ライトノベルベスト
バナナストッカーというのを知っているだろうか。
スタンドの形をしていて、一番上にバナナの房の股をひっかけて、バナナが自然に生っているのと同じ状態で保存する簡易な装置である。これにぶら下げておくと倍は長持ちする。
このバナナストッカーを教えてくれたのがジェニファだ。
ジェニファと最初に出会ったのは、PTA総会のために学校が半日で終わった日だった。
駅前で、匂いに釣られてバナナクレープなんぞという女子系の食い物を買って、のんびりと家まで歩いていた。
で、目が合った。
ボクはバナナクレープなんぞという女子系の食い物を持っていたので、どこか座って食べられるところを探していた。公園のベンチがいいかなと、公園の前で足が止まった。
で、見てしまった。
女の子が、制服のまま鉄棒にぶら下がり、短いスカートが風にひらめいて一瞬パンチラになった。
「アハ、見えちゃった(^_^;)?」
「え……あ、その(;'∀')」
それが最初だった。
ジェニファは、とても可愛かった。
そのあとすぐにベンチで隣同士で座って、バナナクレープを半分ずつにして食べた。
べつに可愛いからとか、ヨコシマナ気持ちがあって、そうしたんじゃない。
気づいたらそうなっていた。で、クレープを食べている姿を見て可愛いと思ったんだ。
制服から、隣町の女子高の子であることはすぐに分かった。日本とフィリピンのハーフで、親の仕事の都合で日本にやって来たばかり、今日初めて登校したらしい。
可愛いさは、時に同性からは嫉妬交じりのヤな目で見られる。ジェニファの生来の明るさも災いしているらしい。確かに初対面の男子高校生にパンチラ見られて、数十秒後には並んでバナナクレープをシェアしているんだからね。
「なんで、鉄棒なんかにぶら下がってたの?」
「健康にいいんだ。うち、フィリピンでバナナ農園やってたの。バナナってぶら下げとくと、いつまでもみずみずしくって長持ちするんだよ。だから人間もときどきぶら下がると健康にも美容にもいいの。佑(たすく)もやってみるといいよ」
二日後に、また会った。
例の公園で同じようにぶら下がっていたけど、今度はAKBみたいにヘッチャラパンツを穿いていた。
今度は、前よりもいっぱい話した。家のことや学校のこと、どうも学校では孤立し始めているらしかった。
そしてバナナストッカーをくれた。
プラスチック製の簡易型なんだけど、それだけバナナを身近に感じさせて、食べてみようという気にさせる。
家で、さっそく試すと、確かにバナナのもちが違った。一週間たってもみずみずしい。
「あたし、佑より少し年上……いろいろあったからね。だから日本に来たら高校二年生。それでね……」
三度目は、前の倍くらい話した。もちろんボクはバナナクレープを二人分持って行った。
そうして、一か月ほど楽しく時間が過ぎた。
その日、いつものようにクレープ持って公園に行った。
いつもの鉄棒のところにジェニファーの姿は無かった。
「あれ……」
周りを見渡すと、植え込みの木々の間に見慣れた脚が揺れているのが見えた。
ジェニファは、手ではなく、首でぶら下がっていた。
一瞬驚いたけど、すぐに平気になった。
ジェニファは、まるで昼寝をしているように安らかだった。よだれも鼻水も垂らさず失禁もしていなかった。
どう見ても、いつものぶら下がり。それが手ではなく首だというだけのことのように思えた。
ボクはジェニファが目覚めるのを待った。
今までのジェニファとの話が思い出される。
けっこうミゼラブルなんだけど、ジェニファが話すと明るく面白く感じた。
ちょっとひっかかった。初めて会った日、ボクが名乗っていないのに、ボクの事を佑と呼んでいた。
「ねえ、ジェニファ……」
見上げたところには、もうジェニファの姿は無かった。