文芸春秋11月号の目次を見て、最初に読もうと選んだ記事は「野党共闘『政権再交代』に勝算あり、小沢一郎と共に菅政権を倒す」である。筆者は中村喜四郎衆議院議員。同議員は以前、自民党に所属していたが、現在は立憲民主党に鞍替えした。党を変えるに至った理由についてはこう述べている.
「それは自民党がすっかり変わり果ててしまったからです。・・・そして暴走する自民党に対抗できる力を野党につけてもらいたいと考えるに至りました」
では、中村氏は「政権再交代」をどのように進める計画なのか。同氏の主張を文中から引用する。(赤字)
なぜ自民党は衆参選挙で六連勝できたのか。最大の原因は投票率の低下です。安倍政権に不満や不安を抱く人が「投票しても無駄だ」と、投票所に足を運ばなくなった。そうなれば政権与党の組織力がモノをいいます。安倍政権は、国民を無視して選挙に勝てるという異常な構図を作り上げたのです。
中選挙区最後の選挙となった93年と前回3年前の選挙を比べると、投票率は67.26%から53.68%になっており、13.58ポイントも下がっています。票数に換算すると14,444,000票。1500万人に近い有権者が日本の政治を諦めたということにほかなりません。そのうち7割以上が批判票だと思われますが、7%でも投票所に足を運ぶ人が増えたら、とんでもない結果が出ます。だから次の選挙で野党は、こうした有権者に「もう一度だけ選挙に行ってくれ」と本気で訴え、その気概を見せなければなりません。
要するに、中村氏は“自民党の政治に諦めた人が多いから、投票率が下がった。だから、投票率が上がれば反自民の票が増えるはず“と考えているようだ。
中村氏は現状をあまりにも自分たちに都合のいいように解釈していると思う。その理由は次のようである。
●有権者は“政治が変わる”と思えば、これまで棄権していた有権者が投票所に足を運ぶことはあるだろう。しかし、そのためには野党が“われわれは今後〇〇をします”と、政策を語らねばならない。ところが、中村氏の論文には、その政策がまったく述べられていない。8ページの紙数を与えられているのだから、政策を述べることは十分にできたはずだ。
●反自民の旗印を高く掲げ、共産党も含めた野党共闘態勢が固まったというだけでも、これまで棄権していた有権者が投票所に足を運ぶようになることは、多少はあるだろう(実際に、2009年にそういう事態が起きて、民主党は「政権交代」を果たした)。反自民に凝り固まった人々が元気づけられるからである。しかし、それだけで中村氏が期待するような十数ポイントもの投票率アップになることは考えにくい。
爺は投票率の低下は有権者の諦めによるものだという中村氏の説にはある程度は同感するが、投票率を上げるには野党が未来への道筋、つまり政策、を示すことが先決だと考える。
ところで、この論文のタイトルには小沢一郎氏の名前が入っている。しかし、中村氏は小沢氏との関わり合いを述べているだけで、小沢氏が「政権再交代」という大芝居においてどんな役割を果たすのかについては述べていない。文芸春秋の編集部が考えたタイトルだと思うが、誤解を招く表現である。
本論に戻る。爺は現在の自民党政治に不満はない。しかし、一般的には、上述のとおり、“国民は自民党政治に諦めている”という中村氏の主張には、ある程度、同感である。そして、その閉塞感を打破するには野党の奮起が必要だと思う。野党の建設的攻勢があって初めて、与党政権に緊張感が生まれる。批判だけでは、政権のマイナス点にはなるものの、野党のプラス点にはならず、大局は変わらない。
だからこそ、野党には遠からず行われる総選挙に備えて、共闘態勢だけでなく、政策もしっかり磨いてもらいたいのである。