ライトノベルベスト
年賀状を書こう!
朝目が覚めて、一番に思った。
毎年思っては書きそびれ、ひどいときは紅白を聞きながら書いている。
佳世の年賀状は、正月明けのサインだね。と、友達に言われてきた。去年は開き直って七草粥のイラスト付けて出したら、結構受けた。
せり、なずな、ごぎょう、はこべら、すずな、すずしろ、( )
にして、カッコの中に入るのは何でしょう? というクイズ付。七日に着いて、ちょうど七番目を抜いておく。
苦肉の策だったけど「こんな手があったか!」と評判だった。
でも、同じ手は二度とは使えない。それに「七番目はなに?」といっぱいメールが来たのにも閉口。七草ぐらい調べろよな。といって、書いた本人がなにが入るのか忘れている。まあ、思い付きだからしようがない。
テスト明けだというのに、きちんと目を通し、柄物のフリースにジーパンといういでたちで顔を洗いにいく。誰かが朝風呂に入ったんだろう、洗面台の鏡は見事に曇って、自分の顔が判然としない。ま、長年付き合ってきた顔なので、多少曇っていても歯磨きに支障はない。
トースト焼いて、ハムエッグこさえて乗っける。以前はマヨネーズを塗ってからトーストにしていた。美味しいんだけどカロリーが高いので、マーガリンだけで済ませる。冷蔵庫を開けると、古いのが切れていたので、新しいバター風味のマーガリンを開ける。何事も新しいものを開けるというのは気持ちのいいもんだ。スープもインスタントだけど、コーンポタージュ。コーンの粒々が嬉しい。こいつもの四袋入りのが切れていたので、新しいものを開ける。
バコ
今日はなにごとも新鮮な感じで「オーシ、やるぞ!」という気になる。
去年みたいにアイデアを期待していては、いつまでたっても書けないので、パソコンから適当なのを選んで、まあ、ごく普通なのにしよう。ただ、下1/4ぐらいは空けておいて、一人一人コメントが書けるようにしておく。
完全にパソコンとプリンターに頼ったのは、なんだかダイレクトメールじみていて味気ない。
そうだ!
パソコンのスイッチ入れてから思いつく。お父さんが九州に出張したときに買ってきたお土産の志賀島の金印のレプリカ。「漢倭奴国王」と、一見意味は分からないけどかっこいい。部屋に取に戻って、リビングへ……。
パソコンが、まだ起動していない。いわゆる「立ち上がっていない」状態。この夏に買い換えたばかり。一分もあれば立ち上がるのに……おかしいなあ。
あたしは、こういうものには弱いので、兄貴を呼ぶ「おーい、にいちゃん!」
……返事が無い。
お兄ちゃんだけじゃなくて、お母さんもお父さんも居ない。
「え、今日なんかあったっけ?」
リビングのテーブルにハガキの束があるのに気付く。喪中葉書だ……。
娘、瀬田佳代が、この十二月十一日に……そこまで読んで、頭がくらりとした。
「うそ、あたし死んだの!?」
冷蔵庫を開ける。マーガリンは新品が箱に入ったまま。カップスープも未開封だった。置いたと思った食器はシンクのどこにもない。
洗面所の鏡は曇っていなかった……自分の姿が見えないだけだ。部屋に戻ったら着たと思ったフリースもジーパンもそのまま、クローゼットの中にある。あたしは、なぜか制服姿のままだ。
そして、記憶が戻って来た。
期末テストが終わって、嬉しさのあまり校門を出たらトラックが迫ってきた。あとの記憶は、さっき目覚めたところまで空白。
もう一つ思い出した。
春の七草の最後は……仏の座だ。