やくもあやかし物語・96
お婆ちゃんがお風呂にいくのを見計らって、お爺ちゃんが寄ってきた。
「言い忘れてたけど、ピストルの銃口は覗いちゃいけない」
「そうなの? 壊れてるし、弾も入ってないけど」
「万一ってことがある」
「う、うん」
「人に向けてもいけない」
「うん」
「向けていいのは、ちゃんと装備したサバゲーの時だけだ」
「サバゲー?」
並んだサバをエアガンで撃ってるとこが頭に浮かんだ。
「ゴーグルとかプロテクターとか装着して、きちんとサバゲーのフィールドって決められたとこだけさ」
「うん」
「それから、セーフティーなんだけど……」
背中に手を回すと、どこに隠していたのか自分のコルトガバメントを取り出した。
「これがセーフティー、安全装置だ」
グリップの上の突起を示した。
「こいつを上に上げるとロックが掛かって、引き金も撃鉄も動かない。遊ばない時は、必ず上の方に上げてロックしとく。それからグリップのとこ、握ると親指の根元に当るところもセーフティーなんだ。ほら……グリップを握らないと引き金、動かないだろう」
「なるほど……」
部屋に戻って、さっそく自分のガバメントを確認。
カチャ カチャ
セーフティーを動かしてみる。
ガシッ!
上のとこを引いてみる。
雰囲気だよぉ(#^▽^#)……ガンダムが準備動作してるみたいな、あるいは、宇宙戦艦ヤマトが波動砲発射の直前みたいなカッコよさ。
お爺ちゃんは、安全のために説明をしてくれたんだけど、弄ってみると、逆に高揚してくる。
なんだか、逆に、心のセーフティーが外れて行ってしまいそう。
人に向けてはいけないので天上の隅に銃口を向けてみる。
パン!
ビックリした(*_*)!
それまで、パスパスとしか鳴らなかったのが、しっかり吠えた。
周囲から視線を感じる。
机の上のフィギュアたちや、壁のアノマロカリスたちが目を剥いてる。
「アハハハ……ごめんね(^_^;)」
セーフティーを掛けて、机の上……フィギュアたちがギョッとする。
仕方がないので、グリップを握ったままベッドに寝転ぶ。今夜は、このまま寝てしまおう。
プルルル プルルル
黒電話が鳴って、慌てて受話器を取る。
「もしもし……」
『寝てるところをすまない』
この声は俊徳丸。
『そのコルトガバメントを持って、すぐに来てくれないか』
「え、なんで(知ってるの)?」
『詳しく言ってる暇はない、すぐに!』
「う、うん」
ベッドの足元を見ると、もう例の自動改札が現れていた。
改札機の向こうは、わたしをせかすように黄色い灯りが明滅している。
机の上に目をやると、黒猫のチカコが露骨に視線を避けるけど、無視してポケットの突っ込む。
ヒエー
チカコの悲鳴も無視して、イコカを改札機にあてるわたしだった。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸