大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・128『府立戦史資料室黒書院分室』

2022-10-08 16:15:30 | 小説4

・128

『府立戦史資料室黒書院分室』心子内親王  

 

 

「たぶん、加藤恵のソックリさんに会うことになりますから、説明しておきます」

 

 船長(アルルカン)の説明が無かったら混乱していたと思う。

 加藤恵とはメグミさんのことで、メグミさんは西之島のラボでは一番の研究員。島にいる間は、ずっとメグミさんの助手をしていたわたしは、アパートも同じフロアだった。

 サーターアンダギーが大好き、それも沖縄の黒糖のやつ。

 そのサーターアンダギーを那覇まで買いに行った先で、サンパチさんと、その上を行く船長(アルルカン)の計略にかかって火星まで来てしまった。

 ミク(緒方未来)さんは、ほんとうにメグミさんにソックリ。いや、メグミさんがミクさんにソックリなんだ。

 メグミさんは天狗党に居たころ、火星へ潜入するために修学旅行中のミクさんからパスポートを奪い。細胞レベルまでミクさんに擬態して、まんまと扶桑将軍の側近くまで近づくことができた。

 そこで何があったのかメグミさんは火星を脱出、擬態を解くことができずに西之島に流れ着いた。

「まあ、ソックリさんに出会うことになるけど、ビックリはしないでね」

 船長の注意に「大丈夫です!」と胸を叩いたけど、じっさい会ってみると予想の十倍ビックリしたわ。

 気取られなかったのは……たぶん、わたしの血なんだと思う。

 

「しばらくは、ここの整理をお願いします」

 

 あくる日、将軍に連れていかれたのは府立戦史資料室の黒書院分室。

 黒書院とは将軍の日常生活の場。つまり将軍の個人的な生活の場に戦史資料の一部が運び込まれていている書庫のようなところ。

 書庫といっても、800坪あまりの『お庭』と呼ばれる将軍の個人的な庭に面していて、今どき珍しいアナログブラインドを開けばテラスの向こうに静かな回遊式庭園が臨める。で、ちょっと懐かしい。

「……伯母の庭に似ています」

 テラスに立って庭を眺めて、正直な感想が口をついた。

「伯母……き、今上陛下ですか?」

「はい、伯母と言えば、そうなります」

「あ、いや、いやはや、そうなんですか(^_^;)」

「あ、すみません、ちょっと不用意でした」

「いえいえ、そんなことはありません。畏れ多いことなので、ちょっとびっくりしただけです」

 将軍という名称の通り、火星の扶桑国は幕府の体制をとっている。大臣は老中、次官は若年寄、省庁は○○奉行という風に、幕府ならではの名称を使っているし、将軍の官邸は、そのまま時代劇のロケに使えそうなお城の姿をしている。

 これは、火星の扶桑国はあくまで幕府であることを内外に示している証拠。

 初代将軍は皇族の一仁親王。

 親王である限りは皇位継承権が五代先の子孫まで保証されているということで、見方によっては、いつでも日本国の帝位をうかがえることにもなる。

 そういう南北朝のような事態を絶対に起こさないために、扶桑という姓を賜って臣籍降下して幕府を起こされた。

 不退転の独立の気概でもあるし、地球の日本国と対立する存在ではないことを、痛々しいまでに示している。

 だから、庭一つでも天皇をにおわすものは禁忌に等しいんだ。

「いえ、回遊式庭園は小堀遠州とかが始めたとか、武家の文化ですから、真似っこは伯母の方です。うん、今度会ったら言っておきます(^_^;)」

「恐れ入ります(-_-;)」

「それで、お仕事は、この中なんですね?」

「はい、どうぞ、こちらへ……」

 入ってびっくり。

 分室はアナログ資料が天井まで積んである。

 いちおう、書架の体裁にはなっているんだけど、ほとんどが未整理の一次資料。

 これの整理って……ちょっと気が遠くなる。

「出来る範囲でいいんです。全てマース戦争の時の戦時資料です。ざっくり地域別になっていますが、時間軸的な考察も必要かと思っています。一つの事件や戦いがあった時、それぞれの場所で、どんなことが起こり、どんなことを感じたか、考えたか、どんな生活をしていたか……そんな具合です」

「やり甲斐がありそうですね」

「全部やろうなんて考えなくていいんです。扶桑や火星の住人がやると、どうしても当事者ですから偏りが出てしまいます。殿下に糸口を付けていただければ、それを元に整理や考察ができます。いわば資料整理の水先案内をやっていただければと、そんな感じです」

「承知しました。微力ですが、力と時間の及ぶ限り務めさせていただきます」

「助手はサンパチが、調査などで城外に出られるときは胡蝶が付き添わせますので、お気軽に声を掛けてください」

 それから、ハンベに通信アプリを入れてもらって、心子放浪記の火星編が始まったよ。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

  


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