとサインペンとかないかな?」
「はい、どうぞ!」
 美晴がサッとサインペンを差し出した手にもドーランの香り。
 楽屋になった体育準備室は演劇部と、そのお手伝いさんたちで一杯。
 予想はしていたけど心臓バックンバックン!
 舞台に立つというのはエキサイティングすぎる!
「えと、ヒトってどっちだっけ?c(゚.゚*)エート。。。 」
 使い込んだ台本の端っこに「人」と「入」を書いて須磨先輩に見せる。須磨先輩は、六回目の三年生という貫録で敵役のコス。
「アハハ、緊張すると忘れるよね『人』の方だよ」
「あ、ども」
「……って、手に書くの?」
「うん、啓介が」
「あ、それって指で書くだけよ」
「え、あ、そうなんだ」

 在日三年、たいていのことには慣れたけど、こういうところでポカをやる。

「あ、でも、わたしアメリカだからAの方がいいかな?」
「A?」
「 audienceの頭文字」
「なーる(▼∀▼)!」
「あ、でも観客は日本人ばっかですよー」
 千歳がチェック。
「そっか、じゃ両方やっとこ……ちょ、ミッキー、あんたも!」
「me?」
「相手役はわたしなんだから、やるやる!」
 さっきからアメリカ人らしからぬ貧乏ゆすりをしている。
「お、オーケーオーケー……あ、なんて書くんだっけ(@゜Д゜@;)」
「人よ人、でもってオーディエンス!」
「え、あ……」
 テンパってやがる。
「書いたげる!」
 小道具のチェックをしていた美晴が乗り出す、とたんにデレるミッキー。ま、こんなときだから突っ込まないでおこう。

 本番まで15分、みんな準備は済んでしまって静かになってしまう。
 う~~~~こういう時の静けさは逆効果。
 いったんは納得した「こんなに痩せてしまって」の台詞が、おりから観客席で沸き起こった笑い声と重なって、自分が笑われたみたいに緊張する。

 ステージはミス八重桜の奮闘で広く安全になった。
 昨日は、そのステージを見て、グッとやる気になったんだけど、今日は、その分笑われるんじゃねーぞ! というプレッシャーになる。

 あ、えと、本番前なんで……

 入り口でなにかもめてると思ったら「わたしは着付け担当ですーー」と声がして人の気配。緊張しすぎのわたしは顔も上げられない。
「ミリー、観に来たよ」
 間近で声がして、やっと分かった。
「お、お婆ちゃん!?」
「着付けが気になってね……ちょっと立ってごらん」
「は、はい」
 着付けはさんざん練習したんで完璧のはず。
「うん、きれいに……ん? ミリー、あんた左前やがな!」
「え? え? そんなことは……(|||ノ`□´)ノオオオォォォー!!」

 みごとな左前に気づいて、いっぺんにいろんなことが飛んでしまった!

「ちょっと、いったん脱いで!」

 言うが早いか、お婆ちゃんは長じゅばんごとわたしをひんむいた。
 本番は大汗をかくと言われていたので下着しか着ていない……それも、線が出ちゃいけないので、そういう下着!

 本番終るまでは、もう目も当てられないことに……なったかどうかは、またいずれ。
 


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