ドイツのベルリン市ミッテ区の公道に設置されていた慰安婦像に関し、茂木敏充外相がドイツ政府に撤去するよう要請し、最終的に区長が韓国系市民団体に撤去命令を出した、と報道された。
この問題に関し、韓国の政治家やマスコミが韓国政府の対応が手緩いとして非難しているが、政府はこれまで「慰安婦像設置は民間が勝手にやったことなので、政府は関知しない」という立場を取っているから、政府が介入できないのは当然である。
日本はこの論争には高みの見物でいいのだが、韓国人が並べている理窟の中に面白いものがあったので、取り上げる。情報の出所は日本在住の韓国人評論家シンシアリー氏のブログで、対象となった記事は聯合ニュースの発信である(赤字)。なお、爺が笑ったのは下線を施した部分。
2015年の慰安婦合意は、日本軍慰安婦問題の無条件的な解決を明らかにしたわけではなく、両国は、被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の治療のための事業の誠実な履行を前提とした。合意時に議論された在韓日本大使館の前という特定の場所の問題を別にすれば、慰安婦像の設置自体は、両国の合意の精神に合致する事業だと評価する余地がある。被害者が経験した人権侵害と戦時性暴力の惨状を世界に知らせ、これを歴史の教訓にできるからである。
これに対し、リー氏はそのブログで次のように批判している(青字)。
妙な主張です。「被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の治療のための事業の誠実な履行」が慰安婦合意の前提だから、ドイツに慰安婦像を建てるのは慰安婦合意に合致している、と。
しかし、「被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の治療のための事業の誠実な履行」となっているのは何なのかというと、慰安婦財団を作って運用することです。だから『事業』となっているのです。そして、その事業を行う財源の設立のために日本が10億円を出捐し、財団の運用は韓国が行う。前提というなら、これが前提でした。そして、これで不可逆的に解決した、と合意しました。
ですが、その財団を解体したのが韓国です。慰安婦合意の『前提』となる財団を解体して、他国に慰安婦像を作り、管轄自治体から『これは明らかな反日だ』と言われて、撤去されることになった。それが今の状況です。「被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の治療のための事業の誠実な履行」を解体させたのが韓国なのに、今になって何を言っているのでしょうか。
リー氏の主張は、客観的に見て正鵠を射ていると思われる。それはそれとして、爺の所感を述べたい。
●よくまぁ、自分たちに都合のいい屁理窟を考えつくものだ。連合ニュースのライターともなれば、慰安婦問題には精通しているはずだが、そういう人物が“慰安婦像は両国の合意の精神に合致する”と言うのには、口アングリである。当時の日韓合意には“韓国政府は慰安婦像の撤去に努力する”という項目があったはずだが、それを忘れたのか。
●ベルリン市の住民からすれば、得体の知れぬ東洋系少女の像を街の真ん中に建てられ、さぞ目触りだったことだろう。今となっては、像建立に賛成した区議会の議員たちは、市民から非難を浴びているのではないか。
●ドイツの地方自治体は、“韓国系市民団体に「これは人権侵害の問題だ」と言われ、「そうか、それなら仕方がない」と安易に像の設置を許可したのだと思う。茂木大臣は詳しく事情を説明したらしいが、基本的には“ドイツの地方自治体は、中立の立場でいていただきたい”という要望を伝えたと思う。
日韓どちらの言い分が正しいかは別として、地方自治体は外国間の紛争に巻き込まれるべきではないことを覚ったことだろう。
●その論理はドイツのみならず、自由民主々義の国ならどこでも通用するはずである。私有地に設置された像には打つ手はないが、公有地なら像を撤去するよう、政府には米国を始めとして像が設置されている諸国に同じことを要請してもらいたい。その点で、日本は先鞭をつけてくれたベルリン市に大いに感謝すべきである。