「反日種族主義との闘争」に記述されているいくつかの事柄から、今回は韓国大法院が新日本製鉄に対し4名の原告に強制動員被害慰謝料を支払うよう命じた判決を取り上げる。
この判決の論点はいくつかあり、本書はその論点の誤りを逐一指摘している。
判決の主張の一つである「旧日本製鉄が訴訟原告たちを日本に労務者として連れていき、仕事をさせたのは反人道的不法行為である」の根拠は、「日帝強占期の日本による韓半島支配は不法な強占だった」である。
大法院は就労形態がどうであれ(原告4名全員が応募で就労した)、植民地支配が不法だったから、朝鮮人労務者を日本の製鉄所で働かせたことが不法行為だったというわけだ。
この点について、本書は次のように述べている。(赤字)
日本の植民地支配が不法だというのは、彼らの一方的主張に過ぎません。韓日併合は、大韓帝国の主権者である純宗が国権を日本の天皇に譲渡したことで成立しました。・・・純宗は国権に対し、そのときもそれ以後も、反対の意思を表したり、無効だと主張したりしませんでした。これは、国権所有者が自身の意思で国を明け渡したことを意味します。
この部分を読むと、本書は「大韓帝国は国権を日本に譲渡したのだから、日本の朝鮮併合は合法だった」と主張しているような印象を受けるが、本書の論点はそこではない。次の文章(赤字)をご覧頂く。
私は「植民地支配は合法であり正当だったと主張しているのではありません。韓日国交正常化を韓日両国がこの問題をどのように扱ったのかを述べているのです。植民支配が合法か不法か白黒つかなかったため、韓日両国はそれを論議の外に置き、そうやってその件を乗り越えることで国交を正常化したのです。
条約とは、両当事国の合意で締結するものです。半世紀の後に「植民支配は不法だったから、当時の〇〇は不法である」という主張を学者がすることは許されます。しかし、一国の司法部がそのような主張を採択し、相手国の国民に賠償を命じることはありえません。これは国交正常化以前に戻ろう、と言う意味にしかなりません。
すなわち、本書は「日韓両国は、併合の合法性についてはあえて結論を出さず、国交正常化を優先したのだから、大法院も国交正常化が行われた事実を大前提とすべきである」と主張しているわけだ。爺はこれを卓見だと評価する。
個人請求権については、本書は次のように述べている。(赤字)
会談において、韓国側が日本側に提示した対日請求八項目のうち、第五項には「被徴用韓国人の未収金,補償及びその他請求権の返済要求が入っています。「徴用による精神的被害に対する慰謝料」は、この「その他請求権」に含まれます。当時、韓国は日本に、被徴用者の一人当たり200ドルの補償を請求しました。日本は韓国の要求を拒否しました。結局韓日両国はこの補償問題を、個別請求権の金額を合算せず、一括して無償3億ドルとすることで落着させました。この3億ドルには被徴用労務者補償金が含まれていた、と見なさなければなりません。
爺は下線部分に疑義がある。爺の(というより、日本人の一般的)理解では、日本側は「賃金未払いなどの個別補償は日本政府が各個人に支払いましょうか?」と言ったのに対し、韓国側が「全部一括して韓国政府に支払ってください。韓国政府が別途対応します」と言ったはずである。だから、この部分に関しては納得しないが、「この3億ドルには被徴用労務者補償金が含まれていたと見なさなければなりません」という結論には異論ない。
さて、9月18日の産経新聞に掲載された本書の編著者である李栄薫氏のインタビュー記事の一部を引用する。(青字)
産経:日本政府は「請求権問題の『完全かつ最終的』な解決を定めた日韓請求権協定に明らかに反している」との立場だ。
李栄薫:その通りだ。未払い賃金の支払いを求めるなら、最初から協定に従い自分の国(韓国)を提訴すべきだった。
李栄薫氏のこの意見には、韓国人でも道理をわきまえた人なら同感するのではないか。大法院の判決は国民情緒(および文大統領)に迎合した結果だと考える。もっとも、韓国の裁判はそんなものかも知れないが・・・(笑)。