大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:180『休まないのか!?』

2021-04-11 09:05:51 | 小説5

かの世界この世界:180

『休まないのか!?』語り手:テル(光子)    

 

 

 普通は休むだろう!

 

 日本列島と付属の島々を産んだんだあとだ、これは休みを取るだろう。

 ユダヤ教やキリスト教では、六日間でいろんなものを作ったゴッドは丸一日の休みを取って、それが安息日たる日曜日の起源になっている。

 ユダヤ教では、ことに厳格だ。車に乗ってはダメで、火を起こしても電気製品のスイッチを入れてもいけない。もし破って働こうものなら死刑だ!

 我が北欧神話では神々の骸から世界を作っている。元来が神の体なので、ちょっと手を加えるだけで、山や湖や土地になる。だから、とりたてて安息日というのはないんだが、日ごろからこまめに休んでいる。

 ところが、日本神話ではイザナギ・イザナミがリアルに交ぐわった末にイザナミが腹を痛めて産んでいる。

 これは、休みを取らなければ母体が持たないだろう、イザナギだって出がらしのようになっている。

 ケイトなんか、とっくにそのつもりで、すでに出来上がった大八島の探検旅行をしようとスマホで検索し始めたほどだ。

 

 ドシン! バタン!

 

 突然の衝撃に、わたしもテルも思わず剣の柄に手をかけ、ケイトはスマホをお手玉してしまう。

 男女神は休憩のお茶をすることもなく、国生みを続けているのだ。

「いや、国生みではないわよ!」

「なんだと? なにを産んでいるというのだ?」

 なんと、イザナギ・イザナミの男女神は家づくりのパーツを産み出しているのだ。

 いちおうオホコトヲシヲの神とかイハツチビコの神とかのホーリーネームは付いているが、要は家のパーツだ。それぞれ、家の土台であったり、壁であったり、屋根であったり、芸が細かい。

「ざっくりと、家の神さまとかでいいのに」

 慰安旅行をフイにしたケイトがボヤく。

「なんだか、健気ねえ……」

 テルはたて膝の膝小僧の上に顎を載せてしみじみ見入っている。

 日本人の律義さと言うのは神代の昔からだったのだなあ……父のオーディンにラグナロクのリクルートを丸投げされている北欧の戦乙女としてはため息が出るばかりの丁寧さだ。

「日本の学校には当番というのがあってね……」

「トーバン? 絆創膏かなにかか?」

「ちがうよ……まあ、係りよ。日直当番とか掃除当番とか生き物係りとか」

「なんだ、それは?」

「教室の一日のマネジメントをやるのが日直、教室や分担区域の掃除をやるのが掃除当番、花壇やウサギの世話をするのが生き物係とかね、そういうノリで、イザナギ・イザナミは神々を産んでいるんだと思うよ……」

「そうなのか……」

 テルの感慨が伝染して、わたしまでシンミリしてきたぞ。

 家のパーツが終わると、今度はオホワダツミ、海の神。次に港の神、水面の神、潮の泡の神、水の神、木の神、山の神、野の神、霧の神……キリがないぞ(^_^;)。

 うわ! キャ! 熱い!

 洞の三人、思わずのけぞってしまった!

 イザナミの股の付け根が赤く輝いたかと思うと、瞬くうちにイザナミの体が火に包まれてしまい、その熱風が外野のわたし達のところまでくるのだ!

「火の神を産んでしまった!」

 生まれたばかりの火の神は、悪気はないのだろうが、母の乳房をまさぐって母を火だるまにしてしまった。

「イザナミいいいいいいいいいいい!!」

 イザナギは身にまとっていた古代衣装を脱いで、バサバサと妻の火を消そうとする。

「助けよう!」

 テルの一言で、わたしもケイトも洞を飛び出し、カーテンや自分たちのマントをバサバサ叩きつけて火を消しにかかった。

「どうして、消火器の神を先に産んでおかないのかなあ!」

「考えが及ばなかった、とにかくイザナミを! 我が妻を!」

「分かってる!」

 イザナギを入れて四人、必死で消火に勤めて、なんとかイザナミの一命をとりとめた……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« らいと古典・わたしの徒然草... | トップ | 真凡プレジデント・50《ぐ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説5」カテゴリの最新記事