大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・057『演舞集団・北大街』

2021-07-27 09:41:33 | 小説4

・057

『演舞集団・北大街』 児玉元帥   

 

 

 先祖は神戸の華僑でしてな……

 

 孫大人は問わず語りをし始めた。

「従兄が残って貿易会社をやっておったのですが、息子を残して亡くなってしまったので、しばらく神戸に住んで面倒をみてやることになって、あなたたちと同様、地球に向かうところです」

「それは奇遇ですね(^口^)」

 調子を合わせておくが、見え透いた嘘だ。

 真っ当な商売なら、ラスベガスの船などには乗らない。私達同様、ウソで塗り固めた経歴と旅行目的だ。

 だいいち、孫大人の先祖が神戸の華僑だったなんて、聞いたこともない。

 孫の先祖は、満州馬賊だ。

 袁世凱のブレーンを振り出しに、国民党、中共時代には台湾に足場を置きながらも、深圳で財を成し、香港、上海、瀋陽に拠点を分散、どこがこけても、実質を失わないように立ちまわっていた。

 瀋陽が奉天と改称したのは孫大人の父親の功績だと言われている。名は体を表すで、その後満州が独立したのは、この改名が大きかったと言われている。

 北大街が奉天一の歓楽街になり、満州戦争直前まで発展を遂げられたのも、孫一族の力だ。

「神戸では、なにを扱っておられるんですか?」

「いろいろです、餃子の皮からパルス兵器まで、その時その時儲かりそうなものを薄く広く」

 コスモスの質問に大きく応える。

 この答えに嘘は無い。孫大人というのは、そう言う人だ。

 こだわったのは北大街の流行り廃りのことだけで、肝心の商売にこだわりは無い。

 一つの分野で程よく儲けると、さっさと違う分野に鞍替えして、人の恨みを買わないようにしている。

 もっとも、孫大人の『程よく』は、並みの貿易商の『大儲け』のスケールなんだがな。

「それで、今は、なにを手掛けておられるんですか?」

 水を向けると、孫大人は少年のように頬を赤らめた。

「演舞集団『北大街』です」

「プロモーションですか?」

「ハハハ、芸術の事は分かりませんが、良し悪しは分かります、これはというものに肩入れして……まあ、趣味のようなものなんですが、あ、ちょうど出番だ。わたしのイチオシです、観てやってください!」

 ステージは満州を思わせるような平原のホログラムを俯瞰している。

 徐々にカメラが下りてくると、二組の鉄路が見えてくる。

 アップになって来ると、上りと下りから列車が走って来る。

 アジア号だ。

 シュッシュッシュッシュッシュッシュッ……

 長距離ランナーの息遣いを思わせる蒸気音がし始め、列車が交差したところで最大になる。

 ポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 二編成の列車が汽笛を鳴らしてすれ違う!

 満鉄の列車は編成が長い。

 二十秒ほどたっぷりとアジア号の豪快さを堪能させてくれて、すれ違った瞬間、踊り子が現れた。

 踊り子は蹲っていて、遠のく列車の音に反比例して身を起こしていく。

 その姿は、蒸気機関車をモチーフにした黒い意匠で、要所要所に金筋や赤線が走っている。

 まるで、アジア号がすれ違うことで産み出した蒸気機関車の妖精のようだ。

 列車の遠のく音は、しだいにドラムのトレモロのように大きく忙しくなってくる。

 それに合わせて、踊り子は、ステップを踏み、旋回し、大地を寿ぐような笑顔を振りまきながら、フリの大きいダンスパフォーマンスに昇華していく。

「見事ですね……」

 お世辞でなく、コスモスが感嘆する。

 

 これは……見た事がある……

 

 いや、見た事があるどころではない。

 身体の奥の方からこみ上げてくるものがあって、体が踊り子と同じリズムを刻んでしまう。

 タン タタタン タン タタタン タタタタタン……タン タタタン タン タタタン タタタタタン……

 これは、このわたしのボディーがJQであったころの。

 いかん、よほど抑制しなければ、自分がステージに上がって踊り出しそうだぞ(;゚Д゚)!

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ライトノベルベスト(前しか... | トップ | 鳴かぬなら 信長転生記 2... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説4」カテゴリの最新記事