大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ホリーウォー・5[スグルのメモリーを集める・3]

2021-07-15 06:18:59 | カントリーロード
リーォー・5
[スグルのメモリーを集める・3]  



 
 
「コンドミニアムにして正解だったな」

 最終日の朝、朝食を摂りながらサブが言った。むろん中身は言葉通りでは無い。最終日だから気を抜くなという意味が籠っている。

 コンドミニアムなので、キッチンや洗濯機が付いており生活に関わることは自分たちでやる宿泊施設だ。
 
「はい、今朝はミナがつくりましたよ~(^▽^)」
 
 六歳になったばかりのミナはプルプル震える手で、スクランブルエッグの大盛りをテーブルに運んだ。
 
「すまんな絵里、煩わせたんじゃないのか」
 
「いいえ、わたしは傍でひかえていただけですから」
 
「ハハ、そうか。じゃ、みんな、ミナ六歳初の朝食。元気付けて一日楽しもうか(^_^;)」
 
 ちなみに、ひかえるとは、サブやスグルの業界用語で、新人の初出撃をサポートし、重大なミスやトラブルがおこらないようにすること。
 要は守り役。場合によっては新人をカバーし、作戦にほころびが出ないように自分が犠牲になることもある。
 
「ハハ、六歳最初の任務としては上出来だ。ミナちゃんは良いお嫁さんになれるぞ!」
 
 スグルが大げさに誉めると、ミナは照れながら六才相応の笑顔になった。

 メンバーは、サブ親子の他、絵里とスグルが友だち夫婦、ヒナタが絵里の妹という五人編成。同じコンドミニアムの別棟には、警護役で三組八人が控えている。

 この五日間、なにも起こらなかった。
 
 統合幕僚長の指示で、ヨコアリで偽装公開ということでハワイで過ごしている。

 今日一日無事に過ごし、明日の飛行機で日本に帰れば、統合幕僚長の取り越し苦労で終わるはずだ。
 
 朝食の後は、スグルが運転するRV車でワイキキに隣接するビーチに向かう。
 
 ハワイの朝は、冷房を切って窓を開けているだけで爽やかな風が車内を駆け巡る。
 
「ねえ、今日は、あの海賊島に行ってみようよ!」
 
 車の中でミナがせがんだ。
 
「ようし、分かった、今日はみんなで海賊島の探検だ!」
 
 一呼吸の間をおいてサブが父親らしく応えた。海賊島は夕べミナがグーグルアースで見つけた無人島だ。
 
 一呼吸の間に別働隊が「下見実施」とサングラスに仕込んであるマイクから答えていた。
 
 別働隊の車が、一度パッシングをして五人の車を追い抜いていく。
 
 ビーチに着いた時には別働隊から「異常無し」の報告が入った。

 
 
 小学校一つ分ほどの島は、なんの変哲もない無人島だが、それなりに岩場や森、人工ではあるのだろうが滝まである。

 海に浸かっているだけの海水浴に飽きた観光客たちが楽しめるアミューズメントスポットのようになっているのだ。
 
 舵輪を握っているスグルは、念のためクルーザーで島の周りを一周した。
 
 島を一周探検したあとはクルーザーのデッキでバーベキュー。
 
 ほんとうは砂浜でやりたかったが、景観保全のため海岸でのバーベキューは禁止されているのだ。
 
「残念。玉子があったらスクランブルエッグこさえてあげるのに」
 
 ミナが残念そうに腕組みをしたので、みんなが笑った。
 
「最後に、あの岩山で写真撮ろうか」
 
 言いだしたのはサブであった。
 
「じゃ、20秒の動画で撮りまーす。みんな楽しそうにね!」
 
 絵里が、岩場の端でスマホを構えた……その瞬間、岩場の岩が10個動き出したかと思うと人の姿になって五人を襲った。
 
「一体でもいい、破壊せずに確保しろ!」
 
 敵は岩に擬態したアンドロイドだった。戦闘は5秒あまりで終わった。敵三体にダメージを与えたが、絵里が腕をやられた。
 
「どうやらヒナタと間違われたようです」
 
 生体組織の出血がひどく、よく見ると内殻まで損傷していた。
 
「海岸まで行って米軍のレスキューを呼ぼう」
 
 サブの判断で、クルーザーは本島の海岸を目指した。海岸は大騒ぎになった。
 
 別働隊も加わり、現場の混乱を制止にかかったが、10人ほどの人数ではさばききれなかった。その中から遠慮のない複数のセンサーが照射されているのが分かったが、0・1秒刻みで所在が変化するので、特定に時間がかかった。
 
 三体のアンドロイドを確認したところで、ノーマークだった方角から水鉄砲に偽装したパルスガ銃を持った少年が飛び込んできた。

 いち早く気づいたのは6歳のミナだった。

「危ない!」
 
 ミナは、リュック型の簡易ガードを構えながら、ヒナタの前に飛び出した。
 
 ズビューーン!
 
 少年の撃ったパルスガ弾は簡易ガードで減殺されたが、ミナの肺を貫通し、ヒナタの胸の生態組織を傷つけた。
 
「ミナ!」
 
 サブは叫びながら、少年の頭をぶち抜いた。少年は頭を粉砕された体のまま逃げ出した。
 
「やつの電脳は胸だ!」
 
 スグルが叫ぶと、数発のパルス弾と一発の古典的なマグナム弾が少年の胸をぶち抜いた。
 
 マグナムを撃ったのは地元の警官だった。警官は少年型のアンドロイドの胸に開いた大きな穴を満足そうに見た。至近距離からのマグナムの威力は、殺す、破壊するという点ではパルス銃の上をいく。

「わたし、ちゃんとオネエチャンのひかえになれた……」

 苦しい息の下からミナが聞いた。
 
「ありがとう、ミナちゃんのおかげで、あたしは無事だよ」
 
「よかった、任務完了だね……あたし、6歳なんだもん……」
 
 サブの腕の中で、ミナは息を引き取った。6年と12時間あまりの人生だった。

 ヒナタはサブの悲しさと、スグルの強い悔しさを感じることができた……。

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