魔法少女マヂカ・185
ちょっと困った。
ノンコが陰でコソコソ言われるのだ。
「まあ、お下品」「むき出しでいらっしゃいますこと」「ちんちくりん」「お足りないのでは」「黙っていればお可愛いのに」 など他にも色々……。
わたしは根っからの魔法少女なので、女子学習院に見合った立ち居振る舞いなど造作もないんことなんだが、ノンコは、つい昨日までは令和の時代の普通の女子高生だった。
「ごきげんよう」という学習院女子としての当たり前の挨拶もぎこちないし、背筋をまっすぐにして座ることもできなくて、朝から五回も注意されるし、面白ければノドチンコまで剥き出しに笑うし、授業がつまらないとあっさり寝てしまうし、まだ昼休みにもなっていないのにお腹の虫が鳴ってしまうし、その一つ一つが庶民じみていて、クラスメートの笑いにタネになってしまう。
まあ、令和の時代のようないじめを受けるわけではないんだけど、霧子も気にし始めている。
霧子は勝気な子なので、このままでは、そういう子たちに何かしかねない。
わたし達の任務(納得して引き受けたわけではないけど)は霧子が無事に学校生活を送れるように気を配ることだ。任務の相棒であるノンコがハミられたりイジメられているようでは話にならない。
前回にも言ったけど、小さな原因はノンコの苗字にある。
華族と言うのは狭い社会で、学習院の生徒ともなれば『野々村』という姓の華族は存在しないことを知っているのだ。華族というのは、元の貴族、大名、大名クラスの武士、維新の元勲と決まっている。口にこそ出さないが野々村などと云う苗字は「どこの馬の骨」とか思っているし、ノンコの立ち居振る舞いが、それを裏付けてしまっている。
「教室の様子おかしくないこと?」
三時間目が終わると、霧子はわたしに話しかけてきた。
「ああ、あれは国史の先生のせいよ(^_^;)」
「前田先生?」
「だって、家康のことを『タヌキ親父』っておっしゃったでしょ」
「あ、うん。門切り型だけど、特徴を捉えているわ」
「でも、徳川さんと松平さんにはご先祖の『神君』なのよ、きっと顔を赤くして俯いていたのよ、それが可笑しくて……」
「え、そうなの? ご先祖に対する畏敬の念はわたしにもあるけど、授業で習う歴史的な事実は別でしょ?」
「世間の女学生と言うのはそういうものなのよ。霧子さんのように恬淡(てんたん)としていられるのは、まだまだ先進的な例外だと思うわよ」
「そ、そうかな(n*´0`*n)」
「ええ、だから、そっとしておいた方がいいわ」
「そ、そうね」
霧子は勝気で正義感の強い子だけど、やっぱり華族のお姫様。ちょっとプライドを刺激してやれば気休めにはなる。
しかし、こんなことが四時間目を超えて続くようなら、こんな説明では済まなくなるだろう。
いっそ、ノンコに魔法をかけて体調不良とかにして保健室に送ってしまうか……いや、順序としては、まず本人に話しておくことからだろう。
ノンコには自覚が無いだろうから気休めにしかならないかも……と思いながらノンコの席に向かったところで、始業の鐘が鳴ってしまった。
カランカラン カランカラン カランカラン
仕方がない……つぎは古典の授業か。
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
虎沢クマ 霧子お付きのメイド
松本 高坂家の運転手