やくもあやかし物語・49
やっぱし……。
そう呟くのは三回目……いや、四回目かな?
さっき黒電話が鳴って、受話器を取るといつもの交換手さん。
――念のために申し上げておきますが、えりかちゃんは人ではありません――
ちょっとお節介な気がした。
「分かってるって、あんな小さい子が土筆やお料理のあれこれ知ってるわけないもん」
――気づいておられたのならいいんですが、えりかちゃんの正体は……――
「いいよ、分かってるから」
――そうですか、ならいいんです。後々になって分かったらショックじゃないかって……――
「どうも、ありがとう」
ガシャリ!
それだけ言って電話を切った。
この家に越してから親しくなった人間は少ないんだけど、ヘンテコな知り合いは多い。
ペコリお化けとか四毛猫とかツインテールのメイドお化けとか……いまの交換手さんだってお化けの一種だ。
でも、意識しないことに決めたんだ。
分かってるって……ああ、四回目、五回目? ああ、失敗したじゃないか。スカートのヒダが二重になっちゃった。
明日は卒業式。
わたしが卒業するわけじゃない。うちのクラスが在校生代表のクラスに当たったので式に参列するんだ。
だから夕飯食べてから制服にアイロンをかけている。
クリーニングに出すのは終業式がすんでからだけど、やっぱ、パリッとしていたいしね。せめてアイロンと思ったわけ。
もちろんあて布とかしてね。テカっちゃうのやだもん。
シュッと霧吹き。
アイロンにはスチーム機能が付いてるんだけど、変に蒸気が漏れるのがおっかなくて霧吹きにしている。
ジュワアアアアア ブチブチブチ……
それでも霧吹きしすぎて派手な音がする。
モワ~っと小さな湯気が立ち上る。
……湯気が人の形になっていく。
「オッス、冴えないやくも」
のっけから嫌なことを言う。人の形はニ十センチほどしかないので声も小さい。嫌なことを言ってから湯気は小さなわたしの姿になった。なんだかハツラツとしている。
「だろ。こういうやくももあったかもしれないんだよ」
チビやくもは、クルンとスピンしてミュージカルのような決めポーズになる。
「どうよ!」
「うっさい!」
決めポーズの上からアイロンを押し当ててやる。
「ちょ、なにす……!」
プシューーー!
チビやくもはノシイカみたくペッタンコの二次元になった。顔も体も三次元の倍ほどに広がってメッチャ不細工。
ざまあみろ。
もう一度アイロンをあてると消えてしまった。
二重になったヒダもきれいにプレスできて、メデタシメデタシ……。
☆ 主な登場人物
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- やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫