かの世界この世界:90
この身体になって世界がひろがった。
なんせ、シリンダーだったころってゆーか、今もシリンダーなわけで、カテゴリー的にはシリンダーの変異体なんだろうけど、この自由さとときめきは格別なんだ。
十三四歳の女の子のナリはしてるけど、身の丈は25センチ。てっきり30センチはあるかと思ったんだけど、だって、みんな1/6サイズのフィギュアみたいだって言ってる。1/6サイズのフィギュアって30センチくらいあるもん。
そういうことにしとけばいいのに、ロキは退屈まぎれに、わたしの身長を測った。
「あ、25センチ!」
大きな声で言うもんだから、四号の車内のみんなが「ヘー」とか「ホー」とか言って納得してしまった。
ま、いいけどね。狭い四号の中でも25センチの身長ならスイスイらくちんに移動できる。
ロキが車載通信機の上にベッドを作ってくれた。四号を整備するときに使うウエスってゆう布キレを適当に縫い合わせただけのベッド。ここだと通信手のロキと操縦手のタングリス、両方の顔が見える。人間だったら、こんな間近に、たとえ親しくっても人がいるというのは落ち着かないかもしれないけど、わたしは嬉しい(^▽^)/。
もっともタングリスは無口なんで、もっぱら、お喋りしたりチョッカイを出し合ったりするのはロキだ。厳密にはご主人様になるのかもしれないけど、気分は相棒だね。
寝返りうつと、タングリスの横顔。
胸もおっきいし、めちゃくちゃ美人だ。ブリ(本人が嫌がるんで面と向かってはブリュンヒルデと正確に言う)にだけは丁寧な言葉を使う。丁寧なんだけどきびしい。あんまし遊んでくれないから苦手。ロキはツンデレなんだと言うけど、まだデレたところは見たことがない。
人型になったら飛べないかもしれないかと心配したけど、しっかり飛べる。普通の人間は飛べないから、飛べる自分は人の形をしていても、やっぱ本質はシリンダー? まあ、ブリもケイトもテルも戦闘の時は飛んでるから、あんまり深くは考えないでおこう。
こんなことをポワポワ考えるのは気分よく空を飛んでいるからだ。
タングリスに言われて西部戦線の偵察。ムヘン街道に戻った時は砲撃とかがあって、さぞかし北上したらドンパチの真っ最中と覚悟したら、四号の北上と共に戦線は西の方に行ってしまったらしい。
ピピピピ ピピピピ
識別信号機がアラーム。
ポチっと目の前をクリックすると、仮想デスクトップが出てくる。
3Dのマップに三種類のドットがせめぎ合っている。
青が味方のトール元帥軍。赤がクリーチャー。白がレジスタンス。
赤はとても少ない。その少なくなった赤を取り囲んでいる白と青がせめぎ合っている。
レジスタンスたちは、闇雲にクリーチャーを討伐するんじゃなくて協調しようとして、トール元帥軍と衝突している。
その関係が、そのままマップに現れている。
全体としては青のトール元帥軍が赤と白をせん滅する寸前に見える。でも戦線は一進一退で、ほとんど膠着しているようだよ。
これから、どう動くのかは、もうちょっと近づいてみないと分からない。
よーし、もうちょっと下りてみるか。
わたしは、静かにゆっくりと高度を下げていった……。
☆ ステータス
HP:7000 MP:43 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)
装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長