画廊の絵画作品の仕入れ方法はさまざまです。
お客様が作品を売りにこられることもありますし、こちらからお願いしてコレクターさんにご所有の作品をわけていただくこともあります。
私共は主に物故作家を扱っておりますので機会が多いほうではありませんが、現在ご活躍中の先生がたにお願いして新作を描いていただくこともあります。
交換会といわれている画商同士の競りのような場も全国でほぼ毎日のように開かれていますし、一般のコレクターさんにまじりオークションで作品を落札することもこの頃では多くなりました。
画商はそれぞれの扱う作品の種類によって様々な仕入れ方法を使い分けています。
当店はあまり作品仕入れの数が多い画廊ではありませんので新しい仕入れ作品の簡単なチェック、伝票の確認なども短い時間で終わります。
その後 作品を店に飾り 私もそのとき初めて作品をじっくりみることになります。
この時間はとても楽しみではありますが、佐橋は自分が仕入れた作品をこの時はじめて「売り物」として再吟味いたしますので 画廊の仕事のなかでは割と緊張の時間を過ごすことになります。
何を語るわけでもなく 「いいね」とか「好きだな」とか「しばらく見ていよう」・・そんな短い会話が
夫婦でかわされ それぞれの観賞を終えると仕入れの作業が全て終わります。
先日この写真の作品を仕入れました。はじめの事務処理のとき「あれ?誰の作品だろう?面白いなぁ~あとでじっくり見よう」そう思いました。
たまたま額に傷がありましたので、どう直すか?額ごと取り替えるのか?扱いの方法が決めるまでに少し時間がかかると思いましたので 二人でゆっくり鑑賞する時間を特別に設けませんでした。
中野弘彦 (1927年~2004年 山口県生まれ)
は立命館大学文学部哲学科卒業・京都大学文学部哲学科美学美術史専攻卒業の日本画家です。
時代は違いますが 同じように京都大学の哲学科美学卒業に洋画家須田国太郎が居り、やはり美術大学を卒業した画家とは作品へのアプローチの仕方が随分違う感じが致します。
ほおずきにどんなイメージをお持ちでしょうか?
ほおずき、ホオズキ、酸漿、鬼灯、金灯、錦灯籠・・調べてみますとその表記だけでもイメージが随分変わってくるものですね。
浅草のほおずき市の酸漿や子供のころ鳴らして遊んだホオズキとは少し違ったイメージをこの作品からお感じになられるのではないでしょうか?
提灯に見立て お盆の飾りとして使われるほおずきのイメージ。
少し霊性を帯びながら、スッとそこに確かに立っている植物のイメージ。
鬼灯 というほどの 「強さ」はなく 金灯や錦灯籠というほどの 「粋さ」もなくただ静かにそこに「ある」ほおずきのイメージ。
中野弘彦の作品にはいつも存在への深い問いかけを感じます。
「じっくり作品を見て楽しもう!」そう思って楽しみに事務処理を終えた矢先、来店のお客様のお目にとまり翌日この作品にご売約をいただくことになりました。
自分の気になった作品が目の肥えたお客様のもとへ行くことになったのですからこんな嬉しいことはありませんが、スッと来て、スッと消えていってしまった作品に少し「思い」が残ってしまったのは事実です。
6月から7月のまさに湿った、霊的な 季節の 作品との出会いとお別れでした。
中野弘彦の作品は以前よりお安くなっているように思います。
より沢山のお客様にご鑑賞いただけますよう、次回の仕入れのチャンスをじっくりと待ちたいと思っています。
※ 中野弘彦 10号 「静閑の時」(ほおづき) お客様に納品させていただきました。