やくもあやかし物語・85
おばあちゃん、虫刺されの薬ないかなあ?
「あら、虫に刺されたの?」
「ううん、これから刺されるかもだから」
「フフ」
ちょっと笑うと、薬箱から虫よけスプレーとかゆみ止めの薬をくれた。
「あまり、無茶しないでね」
「うん」
ここに越してきてから、いろんな事があったんだけど、お爺ちゃんも、お婆ちゃんも、お母さんにも気づかれていない。
それよりも、引っ込み思案だったわたしが、キチンと学校へ行けてるのが嬉しいんだ。
わたしの周囲には、あやかしとかが一杯いて、けっこう危ないこともあったりすることには気づいていない。
電話がかかってきたのは、お地蔵さんのところから帰ってきて三日目だった。
ネットで、1/12サイズのフィギュア用のあれこれを見ていた。
むろん、机の上には黒猫姿のチカコ。
チカコは1/12サイズで、いつもは絨毯に見立てたマウスパッドの上に付属の椅子に座ったりしている。
ネットというのは恐ろしいもので、どこで知ったか『1/12フィギュアのグッズをお探しですか?』なんてメールが入ったり、サイトの広告なんかに出てくる。
見ていると、色々あるのでビックリ。
生徒会室にあるようなゼミテーブル、パイプ椅子、教室の机、朝礼台……おトイレなんてのもある。
「お風呂のセットがあるよ、お湯を入れたら本当に使えそうだね」
ユニットバス 洋式のバスタブ 檜ぶろ
「こんなむき出しのお風呂じゃ入れないわ」
たしかに、映画のセットみたいで、壁は奥と左横にしかなくって、丸見え。
「自転車とかどう?」
「どれどれ……」
「ダイキャスト製で、ほんとにペダルでタイヤが回る!」
「うち広いから、廊下とか走ったら面白いかもね(^▽^)」
本当に買う気持ちはないんだけど、ウィンドウショッピングみたいで面白い。
サイドカー付きのバイクで盛り上がっている時に電話が鳴った。
『俊徳丸さんからお電話です』
交換手さんが取り次いでくれて、俊徳丸が出てくる。
チカコがひょいひょいと肩に乗って、いっしょに聞く。
ちょっと緊張。
『もしもし、初めてお電話します。高安の俊徳丸です』
アニメのハンサム声優みたいな声。
「は、初めまして! 小泉やくもです!」
声が弾んでしまう。
『とりあえず、ご挨拶と思って。よかったら、ちょっとだけ、こっちにきませんか?』
「え、今からですか?」
『お地蔵イコカなら、あっという間です』
――いこいこ!――
チカコが口の形だけで言う。
「分かりました、スグに行きます!」
チカコを肩に載せたまま部屋のドアの前に立つ。
「靴、忘れないでね」
「うん」
ドアの脇に用意してあったスニーカーを持つ。向こうに着いたら、いつでも履ける態勢!
「いくよ!」
「うん!」
ノブを掴んでドアを開ける。
自動改札機がある。
自動改札の向こうは、ぼんやりと霧がかかったようになっていて見通せない。
ゴクリ
お地蔵イコカをかざすと、小さな音がしてバーが開く。
どこにでもある自動改札なので、本能的に前に進む。
「「うわ……」」
あっという間に霧っぽいものが晴れて、VRゴーグルをつけたみたいに世界が広がる。
ちょびっと田舎の街角みたい。
三メートルほどの道路がカギ型になってるみたいで、カギ型の角にお地蔵さんの祠。
『シラミ地蔵』
立て札が目に入って、虫よけの入ったポシェットを思わず探る。
すると、祠の向こうから、人影が現れて口をきいた。
ようこそ、俊徳道へ(o^―^o)!
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ)