泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
ピンポンパ~ン
―― 一年三組の増田汐さん、一年三組の増田汐さん、伝えたいことがありますので司書室まで来てください ――
学食を出たところで校内放送がかかって、増田さんは、食べたばかりのランチをリバースしそうな顔をあたしに向けた。
「だいじょうぶ、あたしが付いて行ってあげるから」
増田さんはゴックンしながら頷いた。ほんとにランチが喉元までリバースしていたのかもしれない(^_^;)。
昨日は、あれから学校中を探し回った。
そんなに広い学校じゃないけど、落とし物の本を探すのには十分すぎるほどに広い。
探し回ったお蔭で、オリエンテーションでは覚えきれなかったゴミ捨て場や、いろんな準備室や倉庫の位置を覚えてしまったけどね。
でも、増田さんが失くした図書室の本は見つからなかったんだ。
それが、あくる日の昼休み、図書室から指名の呼び出し。
「探し回ってるの、みんなに見られてるから、きっと叱られるんだ……(#'∀'#)」
あたしは別の可能性を思ったけど言わなかった。増田さんは、ちょっと鍛えられた方がいい。
あたしが付いて行ってあげなかったら、彼女は、そのまま校門から飛び出して二度と学校に来ることはなかっただろうと思うよ、大げさじゃなくて。
スーパーで買ってきた玉子からヒヨコが孵ったらビックリするよね。そのヒヨコが、早手回しにフライドチキンとかになたら、もうビックリのしようもないよね。
そんな展開になって来た。
「拾ってくれた人が居たの!」
あたしの予想が当たった。けど、友だちの礼儀として「ほんと!?」と驚いてあげることは忘れなかったよ。
「「よかったよかった! よかったよ!」」
図書室前の廊下で、二人ハグしながらピョンピョンした。
「でね、今から拾ってくれた人にお礼を言いに行くの!」
学食前のリバース顔から完全にリバースした笑顔で目をキラキラさせながら増田さんは宣言した。
「三年生の鈴木さんて男子生徒なの♡」
初対面の人間に一人で会いに行けるような子じゃないんだけど、『耳をすませば』妄想に陥っている。「付いて来て」とは言わずに、いそいそと階段を上って行ったよ( ´艸`)。
喜んであげるべきなんだろうけど……後姿が小さくなってうちに、なんだかムカついてきた。
渡り廊下通って本館へ、そして階段を下りる。本館の二階は三年生のフロアーだ。
こういう時に気取られる妻鹿小菊じゃない。
あたしは、階段上がったところの壁に背中を預けた。
反対側の壁には身の丈の姿見があって、そこに写ってる増田さんと三年の男子を偵察。
―― ウ……なんだかいい雰囲気じゃん ――
そろって左と右の横顔を向けている二人はドラマのカップルみたくよさげだ。
―― 鈴木って云ったっけ? ちょっといい感じじゃんよ…… ――
しばらくして、こちらを向いた鈴木の正面の顔を見てブッタマゲタ!
ゲロゲロლ(‘꒪д꒪’)ლ
それは、腐れ童貞の悪友のノリスケではないか!
そうだ、ノリスケの苗字は鈴木だった。
なんちゅうリバースなのよ!
☆彡 主な登場人物
- 妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
- 百地美子 (シグマ) 高校二年
- 妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
- 妻鹿由紀夫 父
- 鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
- 風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
- 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
- ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
- ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
- 木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
- 増田汐(しほ) 小菊のクラスメート