やくもあやかし物語・44
久しぶりの駅なのでドアの上の路線図を確認……九つ目がペットショップのある駅だ。
八つ目の駅を出たところで車内放送。
――三両目の前から二番目のドアからは出られません、駅のホームで落下物事故がありましたので三両目前から二番目の……――
落下事故? ホームから人が落ちたのかなあ? だったら人身事故で到着が遅れるよね、遅れるって放送は無いし……。
ホームに入って分かった。
行き先案内表示板が落っこちている。はずみで自販機が倒れて三両目前から二番目のドアの前を塞いでいる。
それが片づけられずにいるので、ドアが開いても出られないのだ。駅員さんがお詫びをしながら他のドアを使うように指示している。
仕方なく三番目のドアから出る。
落下した行き先案内板と自販機の方を見る……自販機の下から液体が流れ出た痕……ジュースかと思ったら血だった!
「準急が到着してすぐ」「ドアが開いたとたんでしょ」「やあねえ」「運かしらねえ」
どうやら、ドアが開いて直ぐに事故が起こって、ちょうど下りたばかりの乗客が自販機の下敷きになったらしい。
やだやだ、準急に間に合っていたら下敷きになったのはわたしだったかもしれないよ、運動神経鈍いしね。てことは、乗り遅れて幸いだったかもしれない。
この駅は十年ぶりくらい。
駅も駅前も十年くらいでは目立つ変化は無いんだけど、記憶にあるのよりも狭いロータリー、小さなお店たち……だよね、十年前は今の2/3くらいの背丈しかなかったしね。
駅前では募金をやっていたりティッシュを配っていたりタクシー乗車案内のおじさんがお客さんをさばいていたり。
「どうぞ」
言われて反射的にポケティッシュを受け取る。
あれ?
配っているのはポニテのメイドさんだ。近くにメイド喫茶が出来たようだ。やっぱ変化はあるんだ。
記憶を頼りにペットショップを探す。
たしか、二つ目の角に……あれ? ない?
ペットショップが入っていたビルはそのままなんだけど、ペットショップはスマホのお店になっている。
まあ十年近い時間がたってるんだ、メイド喫茶ができたりしてるんだ、これくらいの変化はあるだろう。
確認が出来たらいいんだ。
ちょっとブラついて帰ろうか……。
「ペットショップをお探しですか?」
声の方に振り向くと、さっきのメイドさん。
「あ、ええ、でも無くなってしまったみたいで」
「確認してみますか」
メイドさんはティッシュの入ったカゴを真上に放り上げた。
するとティッシュではなくて、なんだか霧のようなのが立ち込めた。
霧は数秒で薄くなっていく、すると、スマホのお店がペットショップに変わっていた。
え? え?
戸惑っていると、ペットショップの中から犬や猫たちの鳴き声、とても切羽詰まった鳴き声。
キャンキャン! フギャーフギャ!
ボン!
鳴き声の中に爆ぜるような音がして、直後に店の奥から炎が上がった。
火事だあ!
声があがって、お店のマスターやスタッフがケージごと犬や猫たちを運び出した。
「これ以上は無理だ」
「でも、まだ残ってます!」
「助けなきゃ!」
「猫がまだ……」
「あきらめろ!」
「だって!」
直後、火の勢いが強くなり、店の中には戻れなくなってしまった。
何匹か残ってしまったようで、スタッフさんがエプロンを握りしめて泣いている。マスターが、その肩を抱いて、一緒に耐えている。
「お分かりになりましたか……」
メイドさんがマスターと同じように肩を抱いてくれている。
「焼け死んじゃったんだね、お父さんが買ってくれた子ネコ」
「はい、けして忘れちゃったわけではないんですよ」
「……」
涙で前が滲むと。ペットショップは元のスマホショップに変わっていた。
「確かめるって、このことだったんだ」
「事実を知っても耐えられるお歳になったんですよ、お嬢様」
ふと顔をあげると、メイドさんはポニテではなくツインテールに変わっている。
「あ、あなたは!?」
そいつは、ペコリお化けの代わりに現れるようになったメイドお化け!
「だいじょうぶ、今日はお守り石持ってるでしょ。交換手さんにも言われてるし。今日は良い子のメイドなんです」
そういうと、肩に置いた手を下ろし、ゆっくりと後ずさっていく。
「でも、いつも良い子とは限りませんからね……いってらっしゃいませ、お嬢様」
美しくお辞儀をするとメイドお化けは消えていった。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け