やくもあやかし物語・116
改札を抜けてクネクネ行くと表通りなんだけど、様子が変だ。
お茶の水とかに来るのは初めてなんだけど、これは違うと思った。
だって、通りに出ると車とか走ってなくて、いや、走ってることは走ってるんだけど、数が少ないし、なんだかレトロ。
歩いてる人は着物が多い。女の人はほとんどそうだし、男の人も着物にハンチングって人が多い。完全な洋服は、学生とお巡りさん。それと、わたしを迎えに来たメイドさんたちぐらい。
「どうぞ、これにお乗りください」
え、馬車!?
ほら、皇族の人たちが乗るような馬車だよ!
ドアには神田明神の御紋。たしか、ナメクジ巴って、尾っぽの長い三つ巴。
レムとラムみたいなメイドさんは、一人が御者台に上って、もう一人は、ドアを開けて畏まっている。
「し、失礼します」
声がひっくり返りそうになって、馬車のステップに足を掛ける。
ギシ
サスペンションが効いていて、グニャって感じで乗り込む。
続いてグニャっていったかと思うとトラッドな方のメイドさんが乗ってきて向かい合わせに座る。
すると、ラムみたいな方が一礼してドアを閉めるとパッカー車の助手さんみたいにキャビンの後ろに立ったまま乗った。
ハイ!
レムみたいなメイドさんが鞭を入れると、二頭の馬は穏やかに走り出したよ。
パッカポッコ パッカポッコ
「申し遅れました、わたし、平将門の娘で滝夜叉と申します」
「え、将門の!?」
「はい、落ち着いてお聞きください」
「は、はい」
まさか、のっけからのカタキ登場と思ってないから、カバンからコルトガバメントを取り出すわけにもいかない。
ちょっとアセアセだよ。
「父の将門は病なのです」
「ヤマイ、病気ですか?」
「はい、父は我慢強いので、周囲の者も気づくのが遅れて宿痾(しゅくあ)となってしまいました」
「しゅくあ?」
「こじらせて、容易には直らない持病のことです」
「あ、ああ」
お爺ちゃんの腰痛みたいなもんだ。
「父将門に宿った宿痾ですので、なかなか容易なものではありません。近ごろは、その宿痾を父そのものと間違えて討伐に乗り出す者まで現れる始末。そして、今度はやくも様までお出ましになると、さるお方から知らせがございました」
「え、そうなんですか?」
どうも、聞いていたのと様子が違う。
「はい、やくも様には本当のところをお話しておかなければ、間違って父を成敗されるかもしれません」
「かもじゃなくって、本当に成敗するつもりでした(;'∀')」
「父も、直にお会いしてお伝えしなければならないと申しますので、かようにお迎えに出た次第です」
「そうだったんですか……でも、ここって御茶ノ水とか神田のあたりなんですか?」
「はい、あの大屋根が湯島の聖堂、その角を曲がりますと神田明神の大鳥居が見えてまいります。ただ、半分がところ異界と重なっていますので風景は令和のものとは異なります」
「はあ……」
外に目をやると、通行人たちが微妙に異界じみてきている。
アニメのように目鼻立ちがクッキリしていたり、顔の造作が大きかったり、中にはエルフのように耳がとがっている者もいる。自動車の中には車輪が動物の脚になって走っているものがあったり、でも、きちんと秩序だっていて、悪いものには思えなかった。
「さすがはやくも様、異形の者でも良し悪しはお分かりになっているようですね」
滝夜叉さんがホッと胸をなでおろした。
ホッとすると、優しい笑顔。ちょっとだけ安心する。
「あ、いよいよです」
大鳥居を潜ったさきは、神社……ではなくて大きなお城が聳えていた……。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝